獣人編 第6話 妊婦でございますか?
ロッティの説得? が成功した。ロッティは他の半獣人を仲間にすると提案した。中々いい提案だと思うからシャーリーのところに行ってみた。
シャーリーは半獣人でありながらライオンズハートの副リーダーでもある。今はロッティに魔法を教えてるらしい。
「なるほど、冷静に考えてみると確かに罠っぽい、計画は中止だ、と言いたいところなんだが…。ボスを説得するのは無理でしょうね」
「どうしてですか」
「先代のボスのこと知ってる?」
「はい。王宮に行ったきり帰ってこなかった人、あ、獣人でしょう」
「うん。その先代のボスが、今のボスの父だ。奴隷制度の廃止を祝う祝宴にライオンズハートのリーダーを招待したのがブレイク公爵だ。つまり、ボスは獣人の為だけじゃなく、父の仇を討つためにも、ブレイク公爵を拐いたいなのだから」
なるほど、このブレイク公爵は対象を誘き寄せるのが好きらしい。
「でも、ブレイク公爵は本当にその会議に出席する可能性自体が低いと思います。あのような狡猾な人間はきっと安全なところで高みの見物をするに決まってます」
「そうなんだよな。一応ボスに伝えてみる」
「ねぇ、シャーリーさん」
「シャーリーでいいよ」
「シャーリーは人間が憎いのですか」
「憎いよ。何せ、私の目を潰したのが人間なんだからな」
「シャーリーも人間に復讐したいのですか」
「したい」
「仲間を犠牲にするまで?」
「それはない」
「それを聞いて安心しましたわ」
「アイちゃん、ボスを責めたからただの子供だと思ったけど…まあ、あんな酷い目に遭ったら成長するわね。悲しいな」
はあ、疲れた。スパイなんて面倒なことを引き受けるべきではなかった。でも、なんか、出来ることはやってみたい。だって、珍しく他人ことだとは思えなかったから。
そして予想した通りボスの説得は出来なかった。ボスはお父さんがまだ死んでいない、人質として捕まえられてると思っているようだ。公爵を捉えてお父さんの居場所を吐かせるつもりだ。そこでシャーリーはある方法を考えた。公爵が会議を出席する前に公爵邸に忍び込んで公爵を拐う、無理であれば予定表とかを盗んで帰ると。この馬っ子、度胸ありすぎない?
「シャーリーはいつもボスに黙ってこんな危ないなことをするのですか」
「うん、まあ、ボス頑固だから。というわけで4人で行くことにした」
「4人で足りるのですか」
「襲撃じゃなくて忍び込むから、少人数の方が気付かれにくい」
「そうか、気をつけてください。幸運を祈ります」
「アイちゃん何言ってるの? 私、ロッティ、アイちゃんとあともう1人の半獣人で行くつもりだよ?」
「え、私!? 無理無理、絶対無理!」
「え? 半獣人はもう1人いるの?」
「そうだよ」
「見かけたことないけど」
「あ〜彼女はいつも部屋に篭ってるからよ。ナンシーは魔法も使えるし、ウサギの半獣人だから身体能力も高い。そこそこ頼りになれるはずだ。だけど、ナンシーはちょっと、何というか、心の病気を抱いてるのよ。彼女が人間の子供を孕んだけど、産んだ赤ちゃんがすぐ死んちゃって…。ナンシーは今でも自分が妊娠してると思い込んでいるの」
「人間と出来た子供なのに?」
「これが母性というものなんでしょうね。例え人間との子供でも、自分の腹の中で育ち、痛みを堪えて産んだのですから」
それだけではなく、多分、心のより処が欲しかったと思う。
「アイちゃんまだ若いのに色々知ってるのね」
「いや、奴隷商人に…、された時、色々思ってしまいまして」
「アイちゃん…」
「あ、ごめんなさい、今のを忘れてください。獣人皆大変なんですから」
「うっ! アイちゃん! アイちゃんはまだ大人じゃないんだからそんなにしっかりしなくてもいいのよ」
「ロッティ…」
ということで、私達はナンシーの部屋に行ってみた。
「ナンシー」
「あら、シャーリー、お久しぶり。そっちの子は?」
「アイです」
「ロッティだよ」
「ナンシー、頼みたいことがあるんだけど」
「珍しいね、私が出来ることなら何てもするよ」
と事情を説明してみたけど…。
「ごめんなさい。もうすぐ産まれそうなので…」
「ナンシー、頼むよ、お願いだ。ナンシーがいてくれると心強い」
「皆の役に立ちたいのは山々なんどけど、今の私の命は私だけのものじゃなくなったから」
そうきたか。本当に心が病んでるのか、それとも…。
「もうすぐ産まれるのですか、おめでとうございます。その割にはお腹が膨らんでいませんね」
「ちょっと、アイちゃん!」
「何故腹が膨らまないのか私にもわからないけど、感じるの、ここに生命が宿ってるのを」
戦えない者は普通に戦えなくでいいから病んでるふりをしても特にメリットはないと思う。さて、夢から覚まして貰うか、それとも、このまま話を合わせてうまく騙そうか。




