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無謀にも、とある新人賞(短編)へ応募した人生初の作品になります。

       3


はらりと、傭兵の黒マントが落ちる。

それを見たダルガンの心臓が一回、大きく跳ねた。

今にもはちきれんばかりの筋肉が、傭兵を美しく飾っていたのだ。

筋肉においては絶対の自信を持っていたが、そのプライドは、目の前にいる傭兵にいともあっさりと打ち砕かれてしまった。しかし、不思議と悔しさはわいて来ない。それどころか、むしろ愛おしいとさえ思い始めた自分に、戸惑いを隠せないでいる。

傭兵が、巨大なクロスボウを瓦礫から引っこ抜く。激しく脈動している筋肉を覆った褐色の肌が、そんなダルガンを誘惑するように艶々しい汗を噴き出した。

「このルグス・リヴィオン様を怒らせた事を、今すぐ後悔させてやっからよォ。待ってろや、コラアァァ!」

それを聞いたダルガンは、脳に刻み込むように何度も彼の名前を呟いた。初めて出逢った、己以上に美しい筋肉を持つ男--。

「矢はたしかこの辺に・・・・・・・・・あったぜィ」

瓦礫を漁って見つけ出した矢を、クロスボウに装填したルグスは、片膝を付いて弦を巻き上げる。右腕の筋肉が妖しくうねる様子にダルガンの視線は釘付けになった。

「どうした・・・・・・」

そんな時、いきなり声をかけてきたのは相棒のラシャーダだった。ダルガンの全身がびくっと、大きく跳ねる。

「ななななっ、な・・・・・・んでもねぇぜ」

あからさまに狼狽した様子のダルガン。しかし、ラシャーダにはその原因を察する事ができなかった。

「よっしゃあァァ! 巻き上げ完了だぜェ!」

叫びながら立ち上がったルグスは、肩当てに巨大なクロスボウをはめ込んだ。どうやら肩当ては特注品らしく、クロスボウを固定する止め金が付いていたようだ。ガチンと重々しい金属音が鳴った。

「覚悟しやがれィ、クソ野郎がァ!」

ブーツのつま先を瓦礫に埋め込み、股を大きく開いて腰を落とすルグス。足の筋肉がズボンを破らんばかりに膨らみ、そしてピクピクと細かい痙攣を続けている。

ドラゴンは相変わらず、獲物を探し求めるかのように悠々と旋回していた。まるで、対抗する術を持たない俺らを、あざ笑うかのように。だが、その余裕もここまでだ。

ルグスは、そんな憎たらしいドラゴンの動きに、照準を合わせる。

ダルガンとその相棒は、固唾を呑んで彼を見守る。

言い様のない緊張の静寂が、辺りを支配した--。               

「喰らいィ、やがれェェェ!」

百獣の王が吠うるかのような激昂と共に、ルグスはクロスボウの引き金にあたるレバーを押し込んだ。

砂埃を巻き上げて空気を引き裂いた巨大な矢は、だんだん小さくなりながら天をかけ昇ってゆく。

そして、ついに黒い点となったそれは、ドラゴンと交錯した--。        

「ちッ、くしョゥ・・・・・・」

わなわなと拳を震わせ、歯ぎしりするルグス。発射時のすさまじい反動に耐えた彼の身体からは、滝のように汗が流れている。

どうやらしくじったようだ。しかしダルガンは、ルグスを責める気にはなれなかった。あのように美しい筋肉を持った彼でさえ、失敗するのだ。他のどんな野郎でも、おそらく同じ結果だろう。

「ぜってェ、許さねェぞ。コルルゥァァァ!」

怒りに燃えるルグスの褐色の肌から、激しく脈打つ血管が浮き出ていた。汗にまみれた皮膚が、そんな血管をも魅力的に引き立てる。ダルガンはもう、彼の虜だった。

相変わらず相棒のラシャーダが、そんなダルガンを怪訝そうな顔で見ている。

「・・・・・・おい、また突っ込んでくるぞ」

そのラシャーダの言葉にドキッとしたダルガンは、弾かれたように大空を見上げた。視界には、確かに翼をたたんだドラゴンの姿が。だめだ、クロスボウは間に合いそうもない。しかも、声を発した相棒の姿も見当たらない。

