獣人編 第7話 死産でございますか?
「ナンシーさん、よくわかりませんが、本当に産んでいいの?」
「え?」
「ナンシーさんももちろんわかるでしょう、半獣人がどんな扱いされるのが」
「大丈夫だよ、ライオンズハートの皆が守ってくれる」
「でも、そのライオンズハートのリーダーも今公爵の罠にハマりそうですよ」
「とにかく、私はこの子の為にも、危ないことしちゃ駄目だから」
とにかく、この言葉が嫌い。だって、とにかくと言う言葉は、これ以上聞くつもりはないという意味なのだから。
「ナンシーさん、獣人の皆さんのこと、どう思う。皆優しかった?」
「優し…かった」
「ここに来てどれくらいですか」
「もうすぐ一年だけど」
「なのにまだ産んでいませんと」
「出ってけ、お前と話したくない」
そうなるよね。時間掛かりそう。
「アイちゃん、駄目だよ、ナンシーを刺激しちゃ」
「そのまま放っておいた方がいいのですか。ずっとあの部屋に篭っらせていいのですか」
「それは…よくはないけど」
「でしょ。明日からロッティとシャーリーも手伝って欲しいですけど」
「え? 私? 無理無理!」
「私も無理よ。どうすればいいのかさっぱりわかんない」
「そうですね。本当に自分がまだ妊娠してると思い込んでそうだから、ナンシーは1人じゃない、私達がいると認識させながら、自分の子供はもう死んだという事実を思い出させましょう」
「なるほど、アイちゃん凄いね、流石学校に行っただけあるな」
学校は関係ないと思うけど。
「ねぇ、シャーリー。3人じゃ駄目なの?」
「うん。何せ、公爵邸は三つあるから」
「三つって、3人でよくないですか。あっ」
「そう、私、見えないから」
そして翌日。
「またこの子? この子と話したくない」
面倒臭い、仕方ない、あれ言っちゃうか。
「駄目ですよ、ナンシーさん、怒ると赤っちゃんに悪い影響を与えるかもしれませんよ」
「あ、そうだね。アイちゃんの言う通りだわ」
あはは、チョロい。
「ねぇ、ナンシーさんとシャーリーさんどっちが先にライオンズハートに来たの?」
「あ、私。もう三年になるかな」
「え? シャーリー今何才?」
「16だけど」
「あ、同い年だ」
「あれ?」
「そう、アイちゃんと同じ13才でライオンズハートに入ったよ」
「そうなのですね。私がライオンズハートの初めての半獣人メンバーだよ。それはまあ、大変だったよ」
「ヘェ〜じゃあ、ナンシー今何才?」
「17だよ」
「ナンシーさんも大変でしたね」
「…」
「ナンシーさん、部屋に篭りきりじゃ駄目ですよ」
「別にいいんじゃない?」
「だって、部屋に篭りきりじゃ産まれそうな時誰にも助けに来ないんでしょう。赤ちゃんのためにも、皆と仲良くした方がいいですよ。1人で出産するのは大変ですから」
「そう、だね」
苦い顔してるね。それもそうよ。だって、世話された獣人達を見ると、死産のことを思い出すから。
「大丈夫。私達がいるから」
ロッティ、恥ずかしくなくよくそんなこと言えるよね。羨ましい。
今日はこれくらいにしようか。これ、短時間じゃどうにもならないよ。ナンシーと打ち解けるにはちょっと時間が足りない。うん、こうするしか無さそうね。
ロッティとシャーリーに計画を話して先にナンシーの部屋に行かせた。私はナンシーの世話をした獣人と一緒にナンシーの部屋に行った。
「アイちゃん、遅いわね。待てたよ。皆もナンシーを見に来たの?」
ロッティ、棒読みになってるよ…。
「こいつらは、出ってて! 早く出ってて」
残念だけどこの獣人達はもう説得済みなの、簡単に追い返すことは出来ないよ。
「ナンシー、ごめん。ナンシーがこうなったからどう接触するのが分からなくて。でももう大丈夫、皆がずっとナンシーの側にいるから」
「そんなの知らない、出って行け!」
物を投げて来た…。
「ナンシー、このままじゃあ駄目なんだ! いい加減に前に向いて。お前はまだ若いのよ! まだ未来があるのよ!」
「ナンシー、現実を見るんだ!」
「現実? そんなの知らない! いいから出ってて! 出っててよぉ!」
「ナンシーさん、あなたの子は、もうこの世にいないのですよ」
「うそ! 違う! 私は! 私の子は!」
あ、気絶した。流石に桜子の時みたい起こすのは駄目かな?
「アイちゃん、ごめんね」
「何を言ってるの、シャーリー。これからじゃないですか」
「そう、よね。ごめん、嫌な役させちゃって」
「大丈夫ですよ、私、気にしてないから」
「アイちゃん…」
このまま計画通り行けばなんとかなる、かな?




