戦争介入編II 第8話 前 覗きでございますか?
魔人の特徴というのは、基本的に角、目、そして肌の質。鱗や樹皮のような表皮、尻尾なども挙げられる。
服の下はわからないが、トーマスは見たところ、人間にしか見えなかった。
たとえ「写真を撮って記録すれば」と言われたとしても、トーマスは飲食も睡眠も必要としないため、屋敷にいる間はずっと書斎のデスクで仕事をしている。せめて、一度でも寝てくれれば、服の下が確認できるのに。
私自身は魔人の生態には詳しくないが、もし飲食が不要なら汗もかかないはずだ。そうなると、シャワーを浴びる必要すらなくなるのではないか?
持ち込みの携帯食料は、もう底をつきかけている。一時撤退するか、それともこの屋敷内で食料を調達するか……ただし、屋敷での食料調達は、屋敷の人間に見つかるというリスクを伴う。
僕は、我慢を続けることに決めた。上司に逆らってまで継続しているこの調査、成果を出す以外に、僕に残された道はない。
何時間が経過したのか、正直分からない。飲食も睡眠も必要としない相手を監視しているだけで、こんなにも精神が擦り減るとは思ってもみなかった。
一体、僕は何をしているんだ。意地を張るのはよくなかったのか? こんなことで人生を賭けるべきではなかったのか? 僕はそんな人間ではなかったはずだ。
孤児だった僕は、国により諜報員として育てられた。『国のためなら命を惜しむな』と教えられたものの、僕自身の命より、国が大切だと思ったことは一度もなかった。
今回の任務はリスクが高いとされ、遺書こそ書いたものの、本気で命を賭けるつもりはなかった。なのに……! あのくそ上司のせいだ!
もしあの上司が僕を信じてくれていたら、あいつを見返すために、仕事の辞表も人生の辞表も書く羽目にはならなかったはずだ。すべて、あいつのせいだ!
「……と面会の予定があるので、……シャワーを浴びて着かえてください」
……今トーマスの執事は何と言った? シャワー? 聞き間違いじゃないよな!
やーっほー! やった! これでトーマスの正体を確認できる! 男のシャワーを覗くことに興奮を覚えるなんて、夢にも思わなかった!
などと、その気になっていた先の僕の姿はお笑いだったぜ!
もちろん、服の下を確認しても、魔人らしい特徴は一切見られなかった……。
トーマスは本当に魔人なのか。あいつの言う通り、ただ飲食も睡眠も必要としない魔石を開発しただけなのか……。
これからどうするべきか。あのくそ上司に頭でもさげるのか。謝れば許してもらえるのか。これからずっとパワハラに耐え続けてもいいのか……。
あるはずだ! きっとまだ何かあるはずだ!
そんな魔石があれば市場に出しているはずだ。実物が存在するはずだ!
トーマスは魔人と繋がってる! 絶対だ!
僕は諦めないぞ!




