ピースフルケルベロス編 第9話 前 夫でございますか?
「そう。私が目指してるのは、出来るかどうかもわかんない、ちょっとした意識改革」
「大丈夫。成功させよう! アイちゃんなら出来るよ。私を変えてくれたアイちゃんなら」
私なら……か。通信石が鳴った。アサかな?
「アサ、中間報告?」
「うん」
魔王の正体が知れ渡り、魔王は魔王ではなく、魔王の体を操れる誰かと認識されてる。にもかかわらず、今魔界はセレン派と魔王派で二分してる。セレン派は反戦、魔王派は主戦で拮抗してる。
「魔王軍は今人間界の境で魔物を狩ってる」
「え? どうして?」
魔人は魔法石を作らないし、その技術もない。しかも魔人の魔力量が多いので、魔物に狙われる。リスクを冒して人間界近くの魔物を狩るメリットは……。
「あ、ゴーストの魂集め?」
「さすがリリーナ。しかもご丁寧に死体を燃やすの」
「タイサ対策か」
「ええ」
セレン派を警戒しながらも人間との戦争を避けようとしない。何がそうさせているのやら……。
魔族を当たらせると内戦になり、その隙に人間が攻めて来たら……。さて、どうするべきか。勇者二人に任せようか?
「うん。分かった。対策は考えておく。アサ、ありがとう。また何か分かったら連絡してね」
「ま、待って。ねぇ、リリーナ、いつになったら帰って来られる?」
アサさ……。今、この世界情勢で、その渦のど真ん中にいる私達が色恋沙汰に現を抜かしてる場合か?
「それにね、別にリリーナから掛けてもいいのよ。私、いつでもリリーナからの電話、あ、いや。通信石を待っているから」
まあ、私も私達の幸せのために頑張っているわけだし、寂しくないと言えば嘘になる。だから、アサの気持ちはわかる。無下にするのは良くない……か。
「うん。今はちょっと忙しいから無理だけど、今の生活がちょっとでも慣れたら時間を作るね」
「うん! 待ってる。待ってるからね」
「うん。バイバイ」
なんか、仕事が忙しくて妻に冷たい夫みたいな気分。
「ねぇ、アイちゃんとそのアサってどんな関係なの? なんか依存されてるみたいだけど」
ロッティ、あなたまさか……。いや、好意持たれたからってすぐ恋に結びつけるべきではない。同性愛がまだ理解されてないこの世界だし、単純に好奇心からの質問という可能性もある。いずれにせよ……。
「付き合っているよ」
「「えっ!?」」
ん? なんか……?
「アイちゃん! 誰かいる!」
「え?」
まさかどこかのエージェント? やぱい、全部聞かれた?
「ベットの下だ。アイちゃん、気をつけて」
「どなたかは分かりませんがとりあえず出て来てもらえます?」




