逃走編 第10話 悩み事でございますか?
「ひょっとして、リリーナって、嘘上手いなの? 」
凄いですわ、リリーナ、わたくしより優秀かもしれません。
あら?
「まさか、あたしを・・・騙したことも・・・あったりする、なんで・・・ない、よね? 」
誰でも嘘をつきます、リリーナだってつきます、でも・・・
「あるわ」
「え!? 」
これは驚きましたわ、いや、リリーナが素直に答えてくださったことも驚きましたけれど、一番驚きましたのは、リリーナの表情。
「ある」
この意地悪そうな笑顔は、堕天使の笑顔です。罪悪感を抱いて、罰されたくって、わざと悪いことをなさる笑顔です。
「誰だって、嘘の一つや二つをつくから気にしなくていいと思うよ。素直になってくれてありがとう」
でも、追い詰めたらわたくし達の関係にヒビが入ることも・・・
「あっそ」
けれど、気にならないと言ったら、嘘になります。罪悪感を抱く程、リリーナがついた嘘とは、一体・・・
リリーナの頭をナデナデして、リリーナに食べさせて、リリーナと一緒に寝て、幸せのひと時を過ごしました。けれど、噓のことはやはり気になって仕方がないです。
翌日、あのシスコーンがまた現れました、本当に蠅のような方ですこと。何より、わたくしを騙し、リリーナの前でわたくしを愚弄したのは許しませんわ。
けれど、今は逃げるべきです。勝てない相手ではありませんが、リリーナは戦いたくありません。
仕方ありません、今度は見逃して上げますから、わたくし達を見逃してください。
え!? ちょ・・・リリーナ、足遅すぎませんか?
シスコーンは何を持っているようです、笛?
いや、あれは多分・・・リリーナ、危ない!
わたくしはリリーナを庇って、撃たれました。
眠くなってしまいました、毒? わたくしは死ぬのですか?
「起きたか? 」
「リリーナ、ここは? 」
「宿屋だよ、誰かが倒れたおかげで、すごく苦労したからね」
そんな・・・わたくしはリリーナを庇ったから・・・
リリーナだって、わたくしに噓をつきましたではありませんか・・・
「でも良かった、ようやく寝られる。アサ、もしシスコンに見つかったら、あたしを起こして」
リリーナ~ずっと傍に居ってくださったのですか? 嬉しいです、やはりリリーナは素敵な人です。なのに、わたくしは嘘なんて、些細なことを気にしてしまいまして・・・
「・・・」
やはり気になります・・・
リリーナは一体どんな噓を・・・
気になります! 気になります! 気になって仕方がありません!
直接聞いてみませんか? いけません、下手すると、リリーナ避けられてしまうわ。
「この部屋のようね、鍵、開けられる? 」
「もちろん、解錠は基本中の基本だよ」
この声は・・・リリーナの!? どうしてですか? リリーナはここにいるのに・・・
「かちゃ! 開いた」
「よくやった」
リリーナが二人います? クローンですか?
「アサ、状況理解したか? 」
「ええ」
「それなら話は早い、早速本物のあたしと話したい」
「え!? どうして? 」
クローンはリリーナの知識と記憶を持っています、わざわざわたくしのリリーナと話をしなくとも宜しいはずです。大分、本物のリリーナを人質にするつもりでしょう。
「アサとシスコンは外に出ていて」
「いや」
「アサ? 」
「い! や! 」
「アサ、あたしの言うことを聞かないのか? 」
「あなたはあたしのリリーナじゃない」
そうです、わたくしは二人を愛することはできません、例え同じ人だとしても。とは言え、リリーナがわたくし以外の人と居るところは見たくありません、消えてもらいますか。
「自由でマイペースな少女、それは疾風。風の壁よ、敵から守って! ウィンドバリア! 」
これで飛び道具は効かなくなります。
「自由でマイペースな少女、それは疾風。風の拳よ、螺旋を描くように、敵を退け! ウィンドブラスト! 」
「危ない! 」
防げましたか・・・まぁ、中級魔法ですし。
「おい! リリーナはお前の友達じゃないか、どうして彼女を狙った? 」
「友達? わたくしの友達はここに寝ているリリーナだけだ、ウィンドブレード! 」
「姑息な真似を」
