獣人編 第8話 公爵でございますか?
「アイちゃん、これは…」
「どこに行くつもりですか」
「ナンシーのところに決まってる」
「落ち着いてください。私は気にしてないから」
「どうやって落ち着くと言うのか! 仲間が仲間にこんなことを」
「ロッティ、お願い!」
私のベットにゴミが散らかってる。
「分かった、アイちゃんがそう言うのなら」
それしても、やることが小学生なのね、ナンシーさん。でも、時間がないから夢から目醒めさせにはああするしかなかった。あ、この世界のナプキン的な何かもあるじゃん。ナンシー、生理の時どうやって自分を騙したんでしょ…。
私の計画通り、ナンシーは私を憎み、ロッティとシャーリーと仲良くなった。私も参加してるこの作戦は、ナンシーも参加した。今のナンシーは絶対に私に負けたくなくなったから。
「ちょっと待って。これって本当に作戦と呼べるの? 公爵を拐う? 一人で?」
「大人数より一人の方が忍び込みやすいと思うけど」
「見つけられたら死ぬよね」
「バレなきゃ平気」
「あのさ…仮に公爵の元に辿り着けたとしても、どうやってあいつを運ぶの? 一人を担いで逃げられるとお思う?」
「何も担がなくでも、ナイフを首に当てればついてきてくれる」
「聞きたいことがあります」
「アイちゃん、どうぞ」
「人間には魔法バリアがあります。私達の魔力の量で公爵をどうにか出来るんのですか」
「あ、アイちゃん知らないのか。私獣人の魔力量は人間と比べてちょっと少ないだが、魔法抵抗力は高いよ。それに、ボスの鱗で出来てるこのダガーがあれば大丈夫だよ」
「ボスの鱗、ですか」
「そう。キリンであるボスは生物の魔力や魔法を自然に返すことができる」
なるほど、このダガー一本でスパイになった甲斐があったと言えるかも。
「最後に、皆覚えて欲しい、今回の作戦が失敗したら、ライオンズハートが壊滅するかもしれない。命を代えても何とか成功させよう」
こうして、私達の無謀な作戦は、明日に決めた。一応セレンに連絡してた。今回は死ぬ可能性があるから、皆からちょっと運を貸してもらった。
そして…。
「アイちゃん、ちょっと待って」
「どうしました」
シャーリーが突然土下座した…。
「シャーリー、何を…」
「足音からして、戦えるのは10人、その中に手練れが一人ってところか」
あ、土下座じゃなくて、耳を地面に当ててるんだ。耳が頭の上に生えてるから。あ、ひょっとして…。
「シャーリー、得意のは土魔法だったりする?」
「そうだよ」
やはり、奴隷商人の時、土魔法を使ったのはシャーリーだった。シャーリーのお陰で結構簡単に潜入できた。ただ、歩いてる人の位置しか分かんないから、案外頼りにならない。
運を弄ってなければよかったかな? ビンゴしたよ。
「ブレイク公爵!」
「来よったか。待ってたぞい」
公爵は手を挙げたら、忍び的な何かが天井から降ってきて入り口の前に立った。なんて? 運をあげたのに! 安全に帰れる筈だ! あ、3分の一を引いちゃったから運が使え切った? そんな。いや、でも、運の色からして少なくともこの三日間は殺されないんだけど…。まさか、拷問とか?
「案ずるな。儂はただ話したいだけじゃ。話が終わったら返す」
「話すことなど」
「獣人の気持ちは分かっておる、じゃが、今すぐに奴隷全員を解放すれば、この国はどうなるのか…」
「それは人間の問題だ! 獣人を奴隷にしたのがいけないのよ!」
「正論だ! じゃが、正論だけじゃどうにもならんこともおる」
まあ、分からなくもない。地球温暖化は止めらなければならないって皆知ってるのに、実際節電してる人どれくらいいるんでしょね。それに、犯罪率も上がれそう。奴隷は欲望のハゲ口でもあるから。私には伯爵が言ってることが正しいことに聞こえる。そうか、私はまだ人間だからか。
「儂らに時間をくれまいか」
「時間?」
「ええ、奴隷制度は1日で廃止させられるもんじゃない」
「でも、こうしてる間でも、私達獣人は苦しめているんだぞ! ここにいるアイちゃんはね! 僅か13歳で、今までどんな思いしたのか、お前がわかるはずがない! 私も…」
「分かっとる! じゃがのう、儂の権限で奴隷制度を廃止することが出来ない。無理やり進んだとしても、暴動が起こるだけじゃ。儂だけじゃない。この国の誰を拐っても、状況は変わらんじゃろう。じゃが、儂に時間をくれればどうにかなるやも知れん。この通りじゃ」
公爵は頭を下げた。公爵は悪い人じゃないかもしれない。
「考える時間も必要であろう。道を開け、返してやれ」
「しかし、公爵さま」
「返してやれ。帰って主らのボスに先話したことを伝えるのじゃ。そして、二週後にまたここで話し合おうと。それと、儂は捕らえたキリン獣人の在り方を知ってるとな」
あ、先代ボス、やはり死んでないんだ。ブレイク公爵、やはり悪い人じゃないかもしれない。けれど、獣人の皆は多分、公爵のことを信用しないでしょね。私が、なんとかしないと。




