逃走編 第7話 自分でございますか?
「リリーナ、ここは? 」
「宿屋だよ」
「あぁ、そうか、あたし、寝てしまった。ごめん、足を引っ張っちゃって・・・」
「そうね、ちょっと寝かせて、疲れた」
麻酔薬を飲ませたし、クローンもいるし、シスコンも多分スピードドラゴン車に払える金はないし、あたし達の居場所も知らないし、休める時間はあると思う。
「ありがとう、リリーナ」
「どういたしまして」
「優雅でエレガントな令嬢、それは水。静謐な水面よ、安らかな眠りをあたえたまえ」
そして、あたしは深い眠りについた。
「おはいよう、もう一人のあたし」
え!?
「どうしてここにいるの? あなたは・・・」
「消えたはず、か? 」
どうなっているの? それに、どうしてあたしは縛られているの? あぁ、そうか・・・
「あなたはあたしの記憶を持っているのなら知っているよね、あたしは、裏切りだけは許さないことを」
「あたしは裏切っていない」
「戯言」
「あたしは確かに時間を稼いだ、ちゃんと使命を果たして、消えかけた。だから、あたしは一度死んだ、これからは自分の為に生きるつもりよ」
「そう・・・シスコンがあなたを救ったから、アサを狙って来たわけね」
「あたしは、あの力がないの、これはどういうことなのか、分かる? 」
「なるほど、あの魔法石は魂までコピー出来るものじゃないというわけか」
え!? でも・・・
「ねぇ、あなた、すずしろの記憶あるの? 」
「あるよ」
どういうこと? 魂が違うのに・・・あ、わかった、記憶を消すタイミングは転生前、消していないのなら新しい体に上書きするというわけか。
でも困ったな、あたしは縛られているし、アサもここにいないし。アサはもう捕まった可能性が高い。じゃあ、どうしてわざわざあたしと話に来たのか?
「アサ以外にも何が目標あるの? 」
「ねぇ、知ってる? あなたが作るクローンは皆一日で消えるのよ」
「知ってるよ、それが? 」
「そうね、これこそあたし、他人のことが心底どうでもいいんだね」
「そう、どうでもいいよ、だって、目の前にいるあたしでさえ、あたしを裏切ったからね」
「あたしはね、一日魔力を補充されなければ消えるのよ。あなたがアサに寄生しているように、あたしはシスコンに寄生しているのよ、何が問題あるでも? 」
自分を否定できない・・・
「それに、あなたは耐えられないでしょう、隣に自分と似たような存在があることを」
ホントに嫌だ、何もかも見透かされた気分は・・・
「じゃあ、何しに来た? アサはもう確保しているでしょう」
「そうね、クローンは死ぬ為に作られた、せっかく人間に転生したのに、あなたのせいで一日しか生きられないのよ! 本当は知ってるでしょう? ずっと考えないようにしただけ、でもあたしの口から聞けば、もう無視できない。何より、あたしの言葉はあなたの記憶に残る、あなたがこれから作るクローンの記憶にも残るの、あなたが作るクローンはあなたを憎むでしょう、あなたは、もうクローンを作れない」
「そんなにあたしが憎い? アサだけじゃなく、クローンも作らせない・・・次は何を奪うつもり? 」
「はははっ! あ、駄目だ、笑をこらえられなかった」
へぇ? なに?
「あたしは確かにシスコンを助けようとしてるけど、アサをオカン家に引き渡すつもりはない」
「え!? でも・・・」
「自分のことでも、何でも知るわけではないのね。言ったでしょう、あたしはちゃんと時間を稼げた、死ぬ覚悟もしたよ、今更裏切るつもりはないわ、ただ、少し頼みたいことがある」
あたしが出来る、クローンができないことは一つしかない、運の操作だ。それに、アサを引き渡せず、シスコンの妹を助ける方法は一体・・・
いや、シスコンの妹を助けられるのはアサでも、お金でもない、ユニコーンの角、あるいはフェニックスの羽だ。
フェニックスの居場所は知らされている、生きて帰られる人が少ないだけ。つまり・・・
「なるほど、目撃情報が少なくで、幻獣と言われているユニコーンを探すつもりか? 」
「ええ、そうよ」
「なるほど、純潔な少女の前にしか姿を現わせないユニコーンを探すには、あなたを頼るしかないね、シスコンじゃ無理だからね。それで、ユニコーンを引け付けられる香りはもう調合したよね? 」
「ばっちりよ」
「でもね、あなたは知ってるでしょう、ユニコーンを探すには、どれだけの運が必要かを。あなたはあたしと同じ、まだリリーナのお父さんのこと、気にしているでしょう」
「大丈夫よ、シスコンから抜けばいい」
「いいの? シスコンが死んちゃうよ、あなたに魔力を提供する人がなくなるよ」
「あたしはもう死んだのよ、わかるでしょう? あたし達、生きるための目標がない、生きたい意志も薄い、簡単に死を受け入れられるわよ、せめて死ぬ前に誰かの役に立ちたいだけ」
「そう・・・じゃあ、死んで」
「ええ、死ぬわ」
「笑ってそんなこと言わないでよ、気持ち悪い」
「ありがとう」
「まぁ、あたしは自分だけに甘いだからね」
「フフフ」
「やはり自分を一番よくわかる人は自分よね、楽しかった」
「でももうクローンを作っちゃ駄目よ」
「うん」
あれ、待って・・・
「ねぇ、シスコンからユニコーンを探し出せるくらいの運を抜いちゃえば、きっと死ぬよね」
「彼はもう覚悟している」
「そうじゃない」
「あっ・・・」
「気付いた? 例え刺し違えてユニコーンを倒しても、一日で消えるあなたが、どうやってシスコンの妹のところまで角を運ぶつもり? 」