幹部編 第9話 前 咆哮でございますか?
この修道女、結構頭が良いかも。思えば、お守りを渡す時、魔法使いの子は疑ったけど、この子は疑うそぶりを見せなかった。なのに、お守りを持ってこなかった。
もし俺達5人が生きて戻れば、ランクアップは間違いないだろう。問題はこいつがバラすかどうかだ。まあ、始末すればいい。逃げられたとしても、俺は勇者の名を語ってお守りを渡したから勇者に罪を押し付ける。
何より、魔法石の魔力が尽きかけてるのは本当だ。このまま魔法使いと戦ったら、魔獣と戦う魔力は残らない。
「よし、乗った」
「ありがとうございます。では、魔法石に地面に置いて30歩くらい下がってください」
俺信用されてない?
「嫌だ。お前が取りに来い」
信じて貰いたいならまずこっちを信用しやがれってんだ。
「わかった」
俺は魔法石が入った袋を地面に置いた。拾う時俺を見えないようにな。修道女が取りに来た。修道女はゆっくりしゃがみこんで、髪をかきあげながら袋を拾った。こいつ、肝据わってやがる。切られるのが怖くないのか。俺はすでにお前の仲間一人を切ったんだぞ! 何故か生きてるが。
「いいだろう、信じてやるよ。勇者、選手交代だ」
「待って、僕はこいつを信用していない」
「ユアンさん、よく頑張りましたね。ちょっと休みましょう。もうボロボロじゃないですか」
「…」
「お前ら手を出すんじゃないぞ。あれは俺の獲物だ」
ついにこの時が来た。こいつと戦う為に、俺はどれだけ準備したのか。ふっ、ボロボロになったのは勇者だけじゃないのか。けっ! 勇者の奴め。鋭い切り口だ。俺の剣じゃそうはいかない…。くそ、負けてたまるかーっ! 傷口は魔獣の右に集中してる。左利きだな、勇者は。じゃあ、俺は魔獣の左だけを狙おう。
「うりゃ!」
全力の一撃でも鱗を剥いだだけか。くっ、やはり聖剣には敵わないか。が、心臓だけを狙えば倒せるはずだ 。こいつを倒せば勇者より強いだと証明出来る。避けて切って、避けて切って。鱗から肉、肉から骨の隙間。近距離じゃ俺に勝てないと気づき、魔獣は距離を取って、舌を伸ばして来た。直線攻撃なんて俺を当てるはずねえだろうが。返り討ちだ、舌を切り落としてやる。なんだ、舌は普通に柔らかいのか。
「キューっ!」
はは、もう咆哮しても声が出ないのか。
「危ない!」
修道女の声? うわっ、吹き飛ばされた、やはり裏切ったのか。違う、何これ? 地面が削れた? 俺は風に吹っ飛ばされなかったら跡形も残らなくなったのか。けっ、余計なことを…。助けられるくらいなら死んだ方だましよ! 覚えてろよ! 必ず殺すからな。
また先の技が来る。地面の痕跡を見れば直線攻撃。くっ、薙ぎ払うように撃てるんのか…。しかし、俺の靴に風の魔法石が埋まってる。高く跳べるうえに空中で方向転換出来る。まあ、空中での方向転換も、着地も俺しかできないから俺専用とも言えるが。このまま一気に距離を詰んで仕留める。と、おい、逃げるんじゃねえぞ!
「クッホ」
腹が、岩に貫かれてる。これは、土魔法? 修道女、て、テメェ! 裏切ったなぁ! 必ず化けで出るからな!