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『ツインクロス』番外編  作者: 龍野ゆうき
6.哀れな生け贄
6/9

番外編:『ツインクロス』中盤 夏休み明け辺りのお話

4時限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響くと、同時に各教室からは生徒たちが廊下へ次々と溢れ出てくる。


その大半が学食や売店へと流れて行くのだ。



「冬樹、飯行こうぜっ!」


雅耶と長瀬が教室の後ろの扉前から、声を掛けてくる。


それに手を上げて応えると、冬樹も席を立った。


同様に力もまた雅耶たちの傍へと歩み寄るのを冬樹は目の端で確認しながら、その力の後ろへつく形で学食へと向かって歩き始めた。


…と、不意に力のポケットから何かがヒラリと落ちた。



「?」



冬樹の足元へと落ちたそれを拾いながら「おい力、何か落としたぞ」と言いかけたところで、それが写真であることに気付く。


(何の写真だ…?)


ペラリ…とめくる瞬間、「あっ!」力の慌てる声が頭上で聞こえた。



「え?…これ、なに…」



冬樹は固まってしまった。


「あっあのー…えっと…っ…」


わたわたと落ち着かない様子でいる力。


立ち止まっている冬樹たちに気付いた雅耶と長瀬も何事かと戻ってくる。


「どうした?何かあったのか?」


俯いたまま、固まってしまっている冬樹を心配するように雅耶が覗き込んで来る。


「冬樹チャン、何持って…」るの?と続くところで、その手にあるものを理解して長瀬は顔を引きつらせた。



その手にあったもの。それは…。


今、ここ成蘭高等学校内で大人気のイチオシブロマイド。


冬樹の隠し撮り写真だった。



「これ…。こんなの、何でお前が持ってるんだ?」



冬樹が無表情で力に質問をした。


手には、その写真を持って。


それは冬樹が保健室で清香と話をしている中で見せた笑顔を撮られた写真で、以前長瀬が雅耶に売り付けた中の一枚と同じものだった。


「こんなの」と言って差し出したその写真に、力が何気なく手を伸ばそうとすると、冬樹がサッとそれを引っ込める。



「…答えろ」



冬樹は大層ご立腹のようである。


面と向かって睨まれている力は勿論だが、その写真の存在を知っている雅耶や長瀬も自然と背筋が伸びた。



そんな中、雅耶は長瀬にこっそりと耳打ちした。


「なぁ、お前もしかして力にまであの写真売ったのかっ?」


信じられないという表情で見てくる親友に。


「まさか。断じて俺は雅耶にしか流してないぞ。写真部と繋がりあるって言ったって、俺は売り子でも何でもないし。でも、神岡の奴はどこで手に入れたんだろ?そもそも、この学校のブロマイドの存在を知ってるなんて侮れん奴だ」


長瀬が変に感心しながら言った。



その時、冬樹の追求に白旗をあげた力が、ぽつぽつと話し出した。


「これは、その…写真部の二年生に貰ったんだ。こないだ、ちょっとした縁で知り合ってさ。どうしてもくれるって言うから…その…な?」


いまいちハッキリしない力の言い分に。


不快感をそのままに、次に冬樹は長瀬に話を振ってきた。


「写真部って…。こんなの撮ったりするものなのか?これって隠し撮りだろ?」


「えっ?あー…まあ。この学校のある意味伝統になってるらしいんだけど…。人気のある生徒のブロマイドを写真部が売ってるんだよね」


長瀬が思いのほか嬉しそうに説明をする。


「…ブロマイド??」


冬樹は訳が分からないという顔をした。


「そっ。ブロマイド。聞いた話だと、冬樹チャンのは大層人気らしいよっ♪」


まるで良かったね♪と言わんばかりの長瀬に。


「…嬉しくも何ともない」


冬樹が嫌そうな顔を隠さずに呟いた。



「とりあえず、これは没収な?」



冬樹が冷たい視線を送りながら力に言った。


「えっ?ちょっ…待っ」


思わず名残惜しそうに伸ばして来た力の手を無情にも冬樹が払い落とす。


「…これ以外には流石にもうないよな?」


「あっああ。うんっ、そう。コレだけだっ。コレだけっ」


慌てて取り繕うように返事をする力の様子に。


「……何か怪しい…」


冬樹は眼を光らせた。


その時、ドキリとした力が咄嗟に制服のポケット部分を押さえるような手の動きをしたのを冬樹は見逃さなかった。



「…そこにまだあるのか?」


「ヒィッ!」



殆ど『蛇に睨まれた蛙』状態である。


結局、その他に持っていた写真も没収され、力は計4枚の冬樹の写真を取り上げられてしまった。



そんな様子を横で見ていた雅耶と長瀬は、若干顔を引きつらせつつも素知らぬふりをしていた。


(哀れ、神岡…。だが、神岡が持ってた写真は俺は直接関係ないもんね。だから問題ナッシングだし)


もし問い詰められてもシラを切れる自信もある。


長瀬は力のフォローをする気など毛頭なかった。



雅耶はというと、長瀬に売りつけられたとはいえ自分も同じ物を持っている手前、冬樹(夏樹)に申し訳ないというか立場がなかったのだが。


何とも落ち着かない気持ちでいるものの、写真は家に大切にしまってあるし、今ここで自分がそれを暴露する気は更々ない。


(…っていうか、今のこの状況で言えないだろっ。夏樹に軽蔑されたくないし…)



そう、二人とも我関せずを貫くつもりだ。



「こんなの一体いつの間に撮ったんだろ…。ブロマイドってそんなに普通に出回ってるものなのか?オレ聞いたこともなかったけど…。これって普通に駄目なヤツだろ」


力から奪った写真をげんなりしながら見ている冬樹に。


「ホントだよねー。だけど神岡みたいなヤツがいるから、こーいうのがなくならずに続いていくのかもねぇ。買う奴の顔が見たいよ、俺は」



ちゃっかり調子の良いことを言う長瀬に。


雅耶は、冬樹から見えない位置で長瀬に肘鉄を食らわせたのだった。



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