ピースフルケルベロス編II 第5話 前 ご馳走でございますか?
木の柵で囲まれてるこの村の入り口には女神像が二体並んでる。一体は立派な胸をお持ちで、もう一体は……そう、控えめ。なるほど、宗教の色こそ濃いんだけど、とても平和なところみたい。私たちが目指す魔族と人間族の共存の形は、この村で見つけるかもしれない。
アサは私と一緒にいられて嬉しいでしょうけど、私はハラハラしてる。全身に悪運のオーラがあるということは拷問される。慎重に慎重を重ねるべきだ。だからアサ、頼むからそのアホ面なんとかして。
「お嬢ちゃん達、パパとママはどこ?」
門番二人、やはり普通な村ではなさそうね。
「デカい魔獣の晩ごはんになったよ」
「そっか、辛い思いしたね。でも大丈夫、ここは安全だ」
「……」
「辛かったらちゃんと泣いた方が気持ちが楽になれるかもしれないよ」
「いい。泣いたところで誰も助けなんかくれないし、無駄にお腹が空くだけだ」
うわーこいつ涙腺脆すぎない?
「そうだ! お腹空いてるだろう。これで腹一杯食べてね。そっちのお嬢ちゃんも」
「受け取れないわ」
結構太っ腹だね、このおじさん。でも設定的にお腹空いてるから断るのも不自然だし。せっかく、この子大人ぷってるけど、まだまだ子供じゃないか作戦、が無駄になる。
「返せないし、恩を受ける理由もない」
「バーカ。おじさんはお嬢ちゃんみたいな可愛い子が元気で笑ってくれれば満足だよ!」
典型的なきもいおじさんだね。
「先輩、きもいっす」
門番さん、先からずっと私の足チラ見してたあなたの方がキモいと思うけど。あとアサ、その親の仇が目の前にいるみたいな顔しまえ!
「後で後悔しても知らないからね」
「しないさ。あの店に行って、トミーの紹介って言え。美味しいもん食えるぜ」
村はそんなに広くないし、建物もそんなに高くない、教会以外は。
「おや、こんな時間でお客が来るなんて」
「どうも。トミーさんがここに来れば美味しいもの食べられるって」
「トミーの紹介か。きっと女神様のお導きね。なら腕によりをかけてご馳走を作るか」
「ところで、先こんな時間って言ったよね。またお昼だけど」
「お嬢ちゃん知らないのかい。今は賛美式の時間だよ。ああ、そうだ。お嬢ちゃんも参加してみるといい」
「賛美式って?」
「賛美式はというのは週三回で、女神様を讃えるお祭りみたいなもんだ」
孤児院は教会が運営してるから行ってみる価値があるかも。
結構美味しかった。
「ご馳走様。美味しかった」
「礼なら私じゃなく、女神様に言いなさい」
宗教って結構怖いかも……。