「うおおぅ、来いやあぁ!」

こうなったら俺が止めるしかない。ダルガンは、バトルアックスを渾身の力で握り締め、ルグスの前へ進み出た。

「感謝しろよ、おめぇの盾になってやる!」

ダルガンとルグスの視線がぶつかった。しかし、それも一瞬の事。すぐにルグスが視線を逸らし、そして彼はこう言った。

「けッ……、てめェなんぞのヤワな筋肉など借りずともなァ、俺様は絶対無敵なんだよ、ぶァ~か!」

今まで聞いたのとは、少し違った印象の憎まれ口だった。その言葉のアクセントから、微妙に思いやりが含まれていたような気がする。ダルガンはニヤリと口元を歪めた。この時、ルグスとの間に筋肉という名の絆が成立した事を、ダルガンは強く確信したのだ。

「ちちィ…、これは奥の手だったんだがなァ。こうなったら仕方ねェ……」

そう呟いたルグスは、肩当てに固定したままのクロスボウの弦を、右手でおもむろに掴んだ。

「ふォんぬゥ! うおゥォォォー」

気合いと共に右腕の筋肉が膨張し、血管がびっくんびっくんと激しく脈打つ。

(いくらなんでも、そりゃ無茶だ……やめろ、やめてくれ!)

砦に据え付けられるような大きさのクロスボウ。その弦を人間の力だけで引っ張りあげようとするなら、筋肉隆々のたくましい男が何十人必要だろうか。

ルグスの美しい筋肉が張り裂けてしまう事を危惧し、ダルガンの顔がひきつった。しかし、そんな彼の心配をよそに、メキメキと軋みながら弦が引っ張られてゆく。

「うおォりゃあ! これでフィニッシュだぜィ」

持ち前の怪力を活かした、クロスボウのシステムを無視したルグスの荒技。その作業に費やした時間はなんと、普通に巻き上げる場合の半分以下であった。

(ふぅ、大した野郎だぜ、ったくよ……)

ダルガンは、安堵と感嘆の入り交じった溜め息を漏らさずにはいられなかった、が。

「グゥゴゴォォー」

そんな一瞬でさえも許されない立場にあった事を、ドラゴンの荒れ狂う咆吼で思い出したダルガンは、その迫り来る巨体を目の当たりにしてガクガクと足が震え始める。

「へっへっへェ~、なんかワクワクしてくるなァ~」

それに対して、なんという度胸であろうか。ベテランの傭兵を自負しているダルガンでさえも震え出す状況において、ルグスは心底楽しげな笑みを浮かべているのだ。

「これだけ近けりゃ、ぜってェ外さねェぜ!」

だが、空を仰いだルグスの眼は、真剣そのものである。猛スピードで突っ込んで来るドラゴンをしっかりと照準に捉え、今まさに引き金を引こうとしていた。

「これでェ、終わりだァァァ!」

ルグスから放たれた怒りの化身が、翼の付け根に深々と突き刺さる。

「グギャアァァァ」

さすがのドラゴンも、この痛恨の一撃でバランスを大きく崩す。そして、ここから少し離れた位置にある村の中央広場へ、すさまじい勢いで墜落した。

飛礫が散って、猛烈な砂埃が舞う。

「やった……、やったぜ……、やったんだよな……」

ダルガンの胸に、万感の思いがこみ上げてくる。目尻に溜まった熱いものをこぼさないよう、顔を上に向けた。

「ふっ、泣いてるのか……」

砂埃をかき分けるように現れたこの相棒に、今まで何度ムカついただろうか。だいたい、肝心な時にはいなくなるクセに、事が済んだアトにひょっこり現れたと思ったら、この嫌味である。

「おまえはだいたい……」

ダルガンは、その後に続くであろうラシャーダを罵る言葉を懸命に呑み込んだ。結局、屁理屈で言い負かされるのが、いつものパターンなのである。

「うるせぇ、ほこりが目に入っただけだ!」

「なるほど……な」

なんとかごまかせたダルガンは、この憎々しい相棒に一矢報いたと思う事で、気を紛らわす。

「けッ、さんざん手こずらせやがってよォ……ムナクソ悪りィぜ」

ガチャガチャと止め金を外す音と共に、ルグスのぼやきが聞こえてきた。ダルガンは、そんな彼に視線を移す。荒い息をたてながら瓦礫の上にあぐらをかく、疲れ果てているルグスの姿は格別だった。あまりの愛おしさに、思わずぎゅっと抱きしめたくなったダルガンが、一歩を踏み出したその時--。                      

「あんたがた……」


もちろん、一次落選の結果に終わってしまいました。

梗概(あらすじ)の書き方もなってませんでしたし、話の作りも無茶苦茶です。

ただ、この回だけは、手前味噌ではありますが、面白いと思っております。

筋肉マッチョのキモさと、筋肉が絡み合う心理描写のキモさを演出してみました。

現在でも、彼らのようなヤリトリを面白く書ければなと、いつかどこかの作品で

活かせるよう考えてます。

筋肉最高(^ω^;)

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