獣人編 第9話 後 喪失でございますか?
強い! 魔力バリアも厚いし、私じゃとても太刀打ちできない。でも豹の半獣人の身体能力のお陰で攻撃をかろうじて躱せる。このまま敵を引きつけて非戦闘員の皆が逃げる時間を稼がないと。
後ろからも敵が…。まさか、逃げ口から? アイちゃん、アイちゃんどこだ! 早くアイちゃんを助けないと。私のせいだ。後つけられたから…。
アイちゃんだけは死なせたくない。アイちゃんと知り合ってそんなに長くないが、凄くいい子なんだ。健気で、他人より広い視点で皆のことを考える。私より年下なのに料理が凄く上手だし。ナンシーのために悪役にも演じた。本当にいい子だ。きっと、奴隷商人に拐われる前にはよく笑う無邪気な子なんでしょうね。私、アイちゃんに救われたと思う。アイちゃんと出会わなかったら、私、多分人間に復讐することしか考えなくなる。けど、今は皆と一緒にいたい。
皆を救いたい。でも、この状況じゃ無理だ。せめてアイちゃんだけでも。アイちゃんどこだ?
「いたぞ」
見つけられた、けど、勝てないし、構う余裕もない。スピードはこっちの方が上だから、アイちゃんを連れて逃げよう。
「おい、手を貸せ。この扉をこじ開けるのだ。鹿の半獣人が中にいるはずだ」
鹿の半獣人? アイちゃんだ。でも、あいつらの声が遠い、お願い、間に合って!
「ロッティ、たす…クホッ」
「アイちゃんーっ!」
また、また守れなかった。今回は縛られてないのに、何も出来なかった。アイちゃんを裸にして、殺すなんて、絶対に許せない! 死ね! 死ね! 死んでしまえ!
あの後、私はずっとあいつらの死体を爪で引き裂いてたらしい。ボスの活躍で人間を皆殺しにした。あいつらまるで痛覚がないように攻めて来るから、こっちの被害は大きかった。アイちゃんも…。アイちゃんを始め、多くの非戦闘員も殺された。ライオンズハートは壊滅寸前だ。
アイちゃんの遺体に服はなかった。おそらくあいつらがアイちゃんに乱暴しようとしたんでしょ。人間はこれ以上私から何を奪えば気が済むのよ…。クッソーぅ、なんだこれ…。親が死んだ時より悲しい…。人間が憎い…。
皆の遺体を燃やすことが決まった。遺体を燃やして、新しい拠点を探し始めた。それ以来、心に穴が開いたような。食事をしても、喉に通らない。食べようとすると、アイちゃんのこととアイちゃんの死顔を思い出す。ブレイク公爵、許せねぇ! 絶対にこの爪で引き裂いてあげる!




