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真実、そして…①


『……悪いな。わざわざ遠回りさせちまって』

「ううん。約束のついでだから。……それに全部話すなら、やっぱりここが一番いいと思うからね」


 奏良と彩香は表の世界、彼と彼女が出会った場所である墓地にいた。

 彼らがここにいる理由は昨日の決闘の後の出来事が原因だった。

 奏良を使い、勝利を収めた彩香がまずしたのは、彼への謝罪だった。奏良が望んだことだとはいえ、自らに課したルールを破り、彼女は自分の為に杖を振るったのだ。それはなあなあのままにしてはいけないことだった。

 「お詫びに、何かして欲しいことがあるのなら言って」などと言うので、「自分の体を元に戻せ」と言ってみたが、それはできないと断られた。真に残念だ。

そこで奏良が頼んだのは、妹の保護と、彩香の秘密を聞く事だった。


 妹の保護については、奏良の杖としてのスペックが高かったために「上泉家が元魔法使いの一族である」可能性が浮上してきたからだ。もし、それが本当なら今は表の世界の住人である奏良の血族は、魔法使いにとっては垂涎物の材料だ。だからこそ、唯一、話の通じる魔法使いである彩香に頼んだのだ。彼女の保護。素質があるなら魔法使いとして鍛えてほしいと。それが妹の生活を自ら壊すことになると分かっているが、それ以上に妹に自分と同じような目にあってほしくは無かったのだ。


 そして、もう一つの願い。それこそが今まで、彼がずっと言い出せなかったことだった。

 彼女の人となりはこの二週間でなんとなく理解した。彼女の本性は、気弱で臆病で愛玩動物気質のへっぽこだが……それでも自分が間違っていると思ったことは絶対にしない強い人間だ。

 ならば、彼女が自分を使わないと定めたのは、「それが間違っているから」に他ならない。

 ……それは、彼女が杖を悪だと思っていて、彼女が俺を杖にしたのは望んでいたことではないことを意味していた。

 これからも彼女を主として見るにはそこをはっきりしなければならない。故に彼は訊ねたのだ。貴女が俺を杖にした本当の理由は何ですか、貴方は俺に何を隠しているのですか、と。


 彩香は妹の話こそ二つ返事で了承したものの、二つ目の話を聞いて、思いつめた表情になって少し考えさせてほしいと言葉を返した。

 後日、彼女は「ソラにも、知る権利はあるもんね」と観念した様子で奏良に全てを打ち明けることを了承した。

 そして今、妹を家に迎えに行く前に、初めて出会った日と同じ逢魔が時、人気の少ない墓地にて彼女は全てを打ち明けようとしていた。


「……死に場所は自分で決めろなんて言っておいて、嘘を吐き続けるのは、ダメだもんね。嫌われるために嫌な女の子になってみたけど、それもソラには通じなかったし」

『いや、それは初日から割とバレバレだったんだが……』

「うえっ⁉ウソ!うう……割と自信あったんだけどなあ……」

『むしろ、中途半端に演技した分、余計な違和感が出ていたな。思いっきり嫌われるためなら終始無言でいた方が良かったと思うぞ。まあ、アヤカはへっぽこだし、何処かでボロを出していたと思うけどな』

「そっかあ……やっぱり慣れないことはするもんじゃないね」


 もうすっかり演技を止めて、奏良の前でも素の言葉使いに戻っている彼女は奏良の指摘にがっくりと肩を下ろした後、真剣な面持ちで奏良に最後の確認をする。


「できれば、ソラにこの事は話したくなかった、かな。私への恨みは望むところだった。なんであれ、貴方に生きる希望が生まれるなら憎まれ役にでもなってやろうと思った。でも、ソラはそれじゃ嫌なんだよね?」

『そうだな。アヤカに何か事情があったことは何となく察している。なのに、見当違いの恨みを抱き続ける恥知らずにはなりたくない、な』

「うん。そう、だよね。分かりました。全部話します。今、貴方の体は……」


 彩香が全てを話そうとする。その瞬間、視界が歪んだ。


「これは……っ!」

『あの時の、結界?俺が杖になった日の、あれ?じゃあ、なんで、これはロストの(・・・・)結界(・・)……?』


 奏良は正しく事態を認識していた。これはあの日の現象、今となってはこれが結界だと理解して、そしてこれが、魔法使い達の滅すべき敵である“ロスト”と呼ばれる存在の貼る結界だということを。

 ただ、それが解せない。あの日、俺は彩香によって我が身を杖に変えられた。それは変わらない真実のはずだ。だがしかし。まるで、これでは……


 ……俺を襲ったのは魔法使いでは無く、ロストだったのだと証明しているかのようだった。


『……ミツケタ』

『あ、ああ……!』


 そして、あの日と同じように、奴が舞い降りた。

 翼の生えた狼男。通常の、影が形を作ったようなものでなく、極めて自分達が知る動物に近い姿の化け物は、かつて俺を殺した(・・・・・・・・)“ロスト”そのものだった。


 ……結局のところ、俺は既に答えを持っていたのだ。ただショックによって、自ら思い出すことを拒否していた。それだけの、ことだった。


『アノトキノホウフクヲハタシニキタゾ……!』

『ああああああああああああ!!!!!!』

「っ!ごめんソラ!もう一度だけ貴方の力を貸してっ!」


 全てを思い出し、錯乱する奏良。ひとまずこの場を切り抜けるためと、杖の力を使う彩香。決死の思いで彼女は持てる全ての力を使い。


 ―――そして、当然のように、彼女は敗北した。






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