機械人形と操り人形の狂想曲 中編
(´・ω・`)ショボーン
ある日の昼下がり。東の都で行われた人形劇には人がわんさか集まっていた。人気の人形劇者、「ロシアンたこ焼き」通称「ロキ」が行う人形劇だったからだ。毎回変わるその人形劇はすでに千回近くやっているのにいまだネタの尽きないネタの数。そして、そのすべてにおいて同じような内容のものはなく、どれもこれも話が詰まっていて面白い。そんな人形劇に、周りの視線を奪う美人”三姉妹”がいた。誰もが見とれていたそんな中、この事件は起きた。突如響いた重く鈍い銃声が聞こえる2秒近く前にロキの頭が消えて無くなった。いや、正確には肉片が形もわからないほどに小さく粉砕されて一部はホントに細胞から消え去ったのかのようになっていた。見ていた客全員が5秒程遅れてほとんどが絶叫して逃げていった。三姉妹だけはずっとポケーとしていた。状況が呑み込めていないというわけでもなく、かと言って腰を抜かして突っ立っているわけでもなかった。彼女たちはその光景をどこか慣れているような感じがした。彼女たちが生まれた場所が、問題なのかもしれない。彼女たちは人形劇が行われていた台の近くにより、操り手のいなくなり、倒れたままぐしゃぐしゃになった操り人形を見つめた。人が操るにしても操り手の技術がなければこの美しい人形は美しく舞えない。このままにされていればいつか捨てられる。警察が来れば証拠として回収されるであろう。少女たちの一人が一番人気の人形を手に持った。ツインテールの子がそれに反応し「それ、どうするの?」と聞く。人形を手に持ったままのショートウルフの子は無言でそれを姉に渡した。ツインテールの子はなぜか理解したような顔をしていた。
少女達がそれを持ち帰ろうとした瞬間、近くの鎮守府から、ボーという重く鈍い音がした。空母が帰還した音だ。この時代、日本は海戦において圧倒的な力を有している。それゆえに警戒は怠れないため空母が偵察に向かう。今回は赤城と翔鶴の偵察任務だ。彼女たちの父親は正規空母赤城の艦長を務めていた。そのためいつもは帰還予想時間などを確認し間に合うように鎮守府に出迎えるようにしていた。のだが、今日はやけに早い。偵察に出たのが12:24。現在時刻は近くの時計を見る限り12:55である。いつもはせめて一時間はかけてくるはずなのだ。不信感を覚えた三人は鎮守府まで全力疾走した。その中でもショートウルフの子に関していえば100Mを10.10秒で計算しているような速さで突っ走っていった。信号すらも無視して。だがショートウルフの子は車を華麗に躱していく。ただの迷惑である。さらに10分走り続け、やっと鎮守府についた。そこでは翔鶴を迎えようというところだった。赤城はもう収容されたのかと思い、少し安心したとき、提督と思わしき人が彼女たちに気付き、ひどく哀れむような顔になった。それを見かねた姉の少女は「どうしたんですか」と聞いた。するとゆっくりとした動作で少女たちから背を向けると「赤城は身元不明機よって轟沈させられた。死体は全部水底らしい。」とだけ言った。提督と思わしき彼は少女たちの表情も確認せず翔鶴の方まで走っていった。
姉の少女は左手を口に当てた。バッグからはみ出していた操り人形を落とし、鎮守府の外へ走り去っていった。戦争など見慣れてきたはずだった。だが大切な人の死をそのまま告げられるのは実に心に響くものがあった。残りの二人は一人が飛び出して行ったあと後を追うように走り出した。
差って言ったすぐ後にゆっくりと提督が歩いてきた。そこにはもう彼女たちの姿はなかった。
葬式の後。
提督は墓の前に立ち彼女たちが落としていった人形を墓に飾った。立ち去ろうとしたところで、彼女たちの存在に気が付いた。提督はその手に握りしめた彼の最後の通信内容の書かれた紙を、彼女たちに手渡した。渡したらせっせと提督は歩いて行ってしまった。
