平和推進編 第6話 前 理想でございますか?
「ユアンさん、チャーリーさん、訓練中ごめんなさい。ちょっとお時間、大丈夫?」
普段は訓練しているのね。
「いいよ」
「リリアちゃんのためなら、いくらでも時間を捻りだせるよ」
その言い方ちょっと卑怯じゃない?
「えっとね。ブレイク公爵が加入したことで、不満に思う人も出てくると思うの。それで、この機会に、一人ずつみんなのお話を聞けたらなって」
「ああ。いいぜ」
「じゃあまずはユアンさんから」
ここで私は自分の過ちに気付いた。汗臭い……。
「話を聞きたいって、ブレイク公爵のことか? そうだな……いけ好かないヤツだとは思う。実に貴族らしい。だが、悔しいが、リリーナの言う通り、人の管理は確かにあいつの方が適任だ。ただ、あいつは絶対に人間だけに利するようなことをするはずだ。リリーナも、あいつから絶対に目を離すなよ」
「うん。ありがとう。他に不満なことはあるの? なんでもいいの。私への不満でも、他の愚痴でも、あったら言ってほしい」
「不満か。ないよ。リリーナが頑張ってることはよくわかってる」
流石は勇者、ということか。でも、王様も言ってた。無欲な人間ほど、抱く理想は高い。その理想に賛同し、寄り添うことができれば……。
「じゃあ、そうね。もしケルベロスが停戦を達成できたとして、私達の活動は、きっとこの世界に影響を与え続けると思うの。ユアンさんは、この世界をどう変えたい?」
「……あっ。どこから話せばいいのか。そうだな。リリーナちゃんは元々魔力が少ないよね」
「そうだけど」
「僕もだ。それで、入学の時、周りから『魔法学院には入らない方がいい、いじめられるぞ』って言われてた」
勇者にもそんな過去が……。でも今は明るい。
「それでも入学したけど、やっぱりいじめられて……結局、退学した」
私もアサがいなかったら、いじめられていたのかもしれない。そしたら、能力でいじめっ子を殺して学校を去っていたかも。
「幼馴染のヴァンが時々会いに来て、励ましてくれた」
ヴァン先輩……。
「それで、ある日ヴァンが、『魔力が少ない女の子が入学した』と話してくれたんだ」
私のことね。
「ヴァンがリリーナちゃんのことを話して、魔力が少なくてもできることはあるとずっと言ってくれた。だから僕は、ヴァンと二人で、この魔力の量で人の価値が決まる世界を変えたいと思って、がんばるようになったんだ。それで勇者になった。実績を積み、影響力を上げて、国を変えようとしたら、リリーナちゃんと出会った」
分かってる。私がユアンの人生を滅茶苦茶にして、ヴァン先輩を死なせた。
「リリーナちゃんに出会って、世界はこの国だけじゃないってことがわかった。他の国も、魔界だって世界の一部だ。リリーナちゃんが、僕の世界を広げてくれた。だから僕は、魔人も、人間も、魔力の量に関わらず、平等に生きていられる世界を作りたいんだ」
こんな人を私は……。いや、私には私の使命がある。




