その時日本は、、、その五
正から渡された小さな黒い握りの車の鍵を握りしめながら猟は正の店の地下に降りていった。そこにはボロボロの黒のワゴンRが1台申し訳なさそうに小さな地下ガレージにとめられていた。ボロボロの軽自動車とはいえどんなに腹が空いても他の品物にかえることもなく正が十年以上守り通してきた自動車だった。帝国支配下において旧日本国が侵略されていた初期の頃から北朝鮮に味方したスズキ会社の自動車だけには防災トンネルを通る時、検閲が行われなくなってから久しかった。他にも北朝鮮にこうべをたれた会社は数多くあるが、快総統は一般市民うけする軽自動車が好みで極度の贅沢を極端に嫌う男だった。[すまんな。猟ちゃん。こんな車しか用意できなくて。ガソリンも二回だけ給油できるしかあつめられんかった。]地下に降りた猟に半歩遅れて入ってきた正が本当に申し訳なさそうに言うと猟はすかさず[ありがとう。どんな車よりも貴重な車です]とだけ言って車に乗り込んだ。食料も3日分はあるのを見て[正さん。上下の関係を越えて言います。ありがとう]言うが早いか車のエンジンをかけた。ぼすんといってエンジンがかかると猟は正に地上に出る扉を開けてもらった。
それから三日後。
住み慣れた街を出てから猟はひたすら旧茨城県を目指した。コンクリートむき出しの防災トンネルを抜けると最初に立ち寄った防災都市の福島市によった。コンクリートの壁でおおわれた防災都市は意外な程賑わっていた。小麦粉、卵、牛乳がふんだんに蓄えられた帝国支配下の小さな商店の脇に車を停めると中に入っていった。店名は石井商店。被災区域などを迂回しながら、時には道路すらない道を通って来たため旧福島にたどりつくまで三日もかかっていた。ガラス張りの木枠の扉を五回叩いた後に三回叩いた。すると奥からのっそりとした猟と同い年位の大男が歩みよってきた。[猟さん、、猟大佐じゃないですか。いやー久しい。十年ぶりですよ]と言って破顔一笑した。[ひげだらけで汚ならしい格好してるから何処の盗人かと勘違いしましたよ]と続けて言う。[汚ならしいは余計だね。でも会えて嬉しいよ。畑中佐]と猟は言って二人で抱き合う。猟が続けて[預けてある荷物をとりにきただけだ。長居は無用。お客さんにもつけられてる]というと笑った顔のまま畑が[ええそうでしょう。緊急時意外使わない合図を使ってるんですから。いっちょ揉んでやりますかね。]と緊張感の欠片もなく笑ったまま表に出ようとするのを猟が止める。[無駄無駄。ここにくるまでに何回もまこうとしたけどぴったりついてきたよ。相当な手練れだ。危険だよそれに、、]一瞬だけ目付き鋭く猟が言う。[自分がどこにいるかの連絡役でもある]




