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 青黒い鬼と炎鬼は激しい死闘を繰り広げていた。双方の剣が交わるたびに、水色とピンクの火花が散っている。

 炎鬼は剣を振り回すたびに嬉々とした声を上げて青年である青黒い鬼に向かって行く。

「お前は雷鬼(らいき)だな。炎鬼の力を手に入れてやっと分かったぞ」

 炎鬼は、雷鬼と剣を重ね合わせる。

「雷鬼よ、なぜあの女を守ろうとする? あの女を欲しがる理由はなんだ?」

「いらんと言ってるだろ」

「なら、お前の欲しいものは何だ?」

 炎鬼は雷鬼を押し返す。

 雷鬼は押し返されても踏み止まり、すぐに剣を突き出す。

「お前に答える必要は無い」

「力か?」

「うるさい」

 雷鬼の反応を見て、炎鬼はニヤリとした。

「力か。そんなに力が欲しいのか」

(だま)れ、その減らず口を封じてくれる」

 雷鬼の剣がまた太くなる。雷鬼と炎鬼の剣が交わった時、雷鬼の絶鬼の剣(ぜっきのつるぎ)の刃が、炎鬼の火邪の剣(かじゃのつるぎ)の刃に減り込んだ。

「こうなればお前のように、俺達も力を増幅して」

 そう炎鬼は言うが、何も起こらない。

「どういう事だ」

 炎鬼は驚愕(きょうがく)する。

「まさか! お前は鬼の気を吸収できるのか?」

「今頃気付くとは、炎鬼の能力を扱いきれんようだな」

 雷鬼は唸り声(うなりごえ)と共に剣を横に動かして、火邪の剣の刃を切断し、次に炎鬼の首を()ねた。眼を見開いた炎鬼の首が宙を舞い地面に落ちる。体は動きを止めて首の切り口から鮮血が吹き出す。吹き出す鮮血の勢いがなくなると体は地面にうつ伏せに倒れた。

 また、女性の声が由希子の耳に届く。

「炎鬼、消滅です。人型三体の御霊(みたま)の分解を確認。再構成のため、下層界へ強制転送します」

 炎鬼の死体は、光の(しずく)となって花火のように飛び散り、空や地面の中へ消えていった。

「はあ」

 雷鬼は大きく息を吐くと、青年の姿に戻った。破れた服は元に戻らず、ボロボロの状態で青年の体に辛うじてくっついている。

 野次馬は口々に雷鬼の勝利を(ささや)きながら青年を見ている。

 青年は救急隊員に囲まれている由希子の所へ行った。

「由希子、大丈夫か?」

 見ると、由希子は号泣していた。

「ここが地獄だなんて、私が死んでるなんて信じられない。しかも住人は全て鬼だなんて」

 救急隊員は困った表情をして由希子を(なぐさ)めている。

「まあまあ落ち着いて。ここは地獄といっても、世のため人のためにと心を鬼にして行いをしているうちに、相手の利益にならない行いをしてしまったり、過度にし過ぎて犯罪者になってしまったりと、罪の軽い者が来る所で、みなさん元は人だったんですから」

「地獄も区画整理が行われ近代化が進み、生前と変わらぬ生活ができますし、特にここは地獄といっても上層の浅い方なので、鬼でも人でも好きな姿で暮らすことが許されているんですよ。ただ、早く人に転生したいと願う者が多いので、人の姿で生活している者が多いですが」

「死んだのはショックだったかもしれませんが、ここで心静かに暮らして、現世で犯した罪を償えば輪廻(りんね)の順番が回ってきて、また人として生まれる事ができるんだし、そんなに泣かなくても」

「ママもパパも友達もいない。これから一人でどうしろっていうの?」

 ごく普通に暮らしてきた高校生の由希子にとって、死という現実は、家族や友人、家を失う事になり、地獄での今後の生活を考えなければならないが、先立つ物も無く、それでも、それらを全て一気に受け入れなければならず、由希子はパニックになりながら震える手で涙を拭い、何かよい方法がないかと必死に考えた。

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