魔界防衛編 第11話 対抗でございます
リリーナは旅立ってしまいました。何度も、何度も何度も止めようとしましたが、止めることはできませんでした。今から追うとしようとしても、あのトカゲに追いつくことはできないでしょう。けれど、リリーナがいない今、あの女と同じお屋敷の中で暮らすなんてわたくしにはできません。わたくしはお屋敷を後にしました。
わたくしが向かっていたのは、わたくしの実家、オカン家でした。
「母上……」
「アサ。なんの御用ですか。貴女のことですから、家を継ぐために戻ってきたわけではありませんわよね」
「ええ。わたくしは強くなるために戻ってきました」
「強くなるためですって! わたくしに勝った貴女がわたくしに教えを乞うと仰るのですか」
「左様でございます。わたくしは強くならなくればならないのです。死のドラゴンと不死のドラゴンを倒すために……!」
「死のドラゴンでございますか。察するに、魔界の黒竜騎士の魔竜のことでしょう。不死のドラゴンとは?」
「教えてください。そのドラゴンを倒せるほどの魔法を!」
「死のドラゴンは選ばれし勇者の持つ聖なる武器しか倒せません」
「人の、今まで積み重ねてきた歴史、知恵、人自身の力で、魔竜と魔王を倒せるものは一つもございませんの? 我々人間は所詮女神様の掌の上で踊らされていると仰るのですか」
「左様、ですね。ないというわけではありませんが。その前に、魔王と戦えたいと仰るのならオカン家に戻りなさい」
「下らないお話は結構ですから早く知ってることを教えなさい」
「……。わかり、ましたわ。実は、国々が様々な研究をして聖なる力を手に入れようとしています。聖なる武器のレプリカを作る研究をする国も、聖書を武器にする国もいます。もちろん、我が国もそう言った研究を進めていましたわ。と言うより、つい最近まで選ばれし勇者以外に、聖なる力を使えたのはこの国の人だけなんです。もう百年以上前にお亡くなりになられた皇女様、ただ一人です」
「その皇女様がどうやって聖なる力を使ったのか、母上はご存知なのですか」
「存じしておりますわ。光魔法でございますわ」
「そんな属性が……しかし、人間は光、風、水、土の四つの属性の魔法しか使えないはずなのでは?」
「何を仰っているのですか。貴女もそれ以外の属性を使えるでしょうに」
「混合属性魔法……」
「左様でございます。王家の火土混合属性魔法、マグマ魔法や、他の四大貴族の霧、爆発、泥、没落した貴族の氷魔法とわたくし達の雷魔法、その更に上位な混合属性魔法があります」
「それが光魔法ですの?」
「左様でございます。火、土、風の3属性混合魔法の光魔法と水、土、風の3属性混合魔法の闇魔法があります。その三つの属性の最上級魔法を全部使える魔法師でなければ3属性混合魔法は使えません」
「わたくし、風と土のしか……」
「ええ。もちろん知っておりますわ」
「何かありませんの?」
「ありません。そんな簡単に最上級魔法使えましたら誰も苦労しませんし、王族や我々四大貴族の存在意義もなくなります」
「わかりました。それでは失礼致します」
無駄足でしか……。
「待ちなさい」
「何か御用がおありで? こう見てもわたくしは結構忙しいのです」
「貴女も戦争に参加しますよね。それならここにいなさい」
「それはできかねます」
「わたくしは体が弱くて、子を産めないだろうと言われました」
「何語り始めたのですか」
「ですから、貴女がわたくしのお腹に宿ったと知った時は本当に嬉しかったのです」
「……今更何を言われたからってオカン家に戻るつもりは毛頭ございません」
わたくしは後ろを向いて、歩き始めました。
「産むと命を落とす可能性が高いと言われました」
何を言おうと気には致しません。
「確かにわたくしは厳しいでしたわ。けれど! わたくしは!」
「もうっ!……関係ありませんの。わたくしは幸せを見つけました。それだけのことです」
母上はこれ以上何も口にしませんでした。今更そのようなことを仰ってももう遅いのです。母上には感謝しておりますわよ。お陰でしろと再会出来ましたから。
それより、火属性の最上級魔法、でございますか。ワイバーンの魔法石も火属性の上級魔法しか使えません。いいえ、厳密に言えばあれは火属性魔法ではなく、火のブレス魔法なので混合属性魔法の元にはなれません。
ダメですわ。魔法の才能は先天的なもので努力ではどうにもなりません。あのドラゴン達と対等に渡り合えるだけの力を手に入れなければいずれリリーナが奪われてしまいます。
あのトカゲ女は簡単に諦めません。どうにか致しませんと。このような状況になると知っていればわたくしも魔人になりましたわ。神様は不公平ですわ。人間は種として魔人に劣ってると教えるべきでしたのに。
あ、お待ちになって! 方法ならありますわ。火属性の最上級魔法を使える人を魔法石にすればよろしではありませんか。




