23ページ
そして地獄で何回も聞いた輪廻転生の話。これも夢の中の話だったのだろうか。
「輪廻の輪に戻ったあの人は、現世では赤ちゃんとして生まれる訳だから、きっと記憶はリセットされて、私の事は覚えてないよね」
あれは夢だったと思いつつも、学校の図書館でちゃっかり輪廻転生を調べていたりする。
由希子は地下鉄の駅への階段を下りる。
「地獄もこうやって自由に行き来できればいいのに」
勝手都合な事を考えながら階段を下りていると、視界の端に白のシャツと青いジーパンが映った。由希子の瞳は見覚えのあるシャツとジーパン姿の男を見据える。
「あ!」
階段を下りる由希子の足が早くなる。
「夢じゃないかも」
男の胸には翡翠の曲玉もある。
「夢じゃない」
由希子が男の前に来た時、男は笑顔で口を開いた。
「よう、久し振り」
出会った時と変わらない姿の青年が壁にもたれて立っていた。
「なんでここに?」
青年は苦笑いを浮かべる。
「オレに刑を科したある明王が、事もあろうに厄介な悪鬼を現世に逃がしてしまってね。本来なら輪廻の輪に加わるべきオレだが、明王の依頼でその悪鬼を捕まえに来たって訳」
由希子の顔に笑顔が戻る。
「それ本当なの?」
「何を喜んでるんだよ」
青年の顔が険しくなる。
「オレが捕まえに来た悪鬼はあんただよ」
青年は由希子の腕を掴む。
「え!」
由希子の喜びが一変して恐怖に変わる。
「まあ、捕らえるのは涙鬼になって悪さをしてからだが」
青年は由希子を引き寄せると抱き締めた。
「それまでは、由希子を見守ってやれってさ」
由希子は青年に言われて眼に涙を浮かべる。
「そういう事は先に言ってよ。お願いだから」
全身の力を抜くと青年に身を委ねた。
終




