魔界防衛編 第12話 昇華でございます
「世論でどうにかできないの? 戦争反対する人もいると思うし。奴らが戦争の元凶って公表すれば」
「あ、そういえばリリーナ様には教えなければならないことがありました。情報戦は勝ち目が全くありません。その上、リリーナ様を危険に晒すのです」
「魔界のようにはいかないのね。もっと詳しく聞かせて」
「まず、報道機関が全部彼奴らに掌握されてます」
「だから正規の報道機関ではなく、噂を流してるじゃないか」
「そこが問題です。彼奴らは不利な噂を揉み消す手段を持っています。加えて、奴らは噂の出所を辿るのです。リリーナ様は私の私兵を使って噂を流しておられたであろう。情報商人に情報を売るのと不満分子を煽るのが私の私兵のやり方です。それは有効だが、いや、有効だからこそ彼奴らも本気で噂の出所を突き止めるのです。死霊術のことがバレる可能性が高い。リスクに釣り合うほどのメリットは得られないと思われます」
一理はある。
「分かった。で、他に何か情報ない? 作戦立てそうな有用な情報」
「実は一つ作戦がございます。が、リリーナ様のお力を借りる必要があります」
子供の心を弄ぶ最低な作戦だった。でも、他にいい方法が思いつかない。どうする? もうこんなことしないって決めたばかりなのに……。
いや、やるべきだ。人間と魔族の総力戦になるかもしれないよ。分かっているのか? 偽善やっていいタイミングじゃないよ。
偽善って……。でもそうだな。私は命を数で測るタイプだからね。
昔は、すずしろだった頃、もっと純粋な気持ちでいいことしたのにね……。すずしろなら、きっとそんな作戦同意しないと思う。それでも、今の自分は嫌いではない。だからっ!
「ね、桜子。アサ知らない?」
「すずと一緒じゃなかったの? すずを追って出ていたけど」
……え? まあ、とりあえず連絡してみるか。
「アサ? 今どこ? どこに行ったの?」
「リリーナぁ〜心配してくれてるの?」
「何当たり前なこと言ってんの? 心配するに決まってるじゃない。アサは私の恋人なんだから」
口だけなら何とでも言える。だから何でも言うよ。
「どうしてっ! どうしてそんなことおっしゃるのですか! 興奮してしまうではありませか!」
うん、まあ。アサのそういうところはもう慣れた。
「で、今どこにいるの?」
「ちょっと実家に寄ってね」
「実家? 私も実家に寄ったよ。奇遇だね」
と言うか、アサは私と違って、100パーセント人間だからね。いや、アサは私のこと大好きだから……それに私は別に人間の敵なわけでもないし。
「で、いつ帰ってくるの?」
「ごめんリリーナ、もうちょっと掛かるわ」
「うん? また何かやることあるの?」
「うん。力が欲しい。誰にも……ううん、何にも負けない力が欲しい」
アサは私の力になれたくて頑張ってるのね。邪魔しちゃ悪いし、そろそろ切っちゃうか。
「そっか。すごいね、アサ。頑張って、応援してるわ。家で待ってる。じゃあ」
「待って! リリーナの声もっと聞きたい! 聞かせて!」
「そ、そっか。分かった」
ならちょっと愛を囁こうか。
「声だけでいいの? 私は一刻も早くアサに会いたいのに」
「あ……ああ、リリーナダメよ! そんなこと言われたらぁ、私っ! でも、私、怖いの! リリーナは別に私に恋心抱いてるわけじゃないでしょ!」
「うん。そうだけど」
「……っ」
「でもそれって、そんなに重要なことなの?」
「もちろん重要よ!」
「そもそも恋って何?」
「私は一日中リリーナのことばっかり考えてる。リリーナの何気ない仕草で胸が締め付けられてしまうの。リリーナをぎゅっとしたくてたまらない! リリーナといろんなところに行って、いろんなことすると想像したけど、側にいるだけで、何もしなくても最高に幸せな気分になる。これが私の恋なの!」
「そう? ねぇ、アサ。アサは、ずっと私といたいよね。一生、死ぬまで」
「死んだ後も、来世も、再来生も、永遠に」
「うん。信じるよ。でもね、アサ。あ、言っておくけど、私はアサの気持ちを否定するつもりなんてこれっぽっちもないよ。でも、アサが先言ってた恋って、体の反応とかそういうのじゃないの? 胸締め付けるとか、妄想するとか。そういうの、いつかなくなるんだよ」
「そんなこと!」
「あり得ないと言い切れる? 自分の体って、思い通りにならないものなのよ。ましてや、冷めない恋なんてないのだから」
「私はっ!」
「アサ、聞いて。私はね、二人が長く続くかどうかを決めるのは、恋を昇華させられるかどうかだと思うの」
「昇華?」
「そう。家族愛へと」
「家族愛……」
「そう。夫婦って、そんなもんじゃない? パートナーにドキドキするなんてほぼないと思うの。それなのにずっと一緒にいたい。悲し顔を見るとこっちまで悲しくなる。信頼し合って、支え合う。そうね、あと、アサが望めば、あの、ちょっとだけなら、あの、エッ……エッチなことしても、いい、よ? それが私のアサに対する愛情だよ。それじゃダメなのかな?」




