魔界防衛編 第3話 童貞でございますか?
初めての一人旅。いや、別にアサと一緒に旅するのがいやなわけではなく、たまには1人で気楽に旅したいの。まあ、アサと恋人でいたいと言ったらアサが嬉しくて泣いちゃったし。桜子は落ち込んでいたけど。
それにしても、桜子も諦めが悪いね。何かないかな? 今の関係を壊さずに桜子を諦めさせる方法……。
それはそうとして、アサってば心配性だね。私1人でもちゃんと戦えるのに。不死のブレスだって使えるようになったんだよ、私。まだ実用的じゃないんだけど。あと、氷魔法も使えるよ。不審者くらいやつけるんだから。
久しぶりにスピードドラゴン車に乗った。もちろん盛大に吐いてしまった。まだ公爵領に着いてないけど、一杯吐いたので宿屋で休むことにした。
とりあえず吐いた分美味しいもの食べたい。まあ、この世界の料理あんまり美味しくないけどね。私が和食をこの世界に広まる手もなくはないけど、魔法の世界を科学の世界にしたくないし、日本の色に染まるのもなんかいや。
とは言うものの、私、この世界の高級料理食べたことないから、美味しい料理がないと断言出来ない。そういえばすずしろだった時、高級料理食べたことないんだっけ。一度でいいから高級なお店で松茸料理食べて見たいなぁ。
気のせいか? 先から誰かに見られてるような。あ、目が合った。角はちゃんと隠れてる、よね? うん、問題ない。また目合っちゃった。あ、これは、あれだね、間違いなく。ほーら、来た。
「あの……、あのー、えーと」
「はい、なんでしょう」
「僕、その……」
「はい、ちゃんと聞いてますよ」
「いや、ごめんなさい! 僕みたいな童貞が君みたいな可愛い子を……」
は?
「どうして童貞なんですか?」
「あ、いや、僕モテないですから」
「いや、そういうのではなくですね。どうして童貞が……」
「そうですね。ごめんなさいすぐ失せますから」
本当にキモイな、こいつ。見ててイライラする。
「ちょっと待ってってば」
「え? あ、はい」
「あなた、私のことが好きなんですよね」
「……はい」
「そう……。あの、さー。童貞って、そんなに恥じらうべきものなんでしょうか」
「え、えーと」
「性経験があれば何か変わるんですか。経験があってもなくてもいい男はいい男、キモい奴はキモいだと思います。あなたはどう思いますか」
「それは……あなたの言う通りだと思います。キモくてごめんなさい」
はあ、疲れた。
「あっ! もしかして、私がやらせると思って話をかけたのですか」
「違う! 一目惚れしたんだ。話かけないと一生後悔することになると思ったから!」
「そう? あの、ね。女性は別に童貞を察知できる魔法を使えるわけでもなければ、あなたのおでこに童貞って書いてるわけでもないんですよ」
「それは、そうですけど」
「それでも童貞連呼されるのは、その自分を卑下する態度が原因なんじゃないんですか」
「……」
「自分のことさえ好きになれない人が、人に好かれると思うのですか?」
「……」
「あなた、お名前は?」
「ブライアンです」
「ではブライアンさん、シャキッとしなさい! ほら、自信を持って、背筋伸ばして」
「こう?」
「なかなかいい面構えになったんじゃない?」
「そうか……そうか! あの! 好きです、付き合ってください!」
あ、まあ。そう……なるよね。予想するべきだった。
「ごめんなさい。恋人いるんです」
「えー!? じゃあ先のなんだったんですか」
「断る理由が変わったんじゃないですかぁ」
「そうですか……。でも、なんだか、ちょっとだけだけど、自信持てるようになりました。ありがとうございます。話しかけてよかったです」
「そうですか。それならよかったです」
いい気分、人を助けた気分、にはならなかった。ただの自己満足でしかないことはちゃんと分かってるから。
「リリーナ様、お待ちしておりました」
「とりあえず、美味しいもの用意してくれない」
ようやくご馳走にありつける。
「では、報告いたします。勇者は国王の命令で魔獣討伐に行きました。魔獣自体はそれほど強くなく、難なく討伐できると予想されます。そこで、私の部下が勇者、及びその仲間を抹殺します」
このパイ、見た目はちょっとあれだけど、結構美味しい。
「つきましては、リリーナ様には勇者、及びその仲間をリリーナ様の僕にしてもらえたく存じます」
「うん、分かった」
「それから、前にも申し上げた通り、前回の件で私がこの国での立場が悪くなる一方で、リリーナ様の役に立たなくなる日はそう遠くないはずです。そうなる前に、国王をこっちの味方にするしかありませんと愚考いたします、どうかリリーナ様のお力で」
「いいよ。はむ。あ、牛乳ない? 」
それから、勇者暗殺の日やってきた。
あれ? 槍の勇者、どっかで見たことあるような……。あっ、間違いなくあいつだ。名前はわかんないけど。
「そっか、あいつ、勇者になったのか」
「リリーナ様、勇者とはお知り合いなんですか」
「知り合いってほどではないんだけど」
「公爵様。暗殺部隊、準備完了です」
「よし。作戦、開始ぃ―!」
さよなら、勇者様……と思いきや、レンジャーっぽい女性に気付かれて、返り討ちされた……。




