20ページ
今度は美形が四人。地面に素足がつくと早速由希子に近づく。
「この娘ですか」
「巫女にも見えませんね」
青年は口を開いた。
「おい明王、どういう事だ」
空から降りてきた四人は明王達のようだ。
童子の一人がどすの利いた声で言う。
「呼び捨てるとは、なんと無礼な!」
「よい」
明王の一人が手を肩まであげて、童子を制止する。
「いや不動君がね、この娘の事を言うのでね」
四人の明王はそう言って顔を見合わせる。
「あなた方は、私の決定が気に入らないのですか?」
と、今度は空から声がした。
由希子はまた空を見上げる。その声の主は一人で空に浮き、また光に包まれて降りて来る。
「あれが不動明王だ」
青年は由希子に言う。
由希子は地面に素足をつけた不動明王を見て「キャー、カッコイイ」と心の中で叫んだ。
不動明王は由希子に近づく。
「実は弥勒君から君を現世に戻すように頼まれまして。でも君はここにいる事を望んだ訳ですし、私達の間で君を現世へ戻すかどうか意見が分かれてね」
由希子が半信半疑で聞いていると、不動明王はにっこり笑顔になる。
「いろいろな意見が出ましたが、結局、ぼくが現世に戻すって決めちゃった」
四人の明王が不動明王の横に並ぶ。
「いつもの事ながら、その不動君の強引さ。なんとかして頂けませんか?」
「僕は不動君と同意見だよ」
「彼女を戻すなら、せめて地獄での記憶を消してからでないと」
「地獄に来た者を、輪廻の法則に反して、現世に戻すのはどうかと」
四人の明王は、まだ不動明王に意見している。
由希子は目が点になった。明王といえば威厳に満ちた神の姿が思い浮かぶ。だが、目の前にいる明王は美形のアイドルにしか見えないからだ。
神父が由希子に言う。
「あなたは、我が主だけでなく、ほかの神からも愛されているのですね」
「え!?」
由希子は神父の顔を見る。
「もしかして、私はパパとママの所に戻れるの?」
「そうみたいです」
神父は由希子と眼が合い微笑む。
「由希子さん」
今度は不動明王に呼ばれ、由希子は見上げる。由希子に不動明王の手が近づく。不動明王は、今から由希子を現世に戻すつもりのようだ。
「ちょっと待って。戻る前に、私、聞きたい事が」
だが、由希子の意識は遠退きはじめる。由希子は手を伸ばして不動明王の納衣を掴んだ。
「お願い待って」
この言葉を最後に、由希子は気絶した。




