戦争介入編II 第8話 後 鼻柱でございますか?
魔人の特徴を欠く魔人が存在するのかどうかを調べるために、僕はやむを得ず一度トーマスの屋敷から撤退した。
解雇されて機密情報にアクセルできなった僕は図書館で魔人図鑑を調べることにした。
やはり魔人は種類ごとに固有の特徴を持っていて、これらの部分は魔石として加工されるほど魔人にとっては重要な要素となっている。つまり、魔人らしい特徴を備えていないトーマスは魔人ではないと結論づけられる。
途方に暮れ、図書館の魔人図鑑を読み漁るうちに、僕の目に入ったのは魔物図鑑だった。
魔物とは知性を持たない存在だ。同じ魔力だけで生きる生物の中で、化け物じみた外見をして、二足歩行できなくても、知性があれば魔人に分類される。つまり、仕事をこなし会話もできるトーマスは、魔物であるはずがない。それはわかっていても、気分転換のために僕は魔物図鑑を手にした。
気分転換で読んだ魔物図鑑の一ページがまさか新しい方向をくれるなんて思いもしなかった。点と点が繋がり、真実が見えてくるような感覚。
存在するのだ、人間と同じ外見をする魔物、人間がなりうる魔物、アンデットが。
知性を欠き、人間の肉を喰らう魔物、それがアンデット。噂によれば、魔人の中には人をアンデットに変える固有魔法を持つ魔人がいるという。実際、停戦のきっかけになったあの魔物の襲撃も、魔人側を攻撃したのは魔物の死骸でできたアンデットという説があった。すなわち、アンデットを自然発生以外の方法で作り出せる魔人が存在するということだ。いや、待ってくれ、通常、アンデットは理性がないはずだ。
……ああ、なるほど、もしその魔人が作り出すアンデットに、生前の記憶と理性が宿っているとすれば! その魔人は戦争に勝つためにトーマスを殺害し、アンデットに変えたのだ! きっとそうだ! そうに違いない!
そうと分かれば、温度を測る魔石でトーマスの体温を測定し、それを撮影魔石で記録すれば、あのくそ上司の鼻柱をへし折れる! そう確信し、僕は行動に移した。
だが、トーマスの体温を測るということは、彼に直接接触する必要がある。後のない僕の手に伝えたのはトーマスの体温だった。そんなはずがない、そう思った僕の頭に浮かんだのはアンデットの記述、血が流れていなければ体温が存在しない。そうだ、血が…。
こうして、トーマスがアンデットであるという「発見」がされ、国は彼の財産を没収した。そして、僕は英雄ではなく、死刑囚となった。今回の件は、僕一人の独断で全責任を取らされ、国に切り捨てられた。




