ピースフルケルベロス編 第8話 存在意義でございますか?
人間と論争する日々は続いてる。
「魔人を信じて欲しければ今すぐ戦闘行為をやめて、降伏しろ」
「ですから、人間が一枚岩ではないように、魔族もそれぞれの意思があります。私達は戦いを止めたい、言わば反戦派なんです。でもそんな権利はあないのです」
「戦争を止めないのなら、なんのための公開会談だ! なんの意味もないじゃないか」
「じゃあ逆に聞きますが、今出来る意味のあることはなんですか。今すぐ戦争を終わらせる方法は?」
「そんなの魔王を倒せば済むことだろうが! そのための勇者だ」
「魔族はずっと魔王なしでやってきました。魔王を倒せば戦争が終わる保証なんてどこにもないし、勇者も暗殺者ではありません。仮に本当に魔王を倒せても、どれだけの犠牲が出るか、想像したことありますか? それに、人間は本当に魔族を魔法石にするかはさておき、魔族はそう認知してるから降参しても普通に暮らせると思ってません。みんなは種族の存亡をかけた戦争をする理由と覚悟がありますか?」
「あ……ある!」
「家族が戦火に巻き込まれる覚悟も? 人間全員がその覚悟があるのですか?」
「でも魔族と話したところで何も変わらないじゃないか?」
「かもしれません。でも、それでも、すぐに解決する方法がないと言って、何もしなければ何も始まりません」
疲れた……。結局、毎回私がマモンの代わりに答弁してた。楽団のみんなも思春期だからか、結構視線を感じる。毎回席を立ってしまって、正体を表さない正義のヒーローみたいになっちゃってるよ。
まあ、とにかく、やれることをやれる時にやれるだけやる。懐かしいな、すずしろだった頃の口癖。あの頃は生きるために必死だった。今は世界のため、というわけではなく、私が、私の幸せのために頑張ってる。桜子とお母さんと過ごしたあの日々を、もう一度。そうね、今度はこの世界で知り合った人、いや、知的生命体、ロッティ、ソニア、マモン、ドラゴンさんも誘って一緒にワイワイしたい。そのためにも……。
「アイちゃん、お疲れ様」
「ロッティもアンケートの集計お疲れ様。あ、そうだ。ロッティから見てどう? 私達がやってること、意味あると思う?」
「わかんない」
「そうか」
「正直アイちゃんが言ってることも理解していない。知的生命体?とかわかんない言葉あってあんまり理解出来てなかった。学校に行ったことないから」
しまった。私としたことが……。論争ではなく、より多くの人に私たちの考えを伝えるのが目的なのに……。
「知的生命体というのは、まあ、簡単に言えば私達みたいにものを考えたり、ものを作ったり、会話したりすることのできる生物のこと。つまり、私が言いたいことは、同じく理性と感情を持ってる私達は、種族という小さいなカテゴリーに囚われる必要がないということ」
「なるほど。でも無理だと思うよ。だってアイちゃんも私とあの奴隷商人のところにいたでしょ。アイちゃんも知ってるよね。人間は他の種族をどう扱うのかを」
「うん。よく知ってるよ。でもね、人間も、獣人も、魔人も、他の亜人だって、いいのと、悪いのがいるのよ。もっと正確にいれば、どんな……そう、知的生命体、略して知生にしようか。どんな知生でもいいことをしたい時と悪いことをしちゃう時があるのよ。その比率を影響するものがあるとすれば、それは環境だと、私は思ってる」
「アイちゃんがその環境を変えたいということか」
「うん。ロッティなかなか敏いじゃない」
「えへへ。アイちゃんにそう言われるとすっごく嬉しいよ」
「そうね。平和になったら私がロッティの先生になるのはどう? ロッティさえ良ければ、だけど」
「いい! すーっごくいいよ! きっと毎日が楽しいだろうな」
「でも、まずは平和にしないとね」
「だね。なんでチセイ? は争うのかな?」
「知りたい? 長い話になるけど」
「アイちゃんの話面白いし、勉強になるから聞きたい」
「嬉しいな。えーとね、動物や魔獣は基本自殺なんてしないの」
「そうなの?」
「うん。どんなに苦しくても生きようとするの。でも知生は違うでしょ」
「まあ……」
「それはね、知生は自分の存在意義を求めるからだ」
「存在意義……」
「そう。自分が何のために生まれてきたのか、何のために生きているのか。自分の価値を証明できなければ、人間は生きる気力を失うという説があるの」
「それはそうよ。誰だって、必要とされてないと悲しくなるんだから」
「うん。そこでね、簡単に出来る自分の価値を証明する方法があるのよ」
「というと?」
「他人より優れてるって証明すればいい。やり方は主に2通りあるの。自分を上げるか、他人を落とすか」
「あっ」
「やはりロッティは敏いね。そう、自分を上げるより、他者を落とす方がよっぽど簡単だから。だから人間は獣人を差別するし、エルフは人間を蔑視するの」
「そうか。でも今回の戦争は魔人を魔法石にするとか、お金とかが原因なんじゃないの?」
「それはきっかけであって根本的な原因じゃない。どこかの有名な学者がある実験をした。収入と幸福度を関係付ける研究をしたところ、ある程度生活に困らない、尚且つ自分の欲望をお金で満たせれば、お金はただの数字になるのよ。ライオンズハートが私達を助けにきた日のこと覚えてる?」
「もちろん」
「男獣人達は戦わせる、私達は……」
「……うん。分かった! つまり、アイちゃんが目指してるのは……」




