その時日本は、、、その三
例の叔父の私立病院の裏手の、救急車置き場の倉庫が猟とその妹ミチルの住まいだった。帰ってくるなり[お兄ちゃん、帰り遅くて心配したんだから。何してたのよ?]と歳の離れたミチルが言う。[ごめん。ごめん。ちょっと食糧のあてをね、、]と言うと懐から煎餅を出してミチルに渡す。キョトンとしてミチルが[お父さんとお母さんがあの日から行方不明になってるんだから、心配させないでよね。でもこれありがとう。まさかまたかけ将棋してきたんじゃないでしょうね?]と嬉しそうな表情でちょっと怒る仕草をする。[想像に任せるよ。兄ちゃん疲れた。夕飯はミチルが食べな]と言うと[ダメ!兄ちゃん病弱なのに私にばっかり食べ物運んでくる。最近大分痩せたじゃない。どこか悪くない?]とまた心配し出す。[どこも悪くないよ。母さんに似てきたな。]とだけ言って木箱の食卓についた。椅子も木箱でレーションと英語で書いてある。ミチルが[今日はとっておきの]と言うとすかさず猟が[すいとんだろう?]と言うとみちるが[今は食べられない人の方が多いんだからもっと喜びなさい]と本当の母親の様な事を言った。それから[あ。忘れてた。兄ちゃんが帰るちょっと前に無表情な若い男の人がお兄さんに渡してくれってこの手紙置いてったよ。先に読もうと思ったら兄ちゃん帰ってきたんだよ]と茶色の封筒に包まれた手紙を猟に渡した。
同時刻旧東京地下施設で。
あらゆる贅沢の限りを尽くしてはいるが全てが無個性な大部屋で尊大に座る快総統を前に脂汗を流しながら旧日本国元首相の関が立っていた。座っている快総統がそのままの姿勢でゆっくりと言う。[最近、妙な手紙を書かなかったか関君。その汗は部屋が暑いためではなかろう]と言うと[何の事でしょうか。閣下。自分は閣下の意に背くような事を行った覚えはありません。]と言うと[意に背くなど誰も言ってはおらん。いいことを教えよう。猟犬は自分の存在価値が無くなるのを恐れて獲物を見つけても全ては主人に伝えないそうだ]それだけ言うと快総統はスッと立ち上がって関の返事も待たずに隣の部屋へ入って行った。快総統に常に一歩遅れて付き従う猟犬の様な高級将校は隣の部屋に入るその寸前に関に一瞥をくれて去って行った。残された関は自分で気付かずに握りしめていた拳に爪がめり込んで血がにじみ出しているのに気付き、慌てて高級そうなネクタイで手を拭いた。途端に隣の監視部屋から北朝鮮人民帝国軍人の高笑いが聞こえてきた。壁はわざと薄くされ関のいる部屋は監視カメラで見張られていた。
東北にて。
手紙にはこうあった。[久し振りだな。猟。誰とは言わずとも筆跡ですぐにわかるだろう。あの日satにあの男を射殺するように命じたのは他でもないこの私なのだ。あのとき既に私の手元には日本に有利な条件が揃いすぎるほど揃っていた。北朝鮮にはアメリカどころか我が国に有効な打撃を与える力はなく、占拠された原発もすぐに手元に戻ると。何よりアメリカの庇護が大きいと、、この様な結果になり断腸の思いだ。今私は廃墟と化した東京の巨大な地下核施設で北朝鮮人民帝国軍に幽閉されている。捲土重来をきしてはいるが、今の状況では難しい。日々砂を噛む思いで罵詈雑言に耐え必死に生きている。それはあの憎き快総統を倒し、愛して病まない我が日本を再建せんが為だ。頭のいい君の事だ。私が君を利用しようとしている事は既に気付いているだろう。腹を割って話す。私の筋書きはこうだ。ほぼ属国となっている日本を一気に再建するには北朝鮮人民帝国と国同士の争いをすべきではない。快総統を倒した上で私が心血を注いで祭り上げた皇室のある方を快総統の後に引き継ぐであろう男と結婚させるのだ。心配はいらない。快総統を快く思わない高級軍人や政治家は北朝鮮にも沢山いるのだ。信じて欲しい。彼等への根回しは既に済んでいる。あの日北朝鮮の要求を最後まで聞き、あらゆる戦闘状態となる事だけは避ける様進言した君に張り手を食らわしてしまった私だ。それまで数々の助言をしてくれた君に今さら弁明をする気はない。利用されるのを承知の上で君はこの話を断れないだろう。君はそういう男だ。この手紙には旧日本国自衛隊員特殊部隊への優先的な命令権を持つicチップが張り付けてある。私の事は心配しなくていい。既に歯にテトロトドキシンを仕込んである。この結果を見届けた上で日本国民への謝罪もこめて自決するつもりだ。武運を期待する]




