戦争阻止編 番外編2 呪いでございますか?
注意 ゴキブリが苦手な方はこの話の最後までお読みにならないでください。Gという言葉がお見えになったら拝読をやめるようお願い申し上げます。
ピースフルケルベロス編第1話も投稿しました。
「で、その賞金稼ぎは呪われた妹のために私達を捕まえようとして……」
「呪い?」
「うん」
「呪いってあの呪い? どの種族の魔法?」
「魔法じゃないと思う。あのシスコンが言うには殺された人の怨念がどうとか」
「幽霊ってこと? この魔法の世界でも幽霊はいないはずだ。ましてや呪いだなんて」
そういえば桜子幽霊苦手だったような。
「あなたも前世のことを覚えてるから死んだあとの世界のことも覚えてるはずだ。それでも幽霊は存在しないと?」
「死んだ後の世界があっても、この世界に幽霊があるとは限らない。人を呪うなんてできるはずもない」
「だから実際呪われてた人がいるだってば。ね、リリーナ」
「賞金稼ぎの人はそう言ってたね」
「その賞金稼ぎの言葉は真実とは限らないでしょ」
「あんたさ……リリーナ何か言ってやってくれよ」
昔桜子と幽霊の話全然してなかった。
「何かが存在することを証明するより、存在しないことを証明する方がずっと難しい」
「どう言うこと?」
「例えば、そう、二千年前の人間は、赤外線や電波の存在を証明は出来ると思う?」
「できないと思う……」
「つまり、幽霊の存在を証明できなくいと同時に、否定することもできないってこと?」
「うん。よく聞くじゃない。幽霊は科学的じゃないって。私からすれば科学的ないじゃないって考え方こそ科学的じゃないと思う。証明するのも、否定するのも証拠が必要なんだから」
「でも、私達死後の世界に行ってたよね」
「それは桜子の言う通り、死んだ後もこの世界に留まれる幽霊があるなんて証明できないし、死んだ後の私達の意識が、一般的に幽霊だと認識される存在とは同じ存在なのか。私達三人以外死後の世界のこと覚えてる人どれだけいるのか……」
「でもリリーナ、これはあくまでも私の考えなんだけど、幽霊を信じない古代文明はほぼいないと思うよ。古代にお互いの存在を知らない、文明交流してない文明沢山あるんじゃないか。偶然にも沢山の文明は幽霊の存在を信じる。これは幽霊は存在するってことなんじゃない?」
「それはちょっと違いよ。交流してないはずの文明が同じことをする、あるいは同じことを作るのは、人間の本質は同じだからよ」
「え? どういうこと? もっとわかりやすく説明してくれない?」
「そうね。例を挙げると、言葉。他人とコミュニケーションを取る必要があるから。お金もそう。例えば、牛を飼う人は鶏肉や、野菜も食べたい。それなら、牛肉で他の食材と交換すればいい。でも食材は腐るから他の、腐らない、なおかつ信用のあるもので交換すればいい。つまり、お金は最初、働かざる者は食うべからずという人の本質で作られたシステム。まあ、すぐ人の物欲とか、承認欲求とかの本質を表すシステムにもなったけど」
「じゃあ幽霊はどんな本質を表してるの?」
「愛着と罪悪感、かな?」
「罪悪感はわかる。人を殺して、憎まれてると思ったから、殺された人が化けて出ると思ってしまうってことだよね。でも愛着ってどういうこと?」
「大切な人の死を受け入れたくないの表しってことよ。その人が死んだとしてもその人のために何かがしたい。お線香を供えるのも、お祈りするのも、お墓を作ることだってそう。幽霊が存在しないと、それらは全部無駄な時間になってしまう。それらを無駄にしないためにも幽霊は存在しなければならない。そう思うさせるのは人間の愛着、空いた心の穴を埋めるための人の本質だと、私は考えてる」
「なんか、なんというか、ロマンチック!」
ロマン……チック?
