ピースフルケルベロス編 第12話 俗物でございますか?
世の中俗物しかいない。
天才にとって、この世界は生き辛い。天才は理解されないからだ。私は天才だ。人と違う目線で物事を見ることができる。物事の本質を見極めるのだ。
子供の時から私は大人とも対等に論争することできる。いや、違う。今まで一度だって負けたことはなかった。みんなが私に言い返せない時、必ず屁理屈とか、とにかくお前は間違ってるって言うんだ。とにかくという言葉はさ、反論できないけど、相手が正しいって認めたくない時に使うのよね。つまり、とにかくって言った時点で負けを認めたことになるのよ!
私が好きな音楽だってそう。先生が私のこと他の子より断然うまいだって言ってくれた。なのに他の子のレベルに合わせようなんて言うのだ。他の子の下手さが目立つのなら必死に練習して少しでも私に追い付くのが筋なんじゃない。その方が全体のレベル上げるし。私が一番上手いだから私を主役にすればいいだけな話。観客だって、上手い演奏聞きたいと思うし。なのにみんなが楽しく演奏できるのが一番重要なんて言うのよ。それなら演奏会開くなつーの。
そこで、トーマス財団が創立した楽団を応募した。プロはやはり違う。私の才能をちゃんと認めてくれる。私は俗物どもに見返したくて応募したわけじゃない。俗物の目なんて気にしない。私と同じ価値観を持つ仲間、友達が欲しいだけだ。さすがトーマス財団と言うべきか。レベルが高い。みんなを音楽を使って自分を表現してる。「私が一番上手い、私の音だけを聞いて」とか、「私は指揮者よりセンスある、みんな私についてきて」とか。でも、この楽団の中で一つだけ異質な音が混ざってる。みんなと比べて数段下手。正直よくこの楽団に入れたなって思った。でも、この音もちゃんと自己表現出来てる。少し異質だったけど。「私は寂しい。幸せになりたい」そう言ってるように聞こえた。その音の主に興味を持って探したけど、楽団に入れるのも納得だ。むしろ納得しかなかった。神秘的ですっごい美少女だった。きっとその顔のお陰で苦労なく過ごしてきたんだろう。なのにどうしてそんな寂しい音色を奏でるだろう?
彼女のこと、気になって仕方がなかった。もっと知りたいの。普段何してるんだろう? 何考えてるんだろうって。だから、私はこっそり彼女の部屋に入った。そして何故かいる獣人に気付かれて、ミシェルと話す機会が出来た。初めて近くて顔見た。すごく幸薄そうな感じ。どうやらミシェルはスパイみたいな者で戦争を止めたいらしい。あとミシェルというのも偽名っぽい。
私は自分の意見を述べたけど、ミシェルはあの獣人のように頭ごなしに私を否定なんてしなかった。ちゃんと論理的に反論してくれた。初めてだ、私の話を真剣に聞いてくれて、内容をちゃんと考える人。しかも、命に関わる重大な秘密を知られても、口封じしようとする友達を止めてくれた。これはもう親友と言ってもいいよね! そもそも、あんな俗物がミシェルの隣にいるべきではない。
私は別に気に入らない人を俗物を呼んでいるわけじゃない。俗物というのは自分の考えを持たない、人に合わせるしか能がない、やりたいことも特にない。大勢の人の言うことを疑わずに信じちゃうアホのこと。天才は少数派、少ないだから天才って呼ばれるのよ。アホは山ほどあるけどね。アホによるアホのためのアホな道徳規範に洗脳されたドアホ。社会のこともよく見ず、考えず、「人を殺すのはよくないことだから、死刑はよくないと思います」みたいなことをほざく低脳。自分でさえ自分のことを好きになれないようなゴミ。お金でしか自分を満足させることができない、自分を飾ることでしか自信を得られないウジ虫。自分を磨けないくせして自分より優れる人の欠点を探し、それを攻撃するような糞虫。それが俗物だ。
そう、ミシェルは俗物じゃなく、私を必要としてる。ミシェルはわかってるんだ。あの獣人より、私の方がいいってこと。でもあの獣人が付き纏うから。そう、ミシェルはきっと困ってるんだ。私がなんとかしないと。
ミシェルを見守って気付いたんだけど、ミシェルは人間と魔人の答弁会で代打してる。納得した。あの魔人、いつも急に倫理的思考できるようになるから。
楽団が解散する……。ミシェルと離れ離れになる。そんなことあっちゃダメだ。ミシェルとの出会いは必然だ。運命だ。だからミシェルと一緒にいなくちゃ!
でもあの獣人がいる。私の匂いも覚えてる。だから薬で匂いも隠さないと。
行き先が魔界だと知った時はすでにスピードドラゴン車の上。でも構わない。何処にだってついて行くって決めったから。
そして、ミシェルと一緒に住むことになった。ミシェルを付き纏うゴキブリはあの獣人だけじゃなかった。人間も、魔人まで……。
私もケルベロスの一員になった。勇者とか、多分魔界の偉いさんもいる。でも私はそいつらにも負けない。私は誰よりもミシェルの役に立って見せる。誰よりもだ! 私はミシェルの運命の人なのだから!




