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無謀にも、とある新人賞(短編)へ応募した人生初の作品になります。

       4


ようやく終わった。

逃げるしかないと思った事もあったが、なんとかなるものだな。これで一応、龍殺しの称号は貰えるだろう。何故なら、ドラゴンを倒したパーティー全員に与えられるからだ。

それよりも、さっきから相棒のダルガンの様子がおかしい。あの、ルグスに向けられている気持ち悪い目つきは、いったい何なのだろうか。まるで、恋い焦がれている乙女のような--うっぷ、想像しただけで吐き気がしてきた。               

「あんたがた……」

崩れかけた建物の中から、一人の村娘がおそるおそる姿を現した。彼女は扉に半身を隠しながら、きょとんとした顔で我らとドラゴンを交互に見る。

「ありがとうごぜぇますダ! 勇者サマ!」

外に躍り出た村娘を見て、ラシャーダは絶句した。いったい何を食べたらあんな成長ができるのだろうか。ともかく、彼女は山のように豊満すぎる身体を揺り動かし、すさまじい勢いでルグスへまっしぐら。

「ゲッ……、なっ、何なんだてめェは、来んじゃねェ!」

そんなルグスの絶叫にフタをするかの如く、村娘の体重が彼の身体を押しつぶした。

「素敵ですダ! 愛すてますダ! あだしの、婿になってほすぃですダ!」

最近の婦女子は、なんと積極的なのであろうか。あきれて溜息をついたラシャーダは、冷ややかに成り行きを見守る事にした、が。

「ええ加減にしろやぁ、こんの野郎!」

横合いからケリを入れて、ルグスを解放したのはダルガンだった。村娘の巨体がゴロンと転がり、ルグスの疲れ切った身体がさらされる。

「おぃ、大丈夫か?」

ニカッとすがすがしい笑みを浮かべながら、ダルガンは手を差し出した。しかしその刹那、ルグスの身体に鳥肌が立つような悪寒が走る。長年の傭兵生活で培った直感と言うべきものが、その手を掴んではならないと告げたのだ。

「ぬぅぁぁにするダ! このドスケベぇぇ!」

もうもうと土煙を巻き上げながら、ダルガンめがけて突っ込んだ村娘。不意を衝かれたダルガンは、あっけなく吹っ飛んだ。

「こんの野郎! もう、勘弁ならねぇぞ!」

起きあがったダルガンは、己の筋肉で相手を威嚇しながら間合いをとった。だが、村娘はそれに臆した様子も無く、猛牛のような荒い鼻息をたてながらじりじりと迫る。今まさに、相撲の取り組みの如き大迫力の肉弾戦が、ラシャーダの目の前で展開されようとしていた。

「あだしの恋路を邪魔しねぇでケロぉ!」

ついに巨体が激突した。まず、村娘の強烈な張り手がダルガンの左肩に決まる。

「おめぇなんぞにルグスは渡さねぇぞ!」

張り手の衝撃を強靱な足腰で踏ん張ったダルガンは、身をかがめてタックル。相手の懐に潜り込み、ありあまる脂肪を鷲掴みして寝技に持ち込もうとする。

「あっ、いやぁん、やめてケロ……」

そうはさせまいと、必死でもがく村娘。しかし、ただの村娘が傭兵稼業で鍛えた筋力にかなうわけが無い。あっけなく、ダルガンに身体の自由を奪われてしまった。

「ハッハッハァ~、どっから攻めてやろうか、なぁ?」

馬乗りの体勢で村娘を見下ろし、勝利に酔いしれるダルガン。どうやら彼は、背後から立ちのぼるすさまじい殺気に、まだ気付いてないようだ。

「てめェら二人して、キショい事やってんじゃねェ!」

ルグスの鉄拳がもろにダルガンの後頭部に炸裂した。ダルガンは蟹のように口から泡を出しながら、村娘の胸に沈んだ。

「やぁん、ダメぇ……あだしが好きなのは、あんたじゃねぇべサ」

ダルガンの顔を豊満な胸に埋めた村娘は、赤くなった頬を手で覆いながらもぞもぞ動く。しかし、意識を失ってもなお、ダルガンの戒めは続いていた。

「さっきはよくも押しつぶしてくれたなァ。おかえしだ、うりゃァ!」

そんな身動きの取れぬ村娘にも容赦なく、ルグスの制裁は下された。事もあろうにサッカーボールでも蹴るかの如く、村娘の頭を蹴ったのだ。彼女もダルガン同様、泡を吹きながら失神する。

