魔王覚醒編 第6話 積み重ねて来たものでございますか?
「積み重ねて来たもの?」
「そう。でも話は後。今はまずここから出よう」
潜入する時は門番を避ける必要はあったが……。
「来月まで眠りなさい」
歌で生物を操れると聞いたが本当に便利ね。運を弄る能力よりよっぽど便利だ。割と簡単に抜け出した。
「何処に向かってる? 大佐を助けに行くんじゃないの?」
「大佐は任せてください。セレン様は他にやることがあります」
「やること?」
「そうです。ちょうどいい。この街に入りましょう」
「そんな時間は……」
まずはあれを見せたいの。あっ、そこにあった。
「セレン様、あれの見てください」
「お触れ? イエス!魔界戦隊ファイブのセレンは魔王様に叛逆行為で逮捕された。セレンはずっと力で魔法を寝続けさせた大罪人だ。死刑に処すべき、だって?」
「そう。あ、そこの貴方」
「俺?」
「そうです。あの、ちょっと聞きたいのですが、セレン様が魔王様に叛逆行為したのは本当ですか?」
「お触れが出てるから本当のことなんじゃないか?」
やはりセレンさんの顔を知らないのね。情報社会じゃなくて本当によかった。
「でもセレン様はずっと魔界を導いて来ましたのよ。処刑にしてもいいのですか?」
「よく知らないけど魔王様の方が強いだろう? それに前回の大戦が長引いたのも、あんなに魔人を戦死したのも全部セレン様が不甲斐ないからじゃないのか? 魔王様ならもっと早く戦争を終わらせたはずだ」
「そうですか。ありがとうございます。さよなら」
セレンさん、見たか? これが人間だ。あ、魔人か。ま、そんなに変わらないと思うけど。これで勉強になったでしょ。どんなに尽くしても当たり前だと思うだけ。意味ないのよ。
「……」
「どうしましたか? 魔人達は貴方様を信じるとでも思っていましたか?」
「……」
「今までして来たことは全部無駄だったのか?って思っていますか?」
「どうしてそれを?」
「心なんて読めませんよ」
「だったらどうして?」
「すべてが無駄ではないことを祈りましょう。前にも言いましたが今まで積み重ねて来たものは無駄ではない。民は結果しか見ていないが貴方の側や下の魔人は違う。貴方の命令を実行してきた魔人達なのですよ。貴方の指示を上手くこなせなくて自分の無力さを責めた魔人も、貴方の戦場での戦いぶりを目にした魔人も、貴方の主張を理解できる魔人も少なからずいるとはずです。まずはその魔人達との接触を試みます」
「そうか。それがいいかも。ところで、クネスは大丈夫なのか? 私側につけば魔王に目付けられるよ」
「クネスは表面上魔王に従ってますよ」
「そうだね。クネスも大佐のようになったら大変だし。前にも思ったけどリリーナちゃんってもしかして結構頭いい?」
「悪くないとは思いますけど、頭いいというわけでもないです。そろそろ出発しましょう」
「そういえば私達何処に向かってるの?」
「私の友達のソニアのところです」
「ソニア?」
「そうです。一応マモン様の配下になっています」
「マモン? マモンは味方になったのか?」
「いいえ。マモン様にまだ会っていないのです。ソニアとの関係は知られていないので誰もソニアを疑わないはずです。セレン様を匿うのに最適です」
「待って! その間私は何をするの?」
「ゆっくり休んでください」
「いや、私が出来ることないの」
「今セレン様が魔王に捕まったら終わりです。それに、また魔王と対峙していい時ではありません。それに、ご存知の通り、魔王と戦争になると人間に隙を突かれる可能性もあります。今はまず味方を作って魔王と対等に戦える戦力を集めるのです。そうすれば魔王も迂闊にセレン様を殺そうと考えないでしょう。そうなると皆も今よりセレン様の言葉に耳を傾けるはずです」
「なるほど。よく考えているね」
「で、セレン様にはリストを作って貰います」
「リスト?」
「そうです。セレン様の味方になりそうな魔人の名前、地位、性格、思い出や私がセレン様の味方だと証明出来るような合言葉も欲しいですね」
「なるほど。分かった。ありがとう、リリーナちゃん。リリーナちゃんがいなかったら、私……」
魔界のトップであろうセレンさんが私にこんな情けない姿を晒していいのか。思ってたけど、セレンさんは本当に前世の私、アイ、ニーナに似ってるよ。見返りを求めず他人のために尽くしたつもりで、都合のいい人でしか思われてなく、裏切られる。セレンが作るリストに、信用出来る魔人は何人いるんでしょうね。そもそも、魔人は基本強い魔人に従う。私の話術とセレンの名声だけで何人を味方に出来るのか。一応ブレイク公爵から兵を送ってもらう手もなくはないけど、人間を魔界に入れるわけにもいかないよね。となると、あとはソニアが管理してる一軍団とアサ、あとはドラコンか。厳しいな。
まずはマモンに会って見ましょう。魔人が魔王の話を聞いてどんな反応するのか知っておきたい。