下級魔法の不意打ちも駄目ですか。
「アサに勝つ必要はない、本物のリリーナを起こせばいい、シスコンさん、叫んで」
「おい! リリーナちゃん、起きて! 」
「ちゃんつけしないで」
「あぁ、ごめん」
無駄ですよ、魔法で眠ったリリーナは起せませんわ。
上級魔法を使うと宿屋ごと吹き飛ばしてしまう、土魔法を使えば床を壊れてしまう、火魔法も宿屋を燃やしかねません。となると、水と風の中級魔法を使えますか。
「ジユウデマイペースナショウジョ、ソレハシップウ、カゼノムチヨ、テキニイタミヲアタエタマエ、ウィントウィップ」
「詠唱早っ、うわぁっ」
「隙あり! ウィンドブレード! 」
「くはぁっ! 」
これこそ魔法が物理攻撃に劣る所です、魔法は魔法バリアを全て削るまで相手を傷つけません、物理攻撃は魔法バリアを削る同時に、ダメージを与えます。
けれど、スピードさえあれば、魔法使いなんて簡単に倒せると思っている人は多い、そんなことありませんのに。
「距離さえ詰めれば・・・」
舐められたものですね、では、距離を詰まらせてあげましょう。ほら、手加減しますから早くいらっしゃい。
「もらった! 」
ええ、もらいました、ウィンドバリアは、近接攻撃でもある程度防げますわ。
「何この風、うわぁっ」
風圧に体勢を崩されましたね、死になさい。
「ウィンドブ・・・」
「アサ、髪にゴミが付いているよ」
「あ、そう? ありがとう、リリーナ」
あっ! 油断してしまいましたか・・・思えば、リリーナは戦闘力が無いのに、いざという時必ず最善の行動を取りますね。
また刺されました、ごめんなさい、リリーナ。
シスコーンの薬に慣れましたでしょうか? 今回は半日しか寝ていませんでした。
リリーナも寝ています、けれど、リリーナの睡眠魔法の残り時間が分かりません以上、下手な真似は慎む方がいいですわ。
それにしても、寝ているリリーナは本当に天使のようです、そうですわ、そんなリリーナが噓をつくわけが・・・
起きたリリーナはわたくしを責め立てました、けれど、頼れてくれるリリーナを見ると、何だか、嬉しいです。
けれど、昨日考えました計画は、今夜で実行します。
夜になると、ムフフ。
夜になると、グヘヘ。
☆夜になりました~★
「お休み、アサ」
「お休み、リリーナ」
「優雅でエレガントな令嬢、それは水。静謐な水面よ、安らかな眠りをあたえたまえ、アクアスリープ」
「ンーフフフ、へへへ・・・はぁ、リリーナ~♡」
先ずはリリーナの指の中の魔法石に魔力を送ります、そしたら、元々中にいる魔力が溢れ出してしまいます、そして、その魔力をこの魔法石に注ぎます。
あぁ~成功しました!
「アサ、おはよう」
「おはよう、リリーナ」
「え!? アサ? あたしが二人いる? どういうこと? まさか・・・アサ、あなた・・・」
「そうよ」
「何てことするの? クローンだって自我を持っているのよ、それなのに、一日で消えるのよ! 」
「自由でマイペースな少女、それは疾風。風の縄よ、敵を縛って。ウィンドロープ」
「何するの? 」
「ねぇ、クローンのリリーナ、あなたの記憶はリリーナと共有してないよね~つまり、あたしがあなたに何をしても、本当のリリーナは知らないよね? 」
「何するつもり? 」
「まずは、自由でマイペースの少女、それは疾風。風の壁よ、わたくしを敵から守って! ウィンドバリア! これで、音漏れ対策が済んだ」
「今のアサ、なんが変」
「ねぇ、リリーナ、教えて、どんな嘘をついたの? 」
「え? 」
「教えて、そしたら、楽にしてあげるよ」
「いいよ」
「え? 」
「こんな拷問みたいなことをしなくても」
「じゃあ、教えて」
「そうね、どこから説明すればいいのか・・・実は、あたし達は魔界に向かでいるの、あたしね、時々同じ夢を見るのよ、誰かが魔界で待っているって」
「なるほど」
「魔界まで付き合ってくれないか? 」
「いいよ、そもそも、最初から地獄まで付き合うつもりよ」
「ありがとう、アサ、そろそろ縛り魔法を解除しでもいい? 」
「駄目よ、ここからはムフフの時間だね」
「ムフフ? 」
「先ずはこの羽で足裏を~ムフフフフ~」
「い、いやぁぁぁ! 」