二年後
提督、叢雲 任は翔鶴艦長から報告された内容を聞き目を見開いていた。
不来方艦長の娘方の行方が知れていないと。
その後叢雲提督は執務室に誰も入れようとしなかった。その後、叢雲提督の姿を誰一人と見ていない。
墓の前に一人だけ立っている彼女は、そこに置かれた操り人形を眺めてから、一言。
「あなたも救われないわね」
とだけ言い残し、墓場を後にした。その時操り人形~光があふれた。その光は空のかなたへ消えていった。
目を覚ましたのは海の中だった。私の体はどんどん沈んでゆく。私の意識も暗闇に沈んでいきそうになった時。誰かに勢いよく手を掴まれた。その衝撃で私は意識を引き戻された。手を掴んでいる彼女は、深刻そうな顔を浮かべていた。彼女は私の顔を一瞥すると勢いよく浮上を始めた。思わず「うおおおおおお...お」と声を漏らす。
矛盾。そもそも操り人形だった自分が、言葉を発している。これがいかなる矛盾であるか、考えたくもない心霊的な。自分が考えただけでも身の毛のよだつような恐怖心に煽られる。
だがそんなことの結論を出す前に彼女は私の手を勢いよく引き上げ、海上に投げ飛ばした。
絶句した。海上に投げ出されて気づいたのだが、私が沈んでいた場所は下に向かい強烈な重力がかかっている特殊海域だったのだ。そんな場所からいとも簡単に私の事を投げ飛ばしたのだ。だが問題は彼女本人だ。あの顔を見る限り私だけでもと思って投げたのだと思う。あれほどまでの力を有する彼女でさえ途中で浮上が異常に遅くなっていた。それに...この海域の周辺だけ異様に酸素濃度が薄い。海上に浮いたままなのに、全く呼吸の速度が落ちない。中にいた時も声を漏らしたがその時も死にそうになっていた。上に出てこれたとして、使った酸素の量は異常。外に出てきても動けずにまた沈むだけ。だが、そんなこと考えて心配していたのが嘘みたいだった。海が突如裂けた。彼女が剣を本気で振るった瞬間に海が裂けた。
そして空中に浮いたままの私を担ぎすぐに陸地まで空を蹴って飛んで行った。刹那、轟音とともに陸地が抉れ、そして揺れた。
砂塵が晴れた時に目にしたのは、砂塵を吸い込み、噎せ返っている6人の人たちだった。
そのうちの一人が声を上げた。
「さすがにやりすぎだ!それでも相当手を抜いていたのだろうがな!」
甲冑を装備した男だった。いかつい装備だが、中野人物はそういうほどでもなく、かなり細い方だと思う。
「いやはやすまんすまん。ハエを叩き落すくらいのつもりだったんだけど、やっぱ人命がかかってるって思うと異常な力が出るよな」
私を助けたその人は笑い飛ばすように言う。どうやらほんとにその程度の力しか出していなかったようで、たまたま目の前に来た蚊を目にもとまらぬ速さで捕まえた。
手のひらを見て、軽く唾を吹き付けペッペと払った。私をゆっくりと下すと、目の前の女性は私の顔を凝視してきた。
何かなと思っていると、突如発せられた言葉の意味スラ全く理解できなかった。
「君、男と女。どっち?」
「は?」
思わず声を漏らした。すると彼女は手を振り「ごめんごめん」と慌てて言うと、
「何でもないから忘れて!それで?君行くところないでしょ?名前は?しばらくうちに居なよ」
色々要求が多かったが、私はとりあえず優先度的に高そうな{名前}を言うことにした。私はそこで自分に名前がないことを思い出す。そこで真っ先に適当に上がってきた名前を口にした。
「ネルシィー。そう呼んで」
「おお!ネルシィー!で?うちには来るの?どうせ行き場所がないならうちに来てもらった方が、私が安心するからさ」
念を押され断りにくくなり、思い切って頷いてしまった。すると彼女は目を光らせて、私の手を引っ張って走っていった。まだ名前も聞いてないのに...と心の中でひたすら思った。
(; ・`д・´)っ