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真紅の鬼は手を開いたり閉じたりして、新しい体の感触を味わい喜ぶ。
「やっと手に入れたぞ。お前と同じ、強大な鬼の力を」
真紅の鬼は、体の奥から込み上げてくる鬼の力を感じて、喜びの雄叫びをあげた。青黒い鬼に対して悠然と構え、手を空に掲げる。そこに、ピンクに光る剣が現れた。
「糞明王にも、馬鹿童子にも、媚びる事なく、この剣を手に入れたぞ」
またどこからか、女性の声がする。
「三体の鬼の融合を確認。過去の出現データ有り。炎鬼。邪鬼レベル。装備、火邪の剣です」
喜ぶ真紅の鬼を見て、由希子は余計に分からなくなる。
「どういう事。じゃあ、あの人も何体か集まった鬼ってこと!?」
あの人と言われた青年は、今は青黒い鬼になっている。黄金色の瞳で真紅の鬼を見た。
「融合か。厄介だな」
真紅の鬼は、青黒い鬼より背が高く、体格も大きい。それに呼応してか、絶鬼の剣の水色の刃が伸びて太くなる。
「よりによって邪鬼レベルの炎鬼になるとは。ただの鬼でいれば、人に戻れたものを」
「ふん、弱い人間になど戻りたくもないわ。手に入れたこの力で、お前を倒し融合して最強の鬼となり、至高の存在になってやる」
真紅の鬼は、青黒い鬼に火邪の剣を振り翳した。青黒い鬼は絶鬼の剣で受け止める。
「至高の存在ってなんなの!?」
由希子は両方の鬼の戦いを見守る事しかできない。
火事を見に来ていた野次馬は、逃げる事なく鬼の戦いを見ている。
「こんどはどっちが勝つのかしら」
「赤じゃないか」
「俺は、あっちの青いほうだと思う」
消防隊は鬼を避けるようにして消火活動を続けている。
由希子は、鬼の闘いを普通に受け入れている人々が異質なものに感じてならない。
「やっぱり、ここは変よ」
その反面、鬼の姿で闘う青年を受け入れたがっている自分もいる。
「お願い負けないで」
由希子は青年の剣が炎鬼に弾き返されるたびに応援した。
そこへ、鬼が離れた頃合を見計らって、救急隊が由希子の所に戻ってきた。
「救急車が壊れてしまったので、とりあえずここで応急処置をします」
救急隊員は由希子の応急処置をしていく。もう一人の救急隊員が記録機を持って由希子に近づいた。
「あなたの名前は?」
「広田由希子です」
そして血液型・年齢・住所の質問を受けて由希子は答えていく。
「血液型はA型。年は十七。住所は東京都足立区」
「東京じゃなくて、今の君の住所だよ」
「だから、東京都足立区が今の住所なんですが」
「それは本当なんですか?」
記録をしている隊員の手が止まり、応急処置をしている隊員の手も止まる。救急隊員はお互いの顔を見合わせた。




