戦争阻止編 第9話 後 理想的な、でございますか?
「エマ、僕を裏切ったのか?」
お? この2人、また会話する余地あったの? それは都合がいい。もっと時間稼いてね。この状況を打破できる策を練る時間を。
「裏切る? 私が? ははっ!」
出発する前に一応私とアサの運の色をチェックしたけど。どちらも赤黒くなかった。しかし殺さずに拷問させるのなら運チェックしても意味がない。
「エマ?」
こいつら、全力ではなかったといえ、桜子は苦戦を強いられたよね。そんな相手が六人も……。
「裏切ったのはチャーリーの方だろう! いつも! いつもいつもいつもあの女の話ばかり!」
あれ? 私のせい? 嫉妬ってこと? 違うな。人は簡単に裏切る。だから私は……。
「勇者でありながら祖国を裏切り、魔族の仲間になるなんて! お前はもう私の憧れじゃない! 薄汚いただの裏切り者だ!」
まず、人数的に圧倒的に不利。あの女も多分参戦するから7対4か。しかも非戦闘員の私が足手纏いになってしまう。
「僕は裏切るなんてしていない! 魔族と人間は共存できるんだ! 僕はただ……」
「共存? いつまであの女の言葉を……もういい! 私はお前を殺し、お前を魔法石にし、勇者になるんだ! 私は正しい、理想的な勇者になって見せる」
レプリカとはいえ、勇者とそれほど大きな差はないと考えた方がいい。となると勇者2人を盾にし私が先に逃げ、勇者も撤退させ、そのあと合流するのが妥当。しかし勇者達が逃げれる保証もなければ、私は公爵に頼る以外の槍の勇者との連絡方法がない。
「あー、そういえばお前達魔族に感謝しなければならなかったな。お前達魔族が魔王を復活させたお陰で私達人間は一丸になれた。だからこそ魔法の国が魔法石の技術を提供してくれた。これで私は勇者になれる」
もう時間がない。どうする? もうちょっと時間稼ぐ?
「その魔法石で勇者になれる保証なんてあるの? すでに勇者の誰かを殺して試したの?」
「理論上はできる、はずだ」
「理論上、はず。保証がないってことじゃん」
「完全な勇者になれなくても、この6人のようにはなれる! きっと! 絶対!」
「きっと、絶対、ねぇー。女神様に選ばれず、偽物の勇者。貴女がなりたかったのはそんな勇者だったのか?」
せめてアサが詠唱できる時間を稼がないと。でも詠唱したら集中攻撃させる。どうしようもない。とりあえず運操作して、なんとか言いくるめて、ダメなら勇者を捨てて逃げるしかない。
「それでも、チャーリーはもう勇者ではなくなった。不完全でも、私はチャーリーより理想的な勇者になれるんだ! もういい。攻撃を再開しろ」
限界か……。
「リリーナ! 一つ策が!」




