魔界防衛編 第6話 避難勧告でございます?
不法入国するしかないけど仕方ない。アサは親と和解したわけじゃないんだから。
懐かしき我が故郷に戻った。入学したのは六歳の頃のことだから、もう七年ぶりか。まあ、ここら辺に来たらもう安全だし。とりあえず、何人かの公爵護衛を働かせてもらうか。
「聞こえてる」
「はい、リリーナ様」
「噂を流して欲しい。そうね、各国の大きな町や都市に、魔法石の相場はすぐ下がる。国は魔法石の相場を下げるために魔界を侵攻するからと。君は……」
「はい」
「うーん、君の国は聖なる武器のレプリカの作り方を他の国に提供した。聖なる武器を回収するために、この戦争で勇者を戦死させる算段、と。うーん、そこの君。この戦争に反対する人間の組織があるかどうか。あるなら情報を集め、接触を図りなさい」
「「「御意」」」
こんなものかな。少しでも魔界侵攻の正当性を減らせなければならない。魔界侵攻したら魔法石の相場は確実に下がるし、レプリカの作り方知ってるか知らないかなんて、証明のしようがないし。
この辺知ってる。そろそろだね。お母さんとフランカ、元気してるかな。
「お……お嬢様!」
「久しぶり。ただいま、フランカ」
「お帰りなさい。お嬢様、大きくなられましたね」
「お母さんは?」
「……あの。ええーと……」
「どうしたの?」
「……奥様は」
「言い辛いこと?」
「いいえ。奥様は、彼氏さんのお宅に」
「あ、あー」
これは……困った。まあ、お母さんも1人の女だし、私も七年ほど居なくなったし。寂しがらせた私が悪い。あ、でも、娘には限界があるし。私が居ても居なくても変わらないかも。とりあえず、魔界に連れて行く予定、なんだけど。できれば彼氏から引き離したくないし、引き離すのは難しいでしょし。さて、どうしようかな。
「ところでフランカ、最近どうしてる? もう二十代半ばだし、結婚するお相手は見つかった?」
「……その、結婚するなんて、もう考えておりません」
「……そっか」
あのことが原因か、それとも私の知らない何かが起こったのか。いずれにしても、土足で踏み込む趣味はない。
「お嬢様は? 私の記憶が正しければ卒業は去年だったはずなんですが。お噂によれば……」
「うん。その件についてなんだけど。もうすぐ戦争になることは、知ってる?」
「ええ。もちろん知ってます」
「で、この国、魔界と隣接してるよね。この村、国境とそんなに離れてないし」
「はい」
「つまり、ここがいつ戦場になってもおかしくはない。それで、フランカとお母さんを安全なところに避難させたい」
「避難ってどこへ」
「それは、まだ言えないけど」
「わかりました。奥様さえ同意すれば……」
お母さん次第ということか。
「ね、フランカ。戦争についてあなたの意見が聞きたい」
「戦争というより、魔王討伐の方が言い方として正しいかと」
あー、こっちはこんな風になってるのか……。
説得は難しそう。そもそも魔王は長い眠りに入る前に何してたかも知らないし。今魔王の体を乗っ取った魔人のこともよくわからない。セレンの話によると、あの魔人は人間を嫌っている。魔王にとって戦争は本望かもしれない。
私たち、言わばセレン派と、魔王派と、人間。三つの勢力に分かれてる。ううん。人間も別に一枚岩というわけでもない。私たちセレン派のような戦争を望んでいない人間も沢山いるはずだ。要するに、私は人間側の和平派を探してる。
なのに、これだ。戦争として認識されていないのよ。あのアホ勇者でもない限り説得は難しい。人間は理解しないものを恐れる。理解する術がない以上、排除するほかないでしょし。和平派なんて、本当にいるのかな?
「ただいま。あら、来客?」
「おかえりなさい、奥様」
「おかえり、お母さん」
「……リリー……ナ。リリーナなの!? どこ行ったの? すーっごく心配したんだからぁー !なんか貴族が来て変なこと言うし……リリーナ帰ってこないし」
「……ごめん、お母さん。心配させちゃって」
「いいのよ。家に帰ってきたんだから。もうどこにも行ったりしないよね」
「う……あー、そ……。あのね、お母さん実は、ね。私が戻ってきたのはお母さんとフランカを避難させるためなんだけど」
「避難?」
「そう。実はこの一年間、私は貴族の友達と魔界に行ったの。それで知ったんだけど。この村が戦場になる可能性が高い」
「いやよ!」
「どうして?」
「実はね、リリーナの新しいパパになるかもしれない人がね、衛兵長なの。彼が守ってくれるよ。だから何も心配いらないよ。ずっとここに居て」
情報量が……。これはよくないよ。雑魚に変な信頼感を抱いてる。何より、お母さんがその衛兵長に、娘が魔界の情報持ってるよ、なんて言ったら……。それに、あの彼氏さんまで魔界に連れて行くのは無理だし、お母さんを彼氏さんから引き離すのも無理っぽい。お母さんがついてくれなければフランカもついてこない。このままじゃあお母さんとフランカがゴブリンの……。