「ふっふゥ~、俺様をナメんじゃねェ……、ざまァみやがれってんだ!」

さすがに、超人的な筋力を誇ったルグスと言えども疲労困憊の様子である。よろよろと適当な瓦礫に歩み寄って腰掛け、ズボンのポケットから葉巻を取り出した。

「よゥ、火ィ持ってるか?」

「ああ……」

ラシャーダが放り投げたマッチ箱を受け取り、ルグスは葉巻に火を付ける。そして、身体の隅々まで煙を行き渡らせるように吸い込んだ。

「う……うめェ~。久しぶりだぜェ、こんなに葉巻がうめェのはよォ~」

そうやって、ルグスが雲一つ無い青空を仰ぎながらリラックスしていたそんな時、地面にコツっと木材の当たる音が聞こえた。

「おおっ、あなた方がドラゴンを……」

真っ白な髭を伸ばした禿頭の好々爺が、カツンカツンと杖をつきながら近づいて来た。おそらくはこの村の長老であろう。それを皮切りに、避難していた村人達がぽつりぽつりと姿を見せ始める。

「やったべ、村は救われたんだべ!」

「ありがたや~、ありがたや~、これもきっと、神のおぼしめしですダ」

「よぉ、どんな気分よ、ドラゴンを倒したってぇのはよぉ」

いつの間にか、我々は村人の歓声に囲まれていた。身体に触れて喜ぶ者、手を合わせて祈りを捧げる者、真っ昼間から酒浸りの酔っぱらい。今まで幾多の依頼をこなしてきたが、ここまで人に感謝される事は無かった。なんと心地良いのだろう。しかし、感無量のラシャーダとは対照的に、ドラゴンを討ち果たした張本人であるルグスは、むすっとした顔つきで葉巻を吸っている。

「……どうしたのだ」

「けっ……、感謝だけなら誰でもできらァ。んなもん、うぜェだけなんだよォ!」

ラシャーダの脳裏をかすめるルグスの悪評。まさか、この村も犠牲になるのだろうか。

「もっ、もちろん……今日は宴を開いて、あなた方を歓迎いたしますじゃ」

横目でじろりと睨み付けるルグスに対し、長老が上目遣いで慌てて答えた。はげ頭が、直射日光を照り返す。

「ぐわっ、ハゲじじィ! まぶしいんだよォ!」

「なっ……こっ、これは……、申し訳……、ないですじゃ」

とりあえず謝罪した長老。にこやかに顔では笑っているが、怒りを必死に堪えているのが分かる。杖を持ってない方の手を、爪が食い込むほど握り締めていたのだ。

「まァ、いい! それよりも宴なんぞで俺様が満足すると思ってんのか、あン?」

ルグスはからかうように、長老の顔に向かって葉巻の煙を吹かした。それを目の当たりにした村人の顔つきが変わる。

「げっっほん、げっふん、げはげは……、では、いったい何がお望みなのですじゃ……」

「ちっ、分っかんねェヤツだなァ~……おィ?」

長老の右頬を手の甲でぺちぺち叩きながら、苛立ち気に言うルグス。そんな彼に今にも掴みかかろうとする血気盛んな若者を、体格の良いおばさんが必死に羽交い締めしている。

「コレだよ、コレ! 分かるか、なァ?」

人差し指と親指の先をくっつけて丸い円を作ったルグスは、そのまま長老の目の前に突きつけた。

「おっ……、お金ですか。それはもちろんですじゃ……ははは」

「そうそう、やっぱ世の中ゼニだろゥ、ゼニィ~!」

噂に違わぬ傍若無人の振る舞いに、絶句するラシャーダ。しかし、自分には全く関係の無い事だと割り切った彼は口を閉ざした。障らぬ神に祟りなし、である。

「ま…まぁ……、そうとも言えますな……ははは」

「じゃァ、今日は虫の居所も悪いしナ……、金貨一万枚で勘弁しといてやるかァ」

「は……?」

長老の愛想笑いがひきつった。

なるほど--。                               

彼はこんな手口を使うのか。ラシャーダの好奇心が徐々に鎌首をもたげ始める。

しばらくの間、誰も口を開けない険悪な静寂が続いた。

「は……はは、いやぁ~……勇者様は御冗談がお好きですじゃ……」

やがて長老は、懐からゆっくりと手ぬぐいを取り出し、額に滲み出た汗を拭きながらおそるおそる言葉を絞り出す。

「んア? 俺様は冗談が嫌いなんだよォ。分かるゥ?」

今度は長老の左頬を手の甲でペチペチ。さすがにこれには、若者を羽交い締めしていたオバサンも激怒したらしく、無言で彼を手放した。もはや好奇心の塊と化したラシャーダは、食い入るような目つきで成り行きを楽しんでいる。

