魔界編 第1話前 挨拶でございますか?
「アサ、準備はいい? 」
「う…うん」
「ドラゴンと話す時みたいに、私が通信石を通じて魔人語を通訳してあげるから、心配はいらないよ」
「でも、リリーナは勝ったよね? なのにどうして? 」
アサが納得させるには、そうね…
「ほら、アサと私はここ、魔界に住むでしょ、こねを作らないとね」
「そうだったのか…うん、私もついてるし」
アサはお嬢さんだったから、きっと役に立てるはず。
「じゃあ、大佐が迎えに来たし、行こうか」
「うん」
正直、私は表情を読むのは得意じゃないけど、アサ、顔に出すぎ…
あれ? おかしいな、ひょっとしてアサは大佐の噂を知っているのかな? 通信石で聞いてみよう。
『アサ、どうしたの? そんな顔して』
『あ、いや、なんでもない、よ? 』
気持ちはわかるけど…ふ、アサを連れてきたのは、間違いなんでしょうか…
「リリーナちゃん、僕のお母さんは優しい魔人だから、心配しないでくれ」
「そうですか」
本当はお土産も持っていきたかったか、魔人は食事しないし…
まあ、イメージトレーニングは何回もしたし、上手くいけると思う。
「着いた、ここだ」
桜子の屋敷の方が立派な気が…
「たっちゃん、帰ってきたのか、話って? あら、この子達は? 」
たっちゃんって…
「母さん、紹介するよ、僕の彼女、リリーナちゃんだ」
「はじめまして。リリーナと申します。大佐さんとお付き合いさせていただいております」
「あらまぁ…あらまあ! アナタ、アナタ!!! たっちゃんが、たっちゃんが彼女を連れてきた!! 」
「落ち着け、母さん。父さんはもういないだろう」
「あ、そうだった」
「お母さん、泣かなくても…」
「ごめんなさい、お母さん嬉しすぎで」
うわー、引くわー…
「いいお母さんですね」
「だろう」
「は、はぁ」
ドヤ顔しないで…
「リリーナちゃん、さぁ、さぁ、中へ」
ちょっと緊張してきた。おかしいな、本当の彼氏じゃないのにな。アサは相変わらず浮かない顔してるし。
それにしても、なんか罪悪感が半端ない。そんなに喜ばなくても…
「リリーナちゃん、たっちゃんはリリーナちゃんを良くしてくれた? たっちゃんにいじめられたら私に言いなさいよ」
「大佐さんのお母様、心配しなくてもいいですよ。大佐さんは良くしてくれました」
「そう、それは良かった。ところで、リリーナは鹿族ですよね」
「いいえ、私は竜人です」
「もしかして、スネーク家の? 」
「い、いいえ」
「あ、ごめんね、リリーナちゃん。秘密だったのか。大丈夫、誰にも教えないから」
なんか勘違いしてるし。でも、このまま勘違いされでも悪いことじゃないかも。思い込みが激しそうな人だし。