魔人編 第10話 マール様でございますか?
遂に着きましたわ、一刻も早くお風呂に入りたいです。
「リリーナ、宿屋を探しましょう」
「そうね」
リリーナ、また安い宿屋に泊まるおつもりなのかしら?
「リリーナ、偶には贅沢も良いと思うけど」
「アサ、何言ってるの? クエスト失敗したばかりじゃないか? 贅沢出来るお金、あると思う? 」
「そ、そうね」
「アサ、あたしが管理しているあなたのお金、返すわ」
「え、どうして? そんなのいや」
リリーナはわたくしのお金を奪ったりしません、ですから、リリーナがわたくしのお金を管理してる限り、わたくしから離れることは先ずあり得ません。
「どうして? 元々あなたのお金なんでしょう」
「今のままでいい、リリーナと一緒にいられるのなら、お金など要らない」
「そう?」
「うん」
これは由々しき事態ですわ、この魔王城こそが、リリーナの目的地です。ここにたどり着いたと言うことは、リリーナはもう、わたくしを必要としなくなりました。
「リリーナ、わたくしのこと・・・」
「ん? 何? 」
「いや、何でもありません」
「アサ?」
「ホントに何でもない」
「あっそ」
リリーナにとってわたくしはどんな存在なのでしょう? 冷たくされるのは慣れて来ましたか、最近優しくされて、冷たくされるのがまた耐え難くなってきました。
一体どうすればリリーナの心を・・
「サム、ちょっと待って、サム」
「遅い、邪魔、ついてくんな」
「はい」
「うぜえ! お前は蠅か! 」
「はい」
「キモイ! 消えろ! 」
リリーナにそうおっしゃられたら、わたくし、死にたい気分になりそうですわ。
「アサ、行くよ」
「うん」
リリーナが先ほどのカップルを見て、どう思われるでしょう? あの女性がかわいそうと思われるでしょうか? そしたら、わたくしのことも・・・
「クエストの報告しに来ました」
「この魔法石に魔力を注入してください」
「はい」
「商人の護衛ですか。では、依頼主は何処にいますか? 」
「えーと、あの、依頼主さんは・・・」
先程の女性、お強いですね。
「そう、大変だったでしょう、リアジュウレスに遭えたでしょう」
「あ・・・まぁ」
「同情はしますが、残念です、報酬はありません」
「はい、では、あたし達はこれで。アサ、行くよ」
「あ、はい」
これこそが、わたくしがずっと求めていた強さ、心の強さなのですね。いや、違うのです、別にリリーナがあの男のような酷い人というわけではないのです、リリーナはわたくしに対して何もしませんでした、寧ろこれが問題です、リリーナの瞳に、わたくしは映っていません。多分、多分の話何ですけれど、例えわたくしがいなくなったとしても、リリーナは多分悲しまないと思います。あ、いけませんわ、死にたくなりましたわ。
一度だけでいいです、あの女性の方と話してみたいです。
リリーナはあの女性のことを、どう思っていらっしゃるのかしら。かわいそう人だと思っていらっしゃるのなら、わたくしのことをもっと大切にしなさいよ!
寂しいです、折角仲良くなれましたと思いましたのに・・・
「サムのために、あたしは何もするから」
「あ、そうか? じゃ、金をくれ」
「はい」
「ついてくんな」
「はい」
「キモイ! 」
「はい」
「ねぇ、リリーナ、あの女性のこと、どう思う? 」
「別になんとも思わないけど」
やはりそうですか・・・リリーナにとって、きっと世界は自分と、自分以外の全てで分けられているのでしょう。
正直、わたくし、少々疲れました。どんなに頑張っても、リリーナの心に入れて貰えませんから。
いけませんわ、また弱気になってしまいました。
わたくしの状況は、あの女性の方と似ているかもしれません、拒まれ続けて・・・
やはりあの女性の方とちゃんと話してみたいです、リリーナが眠りにつくまで待つしかないですね。
そして、眠り姫の時間が来ました、あの女性の名前は知りませんが・・・
「あの、サムさんという方をご存知ですか? 」
「ああ、知ってるよ、あのヒモ男のことだろう」
「ええ」
「そこのボロ家に住んでるよ」
「ありがとう存じます」
あ、寝ていますね、申し訳ございませんが、起きてもらいます。
「あの、起きてください」
「あ、可愛らしいお嬢ちゃん、あたしに何か用? 」
「実はですね・・・」
わたくしは、この六年間のことも、わたくしの思いも、全部話してしまいました、涙も沢山流しました、この魔人の女性は、わたくしの言葉をただ黙って聞いているだけなのに、何だか、すっきりしました、話しただけでこんなにも心が軽くなるなんて、思いもしませんでした。
「すっきりしました、聞いてくださって誠にありがとう存じます、では」
帰りましょう、明日また頑張れる気が致します。
「待って、あたしなら、君の力になれるかもしれない」
「え? 」
この夜、わたくしはこの女性の心の強さの秘密を知りました。
「リリーナ、おはよう」
「おはよう、アサ」
「愛の源なるマール様よ、今日も共にいてください」
「ア・・・アサ? 」
「リリーナもマール様のご加護があらんことを」
「ア、アサ・・・あの・・・マール様って・・・誰? 」
リアルでちょっと忙しくなりましたけれど、できるだけ早く投稿します。何卒よろしくお願い申し上げます。