「長老様をなんだと思ってんだべサぁ!」

ついに正義の鉄槌が下される時だ。村人の期待を一身に受け、若者は大地を蹴った。

「オラの鉄拳を、くらうがいいダァ!」

そして怒りの右ストレートが、ルグスの顔面に向かって痛快に炸裂。と、誰もが思った。

しかし、彼の拳はルグスの顔に届いてはなかった。何故なら、勢いが乗った若者の右腕を、力任せにガシッと掴んだ男がいたのである。

「離しやがれ、こんちきしょう!」

「こんの野郎! 許さねぇぞ!」

ダルガンだった。おそらく彼は、今の状況を把握できてないだろう。しかし、何故か闘争本能剥き出しで若者を睨み付けている。

「ふゥ……」

ルグスは仏頂面で葉巻を踏んづけ、そんな二人に歩み寄った。

「このルグス・リヴィオン様に殴りかかって来るたァ、ふてェ奴だ。ぶっ殺してやるぜ!」

そう言っておもむろにしゃがんだルグスは、身体のバネを活かしたアッパーを若者の顎にぶちかました。ラシャーダが目を見張るほどの見事なパンチをくらった若者は、白目をむいて仰向けに倒れる。

「てめェら! こうなりたくなかったら、おとなしくゼニ払えよォ! オラァ!」

言い終わった後、失神した若者に追い打ちの一蹴りを放つルグス。若者の身体がビクンと大きく痙攣した。

「な、なぁ……、ルグス・リヴィオンって言うたら、まさか……」

そう--。                                 

ルグス・リヴィオンとは、数々のドラゴンを打ち倒した凄腕の戦士であると同時に、ごろつき王という通り名で悪評を轟かす有名人なのだ。彼と関わって、無事に存続できた村は皆無という。

「だとしたら……、オラ達の村は、もうおしまいダベ……」

その通りである。

反抗すれば、彼の手によって村は全滅。払えなければ、地獄の強制労働が待っている。もちろんその後、どこの村も無人の荒野と化したらしい。

どちらを選ぶにしろ、この村の命運は尽きたと言えるだろう。

「ああっ、神様。なしてこんな試練をお与えなさるんダ……」

しかも救いのない事に、領主達はそんな彼を野放しにしている。なんでも、絶大な権力者の庇護を受けているので手が出せないという噂だが、真義の程は定かではない。

「誰でもいいダ……、なんとかしてけろ」

それが不可能である事はこれまでの悪評が証明している。まあ、天災だと思ってあきらめるしかないだろう。

「え~ん、こわいよぅママぁ」

「大丈夫よ、なんとかなるわ。きっと……」

そして村人達がざわめく中、長老が意を決したようにルグスの前に立った。

「え……と、ワシらは……、ドラゴン退治を正式に依頼した訳じゃありませんからのぅ。じゃから、ワシらに報酬を強要するのは……筋が……違うかと……」

長老は村の代表として有りっ丈の勇気を振り絞り、されどへっぴり腰で意見した。ルグスの顔がみるみるうちに険しくなり、誰もが長老の身を案じたその時--。     

「ほぅ、じゃあ何か……。おめぇらは、助けて貰った恩も返さねぇってのか?」

あまりにも意外な事にラシャーダは我が耳を疑った。なんとダルガンが、ルグスの味方になって代弁したのだ。若者の鉄拳を妨害した件といい、いつもの相棒では考えられない行動が目立つ。いったい何が、彼をそうさせたのだろうか。

「そんな事はないですじゃ。じゃから……、こうして宴を開こうと……」

ルグスに対する憎悪の視線がダルガンにも注がれている。ラシャーダは巻き添えをくわぬよう、数歩後ずさって人混みに紛れた。

「つべこべ言わずに、払やぁいいんだよ!」

「ざけんな、てめェも払いやがれ!」

村人のざわめきが一層、大きくなった。それもそのはず、味方だと思われていたダルガンにも、ルグスは金銭を要求したのだ。

「第一、ドラゴンを退治したのはこの俺様だ! てめェこそ、助けて貰った恩を返さねェってのか、あン?」

(なぬぅ!)

