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『ツインクロス』番外編  作者: 龍野ゆうき
7.報復の魔の手
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番外編:『ツインクロス』『プリズム!』後日談

夏樹の兄である冬樹は、あの事故以来ずっと世話になっている九十九つくもに恩を返すつもりで日々仕事の手伝いに勤しんでいた。



九十九は、この国ではトップレベルの実力者である。


表に顔や名は出ていないものの、政界や警察関係者等の間では、その名を知らぬ者はいないとさえ言われており、彼を敵に回したならば、この国に居場所はなくなるという噂まである程だ。


現在は高齢になり、島で隠居暮らしをしているただの老いぼれだと本人は言ってはいるが、未だに彼の元へ国家レベルの重要案件の相談や様々な依頼が来ていることを冬樹は知っていた。


その九十九の下で、手となり足となり秘密裏に行動している並木と共に、冬樹もまたその助手として動いていた。


先日も、ある暴力団と警察関係者の裏の繋がりを暴き、数人捕らえたばかりだった。



そんなある日。



バタンッ


事務所のドアが勢い良く閉まる音が聞こえて、パーティション越しに振り返った冬樹は、そこに並木の姿を捉えると笑顔で声を掛けた。


「お疲れさまです!並木さんっ」


だが…。



「悪い、冬樹。ヤバイことが起きた。嫌な情報が入って来たんだ」



普段とは違う険しい表情を見せている並木に、自然と冬樹も不穏な空気を察して表情を引き締める。


「嫌な情報って…。いったい、何があったんですか?」


並木は硬く険しい表情のまま一呼吸置くと、冬樹の目を真っ直ぐに見つめ、意を決したように語り出した。


「先日、上に引き渡した奴等の残党が、まだ残ってたみたいなんだ。それで俺らのことを相当恨んでるらしくて、アイツら卑怯な手に出てきやがった」


並木は自分の左掌を右拳でパンチするようにバチンッ…と打ち鳴らすと、悔しげに舌打ちをした。


「そんなの、ただの逆恨みじゃないですか。それって、もしかして組関係の奴等ですか?」


「ああ。そうだ…」


並木は悔し気に歯をギリリ…と噛みしめた。


その並木の尋常でない様子に何処か不穏な空気を感じながらも、冬樹は核心部分に迫る。


「その、卑怯な手っていうのは…?」


「ああ…。アイツら、俺らの身内を調べたらしくて…」


「えっ?…それって…」



嫌な予感しかしなかった。


並木には身内はいない。天涯孤独の身なのだと聞いている。



ならば…?



「悪い…冬樹。夏樹ちゃんが…さらわれた…」


痛々しげに目を伏せる並木の言葉に冬樹は驚愕した。



まさか。


そんな…?



「まだ詳しいことは分からないんだが、俺らのメンツを掛けて必ず救い出すからっ。冬樹…頼むから冷静でいてくれよっ」


ガッシリと両肩を掴まれ、だがまるで自らにも言い聞かせているかのような、そんな並木の言葉に。


冬樹は、ただ呆然と…。僅かに首を縦に動かすことしか出来なかった。



(…なっちゃん!!)







薄暗い倉庫内。


目隠しを外されると同時に夏樹は、ぼやける視界のままに周囲を見渡した。



「ふゆちゃん…。ふゆちゃんは何処っ?」



必死に兄の姿を探す美しい少女の様子に、男たちはニヤニヤと卑下た笑いを浮かべた。


「焦るなよ、お嬢ちゃん。お兄ちゃんなら、これから来るからさ」


「そうそう、あんたを助けに…ね」


制服のまま床に座り込んでいる夏樹を取り囲むように五人の男たちが見下ろしている。


「アイツらには大きな借りがあるんだ。悪いがあんたを有効活用させて貰うぜ」


「……っ」



夏樹は現在の状況を把握するために頭をフル回転させていた。



こいつらは、どうやら並木や冬樹に恨みを持つ者たちらしい。


(ヤバいな…失敗した。私が捕まったことで逆にふゆちゃんたちを不利な状況にしちゃったみたいだ…)



バイトが終わって家へ向かう途中、突然後ろから突き付けられた拳銃。


偽物かな?とも思い、一か八か暴れて抵抗してやろうかと思った所で、「兄貴がどうなってもいいのか?」…という脅しの言葉に思わず動きを止めてしまった。


確かにふゆちゃんは、今危険な仕事を手伝っている。


きっと、様々な恨みつらみをその身に背負ってしまっているに違いない。


これについては全てが逆恨みだけれど、だからこそ、こういうこともあるのかもと思ったのだ。



(だけど…逆に自分のせいで、ふゆちゃんたちを危険な目に合わせるのだけは、絶対イヤだっ)



何とか抜け出してやる。夏樹は意を決した。


幸いなことに、男たちは夏樹を普通のか弱い女の子だと思っているらしい。


手足を縛られたりはしておらず、身動きは何も制限されていない。


しっかり取り囲まれてはいるものの、この人数なら何とかなるかも知れない。


だが…。



(気をつけなきゃいけないのは、さっきの拳銃だ…)



こいつらが、どんな集団かは分からない。


もしも組関係や何かだとしたら、それが本物だということもあり得るのだ。


(でも、逆にあれが本物だとしたら…。尚更このまま大人しく言うことを聞いてる訳にはいかないっ)


自分が此処にいることで兄たちが本来の動きを封じられて、もしも怪我をしたり命に関わるようなことがあったら、自分は後悔してもしきれない。



「それにしても、あんた綺麗な顔してるなァ。兄貴は双子なんだろ?やっぱり似ていたりするのか?」


一人の男が膝をついて夏樹の顔を覗き込んで来た。


どうやら、ここにいる奴等は素性を調べただけで冬樹の顔までは知らないようだ。


(…そんな直接面識さえない奴に、ふゆちゃんを恨む権利なんかないっ)


こうなったら、一か八かで暴れてやる。



夏樹は俯いたまま口の端に笑みを浮かべると、拳に力を込めた。



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