表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

3ページ

 青年は急いで引き返す。

「やめろ」

 近くにあった服がかかっているパイプを掴んで服ごと三人に投げつけた。それから二、三本のパイプを、かかっている服ごと投げつける。

 男達に服がかかり、男達は前が見えなくなって服を()き分けている。

 当然、由希子にも服がかかり、由希子も服を掻き分けている。

 青年は由希子の手だけを掴んで引っ張り出した。

「こっちだ」

 由希子の頭にハンガーが入った服が載っている。由希子は見る事もなくそれを投げ捨てる。

「ハンガーが頭に当たって痛いじゃない。ほかの方法は思い付かなかったの」

「考えてる暇なんかねぇよ」

 言い合いをしつつも由希子と青年の手はまだ繋がっている。青年が先にドアを潜り、由希子を引っ張る。

「早く来い」

 由希子も急いでドアを潜り、青年は由希子の後ろを見て、向かって来る男達を(さえぎ)るように急いでドアを押した。

 突然、手斧が突っ込まれる。突っ込まれた手斧がドアに挟まって完全に閉める事ができない。斧の刃が左右に回転して動きドアをこじ開けようとしている。ドアの隙間からは血走った男の目が覗いて由希子を見ている。

 由希子は目の前で動く斧の刃を見て叫んだ。

「きゃー」

「耳元で叫ぶな。力が抜ける」

 青年は必死にドアを押して、これ以上ドアが開かないようにしている。きっとドアの向こうでは三人の男が押しているに違いない。

 由希子は手で自分の口を押さえて(だま)った。分かったと(うなず)くが、ドアを押している青年には見えていない。青年は顔を真っ赤にしてドアを押している。だが、三対一では力の差は歴然。ドア向こうの三人に押し返されて、青年の踏み込んでいる足が床を滑って少しずつ後ろに下がりだした。

「ダメ、負けないで」

 由希子も一緒になってドアを押すが、女性一人の力が加わっても三人の男の相手にはならない。

 由希子と青年は押し返されて、ついに開いたドアから男が一人入って来た。手斧を持った男がである。

「こっちに来るな」

 青年は手斧を掴んで男を押し返し、男は由希子が押しているドアに挟まれた。

「いてぇー」

 痛みで男の力が抜けた時に、青年は男から手斧を奪い、足で男の腹を押した。

 手ぶらになった男はバランスを崩して体が後ろに傾く。すぐ後ろにいた、サバイバルナイフの男が倒れてきた男に気付く。ビックリ眼で男を掴んで支えるが、サバイバルナイフを持っていては両手が使えない。足で押されて勢いがついた男を片手で受け止めるが支えきれず、男を抱いたまま後ろでドアを押していたハンマー男に倒れ込んだ。ハンマー男はドアを押すのに必死になっていた事もあって、押している姿勢のまま顔だけが二人の男に向けられ、

「何をやっているんだ」

 と言った直後に事の次第に気付き、驚きの表情をした状態で倒れてきた二人とぶつかるようにして、三人は将棋倒しになった。

 青年は手斧を持って肩でドアを押して由希子と一緒にドアを閉めた。由希子はまだ必死にドアを押している。

「こんど来たら、どうしよう」

「騒ぐな」

 青年は由希子の不安を押さえ込むようにして言ってからドアに耳をつけた。ゴーという振動音に混じって低い男の声が聞こえてくる。

「斧を取られた」

「何やってんだよ」

「なぁに、相手はガキ二人だ。何もできやしないさ」

「そ、そうだな」

 どもっているのが、斧を取られた男だろうか。

「向こうの様子はどうだった?」

「壁と天井が燃えていた。ここまでの距離はまだあるけどな」

「待とう。ガキとはいえ手斧を持っている。下手な戦いは避けたほうがいい。なあに、待っていれば熱さに我慢ができなくなって、ガキの方からこっちに来るさ」

「焼け死んでくれるかもよ」

「そいつは困る。女は生き残ってくれないと」

「いやらしい奴だな」

「俺が? それは小娘の味を教えたこいつだろ」

「俺を指さすなよ」

 三人の笑い声が聞こえる。

 青年はドアに背をつけてもたれた。手斧を持った腕が力を無くしてぶら下がる。

「もうドアを押さなくていいよ」

「なんで?」

「あいつら、オレ達をあぶり出すつもりだ」

 青年はドアにもたれたまま床にしゃがんだ。ドアと背中の擦れる音がする。

「どうしよう。煙い」

 由希子は咳き込む。

「デパートの排煙(はいえん)システムが追いつかなくなってきているんだ」

 青年も咳き込みながら一呼吸すると立ち上がった。

「ねえ、どうするの?」

 由希子も立ち上がる。

「別のドアから行く」

「さっき鍵がかかっていたじゃない」

 由希子は青年について行きながら言う。

「これで鍵を壊す」

 青年は由希子に手斧を見せる。

「無理よ。壊す時の音があの人達に聞こえたら」

「距離をとればなんとかなる。例えあいつらに聞こえても、壊してすぐ走って行けばエスカレーターへ行ける。要は追いつかれなければいいんだ」

「無理だって。ドアだって壊してすぐに開くか分からないし」

「無理かどうか、やってみないと分からないだろ」

 青年は手斧を振り上げた。

「ダメだって」

 由希子は言うが、

「オレは何としてもここから脱出したいんだ」

 手斧は振り下ろされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