これにはラシャーダの方が驚愕した。さすがに動揺を隠しきれない。

ルグスの主張は、確かに筋が通っている。我々はドラゴンに対して何もできなかったのだから、そう言われると反論の余地は無いだろう。

「そっ、そんな! そりゃないですぜ、アニキ! 俺達は、筋肉という絆で結ばれた仲間じゃないですか!」

「キショい事ほざいてんじゃねェ! 誰が仲間だ!」

二人のやり取りなど、もはやラシャーダにはどうでも良かった。他人事だと思っていた災難が我が身にも降りかかって来たのだ。ルグスの取り立ては、それはすさまじいものだという。地の果てまでも追い回されるともっぱらの評判である。

「とにかくだ。てめェら今すぐ一万枚、耳をそろえて出しやがれ!」

「し…か……し、ワシらには……、そのような……金は………」

そういえば、名前はまだ知られてないはず。名乗った覚えもない。このまま人混みに紛れながら姿を消せば、逃げおおせる事も可能だろう。ラシャーダは、周りに怪しまれないよう慎重に歩み始めた。

「だったら体で払えってんだよォ、体でなァ!」

「どうか、娘っ子達にはひどい事しねぇでけろ……」

なんとか建物の陰に辿り着いたラシャーダは、壁にもたれながら安堵の溜息を漏らす。ひんやりとした感触が、火照った身体に染み渡るようでとても心地よい。それにしても巨大な建物だ。この村にこれほど大きいものが建っていたとは、今の今まで気付かなかった。

「きゃあ!」

突然、絹を裂くような村娘の叫び声が響き渡った。何事かと思って振り向けば、ダルガンが服を脱ぎ始めているではないか。

「何やってんだ、てめェは……」

村娘達がきゃあきゃあ言いながら視線をそらす中、ただ黙々とダルガンは脱いでいる。

次第に露わになってゆく素肌は恥じらいのピンクに染まっていた。そして、全てを脱ぎ終わった彼は、ニカッとさわやかな笑みを満面に湛えて言う。

「さぁ、アニキ! 存分に堪能してくれ!」

その場にいる誰もが、言葉を失った--。                   

 おそらく頭の打ち所が悪かったのだろう。あの様子だと、もう手遅れのようだ。しかし、これで心おきなく見捨てられる。

(グッバイ……)

 脳裏にこびりついた相棒との思い出を、ラシャーダはふっ切った。

「ぶっ…………」

うつむきながら一歩を踏み出したルグス。ざわりと、ラシャーダの肌に鳥肌が立った。傭兵稼業を営む人生において、こんなすさまじい殺気を持った者は誰一人としていなかった。やはり伝説になる男は桁が違うのか。ラシャーダは戦慄を覚えた。

「殺ォす!」

顔を上げたルグスは、まさに鬼の形相。力強く大地を蹴り、全体重を前へ押し込むように前屈みで走る。

「うおりゃァァァ!」

そして、全身全霊を注いだ痛恨のパンチが、ダルガンの急所に炸裂した。

「あふっ………」

快感とも苦悶とも言えぬ複雑な表情を浮かべながら、ダルガンは急所を押さえて立ちつくす。

「どぉラララララララララララララァァァ!」

さらに、息もつかせぬ連打がダルガンの身体に降り注いだ。音から察するに、とてつもなく重いパンチだ。常人なら、既に死んでいてもおかしくない。

「おんどりゃァァァのォ! 死ィに、さらせェ!」

最後にしゃがみ込んだルグスは、憤怒のアッパーをダルガンの顎にぶちかました。

(やすらかに眠れ………)

ラシャーダは己の信じる神にダルガンの冥福を祈る。心なしか、彼の裸体がヒクヒクっと動いた。まあ、死んでいると思いこもう。事実、頭は壊れていたのだから--。  

「ざまぁ~………みやがれってんだ!」

今度こそ、精も根も尽き果てたのか。ルグスは大の字になって倒れた。ざわざわざわと村人が騒ぐ。

(よし、今だ!)

逃げるなら今が絶好の機会。だがその時、壁が小刻みに揺れているのにラシャーダは気付いた。

(地震か……)

しかし、地面が揺れているようには感じない。壁だけが揺れているのだ。

(なんなんだ……これは!)

次第に揺れは激しくなる。この不可思議な現象を前にして、ラシャーダの思考は糸が切れたようにストップした。

「グギョギョォォオ……」


もちろん、一次落選の結果に終わってしまいました。

梗概(あらすじ)の書き方もなってませんでしたし、話の作りも無茶苦茶です。

もう、ここから物語崩壊が始まっております。

変な展開注意。

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