ピースフルケルベロス編II 第10話 前 無駄でございますか?
「ええ。もちろん、疑問持ったことあるよ。でも、それを触れたらリリーナが私の目の前から消えてしまいそうな気がして」
「ふふっ。消えるって私は人魚姫か何かか?」
アサの口調が元に戻った。少しは落ち着いたかな?
「実は天使だったりする?」
「人間だよ」
「でも転生する時、記憶の継承のオプションはあっても、体の継承のオプションはなかったよ?」
「うん。なかった。私ね、神様の喧嘩に巻き込まれて死んだらしい」
私はすずしろとして死んだあとの2回の転生について話した。もちろん運を操る能力に関しては話していない。
「そんなことが……」
「そう。だから桜子の居場所はわかるし、誰とも仲良くなる気はなかったの。あの頃はちょっと人間不信だったからね。ううん、今だってそれは治ってない。表面上はいい人ぶってるけど、本当はもっと他人と距離を取りたいし、心から誰かを信頼したことなんて一度もないの。しないし、できないっ……」
「リリーナっ! ごめんなさい! 私、リリーナの気持ちも知らないで、自分の気持ちばかり押し付けた!」
「前世で仲良くなった桜子に会ったら、もしかしたらすずしろだった頃の気持ちを思い出せる。そしたら何かが変わるかもしれないと思って魔界に旅立った。アサが付いて来るのは予想外だった。アサは強いから桜子を探すのに都合が良かったというのは認めるよ。言い方が悪いかもしれないけど、アサを旅の仲間に誘ったわけではないし、利用するつもりはなかった」
「でも私がいなければリリーナは何回も死んでいたよ。本当にあの片翼のベガサスで戦えると思ってたの? そんなバカさんを放っとけるわけないでしょ」
「返す言葉もない……話戻すけど、桜子に会えてもアサをお払い箱にしなかった。だから桜子がいればアサが要らなくなることはないし、お母さんだから一緒にいたわけでもない。あの旅で私たちが培ったことはちゃんとあるし、一緒にいた時間は無駄じゃないよ?」
「無駄では、なかった……っ」
「それでもね、前世のこともあるから、私は常に裏切りに怯えながらアサの気持ちを応えようとした」
「わたくしがリリーナを裏切ることは決してありません!」
「それはわかるけど、気持ちが追いつけないの。アサだって、私がいくら他の人なんてどうでもいいって言っても、アサは納得しないでしょ」
「それは……そうだけど」
「分かりあうことって難しいよね」
「……」
「あー、そういえばアサ、先聞いたよ。私の笑顔が見たいって言ったよね? でも残念、私の笑顔はもう前世に忘れてきたよ?」




