獣人編 第11話 教育でございますか?
「リリアちゃん…そうか、リリアちゃんは別の国から来たもんね。いい? この国ではこれが普通なのよ」
「普通、か。獣人は確かに人間とは別種類な生き物。でも、獣人も考える、喋れる、何より悲しむし、痛みも感じられる。二人は優しい人なのに…どうして…」
悲しそうな顔してる。どうやら私は馬の耳に念仏してるわけではなさそうだ。
「リリアちゃん。俺も、いや、俺達が若い頃に同じことを考えてた。リリアが正しい。でも、正しさだけじゃ人は生きていけないんだ。リリアちゃんはどこの国の出身?」
「私は隣の国出身だけど」
「そっか。魔法が進んでるあの国出身なら子供の頃から魔法を習ったんだろう。大変だね。この国の子供もな、小さい頃から、獣人を人間のように扱ってはいけないと教われるんだ」
「どうして?」
「正当化するためにさ」
「なるほど。酷いことでも、皆でやれば誰も酷いことだと思わなくなる。それだけじゃない、皆でそうしてるから、獣人に優しくする人が返って変わり者扱いされる」
いじめと同じね。
「リリアちゃん結構頭いいのね」
子供にしては、だけど。
「ありがとう。ということは、獣人のことが嫌い、と言うわけではなく、他人の目が気にするから、獣人に酷いこと言うのね」
それだけならいいんだけど。人は他人を見下すことで自信は持てるようになる。自分は優しい人だと思い込ませよう。
「そうだよ。リリアちゃんもそうしろとは言わないが、人前では先のようなこと言わない方がいい」
「そうじゃないの。私が言いたいのは、せめてこの家では獣人を悪く言うのはやめよう。ねぇ…」
「リリアちゃんが、そう言うのなら。あなたはどうする?」
「分かったよ」
それでもなにかが変わるわけではない。私はこの国を変えることは出来ない…えっ、私、この国を変えたいの? そう、だね。沢山獣人と接触したし、半獣人の皆とも友達になってた。けれど、国を変えるのはそう簡単なことじゃない。この夫婦は元々悪い人でもないし、私にいい印象を与えたかったから説得出来たのだ。説得することは扇動することよりずっと、ずーっと難しいなのだから。扇動することは他人がしたいことをさせるように仕向ける。けれど、説得することは他人がしたくないことをさせることになる。歴史上でも、革命家が行ったスピーチは全部扇動するものだった。言葉で獣人を救いことは出来ないと思う。そうね、もし獣人を救う方法があるとすれば、旧約聖書のモーセのように、この国の獣人全員を率いてこの国から出るしかない。
二人は豚獣人のことを豚ではなくて、名前で呼ぶようになった。
この夜、私はぐっすり眠る…ことはなかった。獣人が私の部屋に来た。
「あの、リリアさん、ありがとう」
どう反応すればいいのか。角見せれば分かってくれると思うけど。やめよう、今の私はスパイではないんだし。
「気にしないで。もう遅いから寝るね」
「おやすみ」
そして翌日、村の人を紹介してくれた。まぁ、仲良くする気さらさらないんだけど。この国の子供は国立学校に行かなくてもいいから結構暇してるみたい。皆獣人ついてる。当然私も例外ではない。
「リリア一緒に遊ぼう」
年下二人、男の子と女の子。あと一人多分年上の男性。
「うん」
「何遊びたいの」
と言われてもなぁ…
「皆普段何遊ぶの?」
「昨日石投げしたんだよね」
「うん! 楽しかった」
「じゃあ今日も石投げしようか」
石投げか。つまらなさそうし、危ない。子供の遊びじゃないでしょ。
「今日誰の投げる?」
「私の投げようか」
うん? 石なら拾えばいいんじゃない? マイ石とかあるの?
「じゃああそこに立て」
投げるって獣人に? あ、誰の獣人に石投げるってことか。
「野蛮な遊びね。撃たれどころが悪かったら死ぬかもしれないし。獣人ってそんなに安いわけ?」
「「え?」」
「リリアちゃん大丈夫だよ。獣人は打たれ強いからそう簡単には死なないよ」
これは、価値観が違いすぎる。
「とにかくこういう遊びに興味ないから」
「ちえっ。じゃあ一人で遊ぶんだな」
「そうする」
アサ、早く来てくれないかな。
「ちょっと待って。リリアちゃんはただ男っぽい遊びが嫌いなだけ。別に僕たちと遊ぶのが嫌いじゃない。そうだよね」
「さあね」
いいから私をほっといて3人で遊べよ!
「こいつ、獣人の味方かもしれないぜ」
「そんなことない! そうだろうな」
「さあ」
「ほら、そいつもうそう言ってるし。帰ってママに言ってやる」
「おい、やめろ! 違うって。お前ら向こうで遊んでろう」
「何さ、あいつの味方してて。お前えらデキてるだろう」
「お前らいい加減に向こうで遊んで」
「デキてる!」
「うるさい! 早く行け!」
この反応は…。
「リリアちゃん普段どんな遊びするん?」
「本を読むの好き」
「そうか。リリアちゃん頭良さそうだな。優しそうだし」
「優しい? 私が?」
「そうだよ。獣人を傷つきたくないから二人を冷たくしただろう」
「そう見えた?」
「うん」
面倒だ。ここでこいつと馴れ合うメリットも特にないし。
「あーなーた、もしかして、私のことが好き?」




