ピースフルケルベロス編II 第8話 前 不安でございますか?
死霊術のことがバレた。まあ、どの道生かすつもりないから。
「アサ・オカン、このまま私を殺していいのですか? リリーナ・ナナリーの気持ちがわからなくなるのですよ?」
え? 何の話? こいつの魔人としての固有魔法のこと? 言葉で人を操ることではなかったの?
「アサ、惑わされちゃダメよ。こいつの魔法は言葉で人を操る魔法なのよ!」
「ブッブー。ハズレ」
そうね。簡単に人を洗脳できれば、アサが信頼してる私を洗脳した方が手っ取り早いし、そもそも二人一緒に洗脳すれば苦労はしない。何らかの制限があるかもしれない。
この際、あいつの魔法の正体はどうだっていい。重要なのは私とアサの上下関係を知っててなおアサを洗脳しようとしてること。それと私の言葉がアサに届くと言うこと。
「アサ、ここであいつを逃したら大変なことになってしまう。あの約束はもう忘れた? あの日のためにもできる限りのことをやるべきだよ」
「リリーナ……そうね」
「嘘ですね。リリーナ・ナナリーは貴女を利用しているだけです。私にはわかります」
「アサは私よりあの女を信用するの?」
「違う。でも……」
「貴女が自分の口で言ったではありませんか。リリーナ・ナナリーは貴女の不安の時だけ優しいって」
……気付いたのか。
「違う! 不安の時だけとは言ってない! 不安の時は特に優しいって言ったの!」
「同じだよ」
なるほど。こいつの魔法は人の心につけ込むタイプなのね。
「リリーナ・ナナリー。貴女本当にすごいです。尊敬します。魔法なしでここまで人の心を操れるとは」
「なるほど。先私とは同類だと何回も認めさせたのはこのためね。残念ながら、人と心を通わせたことのないあなたには私達の絆を理解することはできないらしい。アサ、私、何かアサを不安にさせるようなことをしたかな?」
「口では何とでも言えます。けれど、私の魔法は違います。私はリリーナ・ナナリーの貴女への感情を読み取れることができます。そして、私は貴女の心からの願いを知っています。リリーナ・ナナリーを閉じ込めて、貴女しか見えなくすることでしょう? この村でなら、その願いを叶えることができますよ」
アサ、こんなことを考えてたのか……。
「違う! 私はただリリーナの笑顔が見たくて!」
「その笑顔を他の人に見せたくないのでは?」
「それは……そうだけど」
「そのためにも、リリーナ・ナナリーを閉じ込めなくてはね。しかし、セレンのもとではそれができません。でしょう?」
「……」
いや、アサ。どうしてそんな目でこっちを見るの? まさか……?




