獣人編 第2話 半獣人でございますか?
「中に入れ!」
「痛っ!」
「グズグズするんじゃない!」
「ウエエエエエッ・・・」
「うわ、汚い」
暗い、臭い。ゲロと糞の臭いが満ちてる。あの船を思い出した、アイが乗ってたあの船。奴隷商人、許さない。
左の檻は獣人5人、右の檻は半獣人1人。傷だらけな獣人達はうめき声を上げてる。痛々しい。
「鹿の半獣人?」
「うん」
豹柄の猫の耳と尻尾を生えてる女の子が私に話をかけた。
「私はヒョウの半獣人よ。何才?」
「13才」
「可哀想に」
「仕方がないことだと受け止めてる。所詮半獣人なんてとこに行っても…」
「そんなこと言ってるんじゃない。あいつらは獣人に興味がないのだ。私とあなたのような半獣人の女の子はもっと酷い目に遭うってことだよ」
なるほど、獣人達が傷だらけなのに、ヒョウの半獣人だけ傷が少ない原因が分かった。
「そん、そんな!?」
「そのかわりに殴られなくて済むけど」
「え? じゃどうして顔に傷が?」
「あ、これ? 抵抗したからよ。手足を縛られたから尻尾で顔を叩いてやった。本当はあれを噛みちぎりたかったけど、流石にあれを私の口に入れてなかった」
「すごいんだね。私も尻尾があったらな」
「尻尾ないの?」
「うん」
「あなたみたいな可愛い子があの豚に犯されちゃうと思うと…。あ、豚の獣人に失礼か」
「あはは」
「ところで、名前は?」
「アイ」
「アイか、いい名前だ。私はロッティ。よろしくな」
「よろしく」
あの豚め。
「おい、出ろう」
「アイちゃん…」
「いやっ!」
「出ろう!」
「何考えてるんだ。まだ13才だぞ」
「13才? いいな、ホレスが羨ましい」
「ゲスが」
「いや、ロッティ、助けて…」
「…く」
ロッティは悔しそうに顔を逸らした。
「ロッティ、ロッティーっ!」
私は豚の部屋に連れて行かれた。
「あーあ、疲れた。暗いし、臭い。ホレス、お風呂の用意しなさい」
「かしこまりました」
「腹も減った」
「はい、すぐに用意いたします」
双六と三日に渡る誕生祭が終わった後、私は獣人の組織を潜入するために祖国とは別の国に行った。
アサを同行させてたけど、流石に一緒に潜入するのは無理がある。こいつを殺させたら桜子の屋敷に戻させるつもり。
「鬼人5人を一瞬で? 誰だ、お前たちは。どうして俺を襲う」
「どうしてって、あなたは一番有名な奴隷商人なんでしょ。遅かれ早かれ獣人に殺される運命なのだから」
「その角、お前はライオンズハートの…」
「今は違うけど直にそうなる。アサ、外傷のない死体にしてあげて」
「これはまた難しい注文だね。そうね、こうしよう」
「やめろーっ!」
アサは風を纏った手を奴隷商人の口に突っ込んで魔法を発動した。
「アサ、ありがとう。今、亡骸が新しい魂を迎え入れることになるでしょう。我が意思によって生まれし魂よ、我が言葉に従え、新しい体に入り、あたしのために命を捧げよ、レイズサーヴァント!」
これでよし。
「ご主人様、何なりとお申し付け下さい」
「アサ、お疲れ様。またお屋敷で」
「飯ちゃんと食べるのよ。寒くなったから風邪ひかないように気をつけて」
「分かった」
「私が獣人だったら…」
「もしそうだったら出会わなかったよ」
「それもそうだね」
「それじゃ」
「バイバイ」
歩く度に振り向くアサを見送ったあと、私の新しい下僕になったこいつと奴隷商人の拠点に行って今に至る。
「前に準備させたパーティは?」
「はい、明後日に開催します」
「よくやった。ところで、豚だった頃やってきたことを全部教えて」
「かしこまりました」
絵に書いた様なゲスぶり。でも、今の彼はもう豚じゃない。豚の記憶を持つ私の下僕だ。
「アイちゃん…」
私は心が虚になったふりをしてみた。ロッティは涙を流して私を抱きしめた。
「私は汚れてる。もう、死にたい」
「アイちゃんは汚れてなんかない」
「どうして私は獣人として生まれてきたんでしょ…」
「そんなこと、言わないで」
一刻も早くロッティを助けてやりたいんだけど、そうもいかないよね。計画が台無しになっちゅうから。セレンの計画は正直穴だらけだ。拠点の場所もきちんと把握してないのに、潜入させるなんて。まあ、桜子の言う通り、普通にライオンズハートに入ってすぐテロの時間と襲撃場所がバレたら疑われてしまう。そこで私は奴隷に紛れ込んでライオンズハートに拠点まで案内してもらう。ホレスは傭兵を沢山雇ってるからライオンズハートも簡単に手を出せない。明後日のパーティで誘き寄せるつもり。セレンも待機させておいた。こうすることで私が組織に入る前にセレンがすでに組織の動きを把握してたことになる。もちろん警備を薄くしてない。突破するのは難しいかもしれないが、私が疑われる可能性を少しても減らせるのなら仕方ない。ライオンズハートを期待するしかない。
ロッティ、許して、明後日までの辛抱よ。何より、私が来たことで、ホレスに犯されることもなくなる。
「アイ、ロッティ、希望を捨てるな。ライオンズハートがきっと助けに来る」
「ライオンズ、ハート?」
「そうだ、私達獣人の希望だ」
応援してくださった誠にありがとうございます。誤字報告は本当に嬉しいです。助けてくれたことに対して感謝の気持ちが一杯です。ですが、それより、この作品を好きでいてくれることがとっても励みになっています。これからも精一杯頑張ります。




