戦争介入編 第3話 不器用でございますか?
人と目を合わせられないって聞いたけど……。私は専属メイドだからレオンの様子を伺う必要はあるけど、それにしても目が合う回数が多すぎ。しかもすぐ目を逸らして、顔を赤く染めるし。
「レオン様、お薬のお時間です」
上級ポーションでも簡単に治せない怪我。棒と包帯で固定されてるこの腕は、恐らく粉砕骨折。同僚の話によると、レオンは数人の暴徒に押さえつけたれて、棒で腕を数回殴られたらしい。同情はするけど……。
「レオン様、お口をお開けください」
また目を逸らす。飲みたくないのかな? まあいい、元帥が戻るまで他にやることないんだし。
「レオン様、私はいつでもお側におります」
(この三日間なら)いつでも側にいるよ。
またチラチラしてる……。いいよ。飲むまで待つから。
「……ふっ」
今笑った? あっ、違う。これは泣くのを我慢してる。
「レオン様? 我慢するより、スッキリした方がいいですよ」
我慢できず、泣き出したレオンの背中を優しくさすってあげた。
「なんで僕がこんな目に! 何も悪いことしてないのに!」
君だけは、だけどね。悪いのは煽動した私か、戦争を始めた人間とゴーストか。暴動を起こした暴徒達か、それを武力鎮圧した軍か。はたまたこの狂った世の中か。
レオンが今必要とする言葉はなんなのか、私がそれを口にできるのか、それさえわからない。だから私は彼を優しく抱きしめてあげた。そしたら彼が抱き返してくれた。
罪悪感を消すとか別に考えてないし、そういうのは無意味だということもわかってる。
それから、レオンは私から目を逸らさなくなったし、手もかからなくなった。
レオンは段々私に心を開いてくれた。家族のこと、将来の夢、思い、いろんなことを話してくれた。
そんな中、元帥がこの屋敷に戻ってきた。
本当はすぐ元帥から運を抜けとるべきだったけど、何故か私は躊躇してる。
「レオン、怪我の具合は?」
「だいぶ、よくなりました」
「そうか」
「……」
「……」
え? もう終わり? 久しぶりに家族と食事してるわけだし、もうちょっと話してもいいと思うけど?
「こいつらは誰だ?」
え? あ、私たちのことか。
「暴動の後、使用人がたくさんやめたので、メイドを数人雇いました」
「全員ちゃんとした紹介状を持っているだろうな! よもや信用できない人間をこの屋敷に入れてないだろうな」
「リサは信用できます!」
「レオン、誰の許可を得てこの私に向かって大声で話しているのだ? お前いつからそんなに偉くなったのだ!」
これは……トラウマだけの問題じゃなさそう。
「リサというのは?」
「お初にお目にかかります、旦那様。私がリサでございます」
「リサのおかげて、僕は立ち直った。僕はリサに恋をしてる!」
はぁ!!!???
いやいやいや、気づいたけどさ! 早いよ! また会って数日だよ? それに、あんた父上のことが怖いって言ったちゃん! 私の気持ちも確かめずこんなことお父さんに言っちゃうの?
「ほう。貴様如きがこの家に入れると思っていたのか」
「とんてもございません。レオン様に懸想を抱くような大それたことを……」
「リサ……」
いや、それより早く運を抜いてよ! 今がチャンスなのに!
「レオン、つもりお前の片思いなのか?」
「……」
何を戸惑ってる! 運を抜いて殺すのよ!
「息子のことは好きではないと?」
「滅相もございません。ただ、私はあくまでも平民です。分不相応な恋は望んでいません」
「もしその恋が叶うのなら?」
いやいやいや、私には恋人がいるから! とりあえず運を抜くのよ! アサの手ばかり汚すんじゃなくて、自分の手も汚すのよ! ほらせーの!
「私、まだ恋とはどういったものなのか、わかっておりません」
はい、せーの! 抜いた! やっちゃったよ! 私、人を殺した。言葉じゃなくて、間接的でもなくて、自分の意思で人を……!
「年は?」
「13でございます」
レオンまた悲しむでしょね。
「それなら仕方ないのか。レオン、惚れた女だ。自分で落として見せよう」
「父上、認めてくれるのですか?!」
「……今まで、父らしいことできなかった。厳しすぎという自覚もある。お前のその傷も、私のせいではある。許せとは言わないが、せめて父らしいことを……」
「父上……」
不器用な人なんだね。ってやめてよこういうドラマみたいなのを! 先殺したから! 三日後死ぬから?
いや、やるべきことをやったまでよ。運を戻すつもりはないし、後悔もしない。間違ってるかもしれないけど、私はちゃんと覚悟を決めて一人でここまでやて来たから!
あと最大三日。昔実験した結果、死ぬきっかけがある場合、三日以内で事故死してしまう。きっかけがなかった場合も72時間ぴったりで死んでしまう。ただ、元帥夫婦は息子達との身体接触は一切ないし、そもそも元帥があんまりこの屋敷にいないから元帥以外は生かしていい。
食事後、二人でレオンの部屋に戻った。
「リサ、僕じゃあ父上の爵位を継承できないけど、傷を治して、頑張って騎士を目指すから! リサを幸せにしてみせるから!」
「騎士になって、戦争でも参加するおつもりですか?」
「ああ、国と、大切な人を守るために!」
「……魔人を殺しますか?」
「ああ!」
私は髪を解き、角を見せた。




