獣人編 第13話 許可でございますか?
「お帰り、すず」
「え? あ、ただいま」
「結局戦争止められなかったじゃないか」
「ゴーストやめなさい。リリーナちゃんはよくやってくれた。相手の口実をなくさせたから」
そうか、ライオンズハートが襲撃されたことで、テロ活動が続けられなくなった。
「それじゃあ、どういう理由で攻めてきたの?」
「ただの侵略になった。リリーナちゃんのおかげだね」
「獣人達を犠牲にしてね」
う、そこ突かれると痛い…。
「ゴースト、お前いい加減に黙って」
「なんて皆こいつの味方するんだ? こいつ、人間かもしれないんだぞ。俺たち、人間と戦争してるんだぞ」
あの時、アサとの会話が聞かれたのが失敗だったかな? 魔人は耳の良いのが多い、心に留めておこう。
「これ以上リリーナを悪く言ったらしばくぞ!」
「だってそうだろう。ああ、最近お前の家の養子になったっけ。お前、人間と内通でもしてるわけじゃあるまいな?」
やけに突っかかってくるな。
「こいつ!」
「っていうか、新参ものが先輩に向かってこの態度とは何だ! 敬語使え! 敬語」
「2人とも、喧嘩になってるわよ」
「セイレン、お前、何リーダー気取りしてんだよ」
「お前な、こうやって敵ばかり作ると…」
「説教か?」
こいつ、バカすぎてわざわざ対処しなくても勝手に自滅しそう。こいつも転生したら分かるのかな? 世間を渡るのに一番重要なのは上辺ってことを。
「いや、ただの意見だ」
「お前ら知らないからそんなこと言えるんだ。こいつ、前に見た時角なんか生えてなかったんだ。こいつは間違いなく人間だ! スパイだぞ!」
「リリーナちゃん、ゴーストが言ったのは事実?」
これ以上正体を隠すのは難しいし、信頼もそれなりに稼げたつもり。それに、いつれバレる嘘をつく必要はないし、隠すと余計に怪しい。
「うん。そう、元は人間だった」
「元は?」
「うん、ドラゴンの角を移植して魔人になっちゃった」
「ほら、俺の言う通りだろう。こいつスパイだ」
「元人間と言っても、リリーナちゃんはよく働いてくれたし」
「騙されるな」
騙すつもりはなかったけど。
「人間から魔族になった魔人って結構いるよ。ゴーストと大佐とクネスの家系もそうだったはずだが」
「…それは、そうだったが、何代も前の話だ」
「でも、皆お前の祖先を信じてくれたから、今の地位にいるよね」
「あぁ、もうっ! もう何も言わない。後でせいぜい後悔すればいい」
「良かったね、すず」
「うん」
「リリーナちゃんはもう我々の仲間だ」
「これからもよろしくね」
「うん、よろしく」
「じゃあ、会議を続けるか」
やっと茶番が終わった。このあと、皆が真面目に戦争について話してた。この魔人達は本当に魔界のトップだな、とちょっと感心しちゃった。
会議の後、桜子と一緒にクレス邸に戻った。
「桜子、私ね、ドラゴンさんを自由に空を飛んで欲しいんだぁ」
「え? ダメよ。エリックを外に出したら魔界を、いや、この世界をめちゃくちゃにするんだよ」
「大丈夫。ドラゴンさんはね、ただ寂しかっただけ。別に悪いドラゴンじゃないわよ。ちょっとお空に散歩させても良いのでは?」
「でも戻らないかもしれないし」
「それはないと思うよ。何せ、ドラゴン語を話せるのは私と桜子だけだから」
「…それはそうだけど」
「ドラゴンさんを恐れては、いつに経っても仲良くなれない。本当は思ったことあったでしょ、自分の代でドラゴンさんとの関係を改善したいって」
「…だけど、私の一存で皆に迷惑をかけると思うと」
「はぁ、ドラゴンさんの気持ちはよく分かる。でも桜子の気持ちも分かる。ごめんね、わがまま言って」
「そんな、すずが謝るようなことじゃない。そうよね、私もエリックとの関係を改善したいし。いざという時は私がジャスティンを乗って追いかければ良い。ブレス使ったら大変なことになるけど。あははは」
押してダメなら引くべし、か。いやいやだけど何とか承諾させた。考えてみると別にメリットないよね、私。まあ、良いや。でも、どうして? うん、あれだ、桜子の前では猫被りたかったから。だってさ、桜子の中では、私は優しい良い子なのよ。幻滅させたくないのよ。え? 私はまた良い人になりたいようになったの? いい人は都合のいい人と同じ意味なのよ。これだけは忘れじゃダメ。いいことするのは別に構わないけど、いい人になろうなんて絶対に思わないこと。信念で動く人は信念に殺される。ちゃんと状況を見て自分にとって一番いい行動を取ること。
「ドラゴンさん、お久しぶり」
「あんだだれ?」
「怒ってるの?」
「怒ってない」
「そうか、そうか。いい子だ。そんなドラゴンさんにプレゼントを用意したの」
「おお、また例のフレイルを模したお菓子を持ってくれたのか」
「金平糖だよ。ちゃんと憶えてね」
「分かった。分かったから早く食べさせろう」
「残念。今日は持って来てないの」
「…そ、そんな」
「代わりに、さく、あ、クネスからもらってきたの」
「何を?」
「許可を」
「何の許可?」
「ドラゴンさんが外で飛べる許可」
「え?」