「うんうん〜死んでも思い続けるってロマンチックだよね。愛、ってことだよね」
「そうね。私達三人がここにいるという奇跡が」
桜子は私がこれ世界に行くかもしれないからこの世界に転生した。私は桜子を追って、アサは私を追った。だから私達は今こうして三人でいられる。
「リリーナ〜」
「すず〜」
それでアサと桜子が少しでも仲良くなれたら。
「じゃあ、呪いは?」
「呪いね。呪いは二種類あると思う。その前に、呪いの反対語ってなんだと思う?」
「えーっと……祝福、とか?」
「正解、でもそれだけじゃない。お祈りもそう。実際行動や、論理的な因果性が共わない行動で相手の幸運を願うことだ。逆に不幸を願うのが呪いだよ。で、先二種類って言ったよね。その祝福の反対のが一種類目」
「呪ってやるって捨て台詞を吐くみたいな?」
「うん。他にも藁人形とか、枕に写真を貼って殴るとか。相手の不幸を願うと同時に、ストレス発散のために、という面もある。で、あっ、その前に、迷信ってなんだと思う?」
「科学の根拠がないのに信じわれる言い伝えとか?」
「うーん。私の解釈はちょっと違うかな。私は学習と関連付けだと思う?」
「すず、もっとわかりやすく」
「例えば、茶柱が立った。そしていいことが起きた。で、人は学習という機能があってね。いいことを再び起こさせるために、どうすればいいのか、何があった、何をしたからいいことが起きたと考え始めるわけ。そこで普段起こってない茶柱が立ったという珍しい現象に関連をつけたわけ。呪いもそう」
「あっ」
「つまり、藁人形に針を刺したあと偶然にもその人に悪いことが起きたと」
「毎日ストレス発散のためにやってるでしょから確率はそんなに低くないと思うよ」
「なるほど」
納得してくれたっぽい。
「で、二種類目は完全犯罪よ」
「完全犯罪? どういうこと?」
「そもそも人を呪う理由って何?」
「それは、その人が憎かったからじゃない?」
「なら報復すればいいんじゃない?」
「法律とかあるし……あっ。つまり呪いと偽って……」
「そう。蠱毒とかがいい例だと思う。例えばあの人を殺したい。でも捕まえられたくない。なら普通な殺し方ではダメ。そうね、虫に刺されて死んだのなら死因も自然で、誰も自分を疑ったりしない。そうね、そうと決まれば使う虫も考えないとね。確実に人を殺せるような強い毒を持つ虫を使おう。でも、一番強い毒虫ってなんでしょ。そうだ、毒虫を集めて戦わせて、生き残った虫を使おう、みたいな? 昔の人が考えそうなことじゃない?」
「確かに」
「つまり、リリーナも幽霊が人を呪うなんてできないと考えてるのね」
「……っ」
「ちょっと違うかな。先も言った通り、今はまだ幽霊の存在を証明するのも否定するのもできていないから一旦オカルトの話なしで話を進んだだけ」
「でも、シスコンの話は嘘ではなかったという仮定で進む場合は?」
「そうだね? 毒ってなんだと思う?」
「蛇の毒のような有害な化学物質? 呪いって実は毒だったってこと?」
「可能性の一つとしてね。特に昔、科学がまだ進めてない頃、未知な毒や知識にない病気、特に精神疾患が呪いと認識されることは多いと思うよ」
「……う」
アサは私を味方にしたいのはわかるけど……。アサからしてみたら私は二人の冒険を否定してるように見えてるかも?
「実は三種類目もあるの。いや、先の二種類だって私の考察なんだけど、、三種類目は私の独自な考え方かもしれない」
「どんな?」
「そうね。心理的呪い、とても名付くか」
「「心理的呪い?」」
「例えば、そうだね。お日様の正体はダニの死体。布団の匂いを嗅ぐとダニの死体が鼻から肺に入ってしまうとか?」
「で、でも! それってデマだったんじゃないか?」
「デマだとは知らず、布団の匂いが好きな人にとって、それは十分呪いだと思わない? 大好きな布団の匂いを嗅ぐとする時たび、嫌でもダニの死体の話が頭に浮かぶから。あとはそう、味覚が繊細で食べるのが大好きな人の食事中、ハエが排泄物に群がる画像を見せるとか。聴覚優位な人が大好きな歌を聴いてる時にその人の嫌な話をすると、その好きな歌を聴くたびにその嫌な話を思い出して、大好きな歌が好きてなくなるとか。一番現実的なのは浮気されて、浮気した恋人を許そうとしても、一緒にいる時恋人と浮気相手が一緒にいた時のことを想像してしまい、恋人のことを愛せなくなるとか。あっ、悪用厳禁ね」
「恋人のやつ以外の、ちょっと地味かも」
「言ったな〜! とびっきりエグいので呪ってやろうか?」
「何それ! 聞きたい!」
「後悔することになるよ」
「えー気になる。言ってよ」
「いや、アサもいるし」
「私もちょっと気になるかも」
実は私もあんまり言いたくないよね。思い出したくもない。
「やっぱやめよう」
「言いかけてやめるのはよくないよ」
「そうだそうだ」
「仕方がない、か……じゃあいいけど」
「「ゴクリ」」
「本当に言うよ」
「早く言って」
仕方ない……。
「Gってさ」
「Gって、ゴキブリのこと?」
「いやーっ! その名前を口に出さないで!」
「あっ。ごめん」
「で、Gはね、狭いところが好きなの。おまけに水分だけで短くても一ヶ月、長くと三ヶ月も生きていられるの」
「何が……言いたい?」
「でね、昔ネットで見たの」
「何を?」
「Gが耳に入ってた人の体験談や、耳からGの死体を取り出す映像を……」
元々Gが怖い私はそれ以来Gのことが怖くて怖くて……。耳栓なしでは眠れなくなった。
「「いっ……いやーーーっ!!!!」」
他にも、悪意のない、何気ない一言が相手の人生に悪い影響を与える呪いになる可能性がある。人の名前をからかったり、コンプレックスを突いたりするのも呪いの一種だよ。人を呪っちゃだめ! 絶対!




