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「置いていかないで。助けて」

 由希子は起き上がるが目眩(めまい)を覚えてストレッチャーに掴まる。

 救急車の上にいる鬼も地面に降りて由希子に近づく。

 目眩で景色が揺れていても、近づいてくる鬼の事は分かる。

「もうイヤ。なんなの、ここは」

 由希子はストレッチャーから足を下ろした。足の重みで体がストレッチャーからずり落ちる。そのまま着地をしてストレッチャーに掴まり足に力を入れる。だが、まだ立てず由希子は()いつくばった。砂利が膝に減(ひざにめ)り込んで痛いが、そんな事に構っている余裕は無い。とにかく逃げなければ、今度こそ鬼に捕まっていいようにされてしまう。

「あの人の所に」

 鬼の姿をしている青年を見た。彼はこっちに向かって来ている。青年も鬼だが頼れるのは彼しかいない、と由希子は思った。

 その由希子の前に、また別の鬼の足が落ちた。足だけの鬼。先ほど青年に切られたサバイバルナイフの鬼のものだ。その足の前に、上半身が落ちる。切れた腹からは、血が抜けきった白い内臓が見えている。上体を立て直し内臓を引き摺りながら、手だけで上体を移動させて由希子に近づいてくる。

 由希子は悲鳴と同時に顔を背けた。気持ち悪さに吐き気を(もよお)す。手で口を押さえるが、その手がないと這いつくばって逃げる事ができない。しかも青年の下へ行きたいが、その間には内臓を見せて近づいてくる鬼がいる。思うように移動ができず、どうすればよいのかと答えを探しているうちに、由希子は逃げ遅れた。

 胴体だけの鬼は由希子の左足を掴む。サバイバルナイフはもう無いが、だからといって由希子の恐怖が減る訳ではない。由希子は言葉にならない悲鳴を上げた。足を動かして鬼の手を外そうとするが、鬼がしがみついてくる。続いて下半身が歩いて近づき、切り口から内臓を見せながら、由希子の前に立ち(はばか)った。

「何を怖がる? さっき首を()めたら感じていたじゃないか」

 不気味な悪い声が、足元から聞こえる。由希子は、総毛だったあの感触を思い出し、無我夢中で立ち上がった。しかし、鬼が左足を引っ張り、また地面に手をつく。

「由希子、こっちだ」

 青黒い手が由希子を呼んでいる。人間ではない手を、由希子は迷わず掴んだ。鬼の青黒い肌は戦いの返り血でベトついている。由希子はもう離れまいと青黒い鬼に抱きついた。

 青黒い鬼は青年。青年は由希子の足を掴んでいる鬼を踏みつけた。由希子の足から鬼の手が外れる。由希子と青黒い鬼が眼を合わせた時、青黒い鬼は後ろから強い衝撃を受けた。よろけて片膝をつく。後ろからは首が曲がった鬼と右腕を失った鬼が来ていた。

 由希子は悲鳴をあげる。

 青黒い鬼は由希子を手放した。

「離れろ」

 そして手を空に(かか)げる。

絶鬼の剣(ぜっきのつるぎ)よ」

 青黒い鬼の手に、あの剣が現れた。

 水色に光る剣を鬼達は嫌そうに見る。

「また、その剣か」

 腕の無い鬼と首が曲がった鬼は手を繋いだ。融合して一体の鬼となる。融合した鬼は青黒い鬼を回りこむように歩き胴体だけの鬼とも手を繋いだ。下半身は自ら歩み寄り融合する。

 三体の鬼は融合により、体が倍に膨れ上がり背も伸びて、一体の真紅の鬼となった。

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