平和推進編 第1話 後 トイレでございますか?
勇者にはなんの権限もない。けど、その発言力はこの国の最高権力者である教皇猊下よりも強い。だってそうでしょ。女神に選ばれた勇者と、人間に選ばれた教皇猊下とでは比べるまでもない。だから勇者は何をやってもわりとお咎めなし。
それが原因か、あたしが勇者になった日、従者がついた。従者というより、監視役と言ったほうが正しいかもしれない。だって、何があってもあたしの傍から離れられないのだから。
あの日、彼に『トイレに行かないか』ってしつこく聞かれて、彼がトイレを我慢してると気づき、あたしから離れるかを試した結果、彼は漏らしてからも、涙目になりながら、あたしにトイレ行かないかと尋ねてきた。さすがに罪悪感を覚えた。
真面目な人だと思う。だから教会も彼をあたしの傍に置いたと思う。それはそれとして、この件で、彼はあたしの味方ではないことは理解した。
それはそうと、あたしがやることは変わらない。女神様があたしを選んだ理由を考え続けてきたけど、やはりあたしに教会の改革をしてほしいと思う。実は女神様は髭生えてることなんて絶対にありえないし。だからあたしは自分の思うままに行動することにした。
聖なる弓は矢を要らず、魔力を矢として放つ。他の聖なる武器と違い、攻撃するたびに魔力が消費されるぶん、多彩な効果を持つ魔力の矢を放つことができる。その中に、空に一時間ほど軌跡を残し光り輝く矢がある。私は毎夕、その光の矢でメッセージを書くことにした。
『感謝は女神様にだけでなく、身近な人にも』とか、『女神様が愛するあなた自身と隣人も愛しなさい』とか。そのせいで、教会からはすっかり『問題児勇者』として扱われてる。
この国は宗教に力を入れすぎたせいか、他国に比べて発展はかなり遅れている。だが、影響力は大陸随一だ。例えば、教皇猊下が儀式で特定の商会のワインを指定すれば、大陸中の教会が従う。逆もまた然りで、この国と貿易国家は切っても切れない相互依存の関係にある。
勇者同士の交流も盛んで、私もたびたび貿易国家に赴くし、聖なる盾の勇者もよくこの国を訪れる。彼は金銭で物事を決める制度を嫌うらしい。ひょっとすると、女神は制度への疑問を抱く者を選んでいるのかもしれない。槍の勇者は奴隷制を嫌い、剣の勇者は魔法の才能で人の価値が決まる制度が嫌いだったりして。いつか直接会ってみたいな。
それと、貿易国家に行った時、魔人と会談する番組を見てから気になったけど……。




