八話
宿
謎の敵による襲撃の翌日、明日奈は旅の準備をしている
「明日奈、この町から出るの?」
「ええ」
明日奈は前日の敵の目的を知りたいと思っている、だが敵の目的を知るにはこの町に居ても情報は集まらないだろうだから町を出るのだ、それに彼等を放っておけば元の世界に帰れなくなる気がするのだ
「メリア、着いて来てくれる?」
明日奈はメリアがこの町に残ると言うのなら無理は言わず自分一人でこのララネの町から出るつもりだ
「うん勿論着いて行くよ!なんだって私は明日奈のパートナーなんだから!」
メリアはそう言うと昨日のうちに詰めておいたらしいバックパックの中身を見せて来る、明日奈が中身を見てみると空間拡張魔法の掛けられたバックパックの中身は旅の道具や食料が沢山入っているのが見える
「ふふふ、準備万端ね」
明日奈はそう言って笑うと自分も準備を済ませバックパックを腰に付けて立ち上がる
「それじゃ、行きましょうか、私のパートナーさん」
「うん、行こう!」
そして二人は部屋から出た
ララネの町
部屋から出た二人は女将に挨拶した後宿を出てララネの町の入り口に向かって歩いている
「朝早いから誰も居ないわね」
「何時もはもう少し遅い時間に宿から出るもんね、こんな殆ど誰も居ないララネの町を見るのは初めてかも」
現在時刻は朝の六時、まだまだ朝早いという事もあり町には殆ど人は居ない、職場に向かうらしい者達が数人歩いている程度である
そんな町の風景を眺めているうちに明日奈とメリアは町の門に着いた、二人はそこで振り返りメリアは一ヶ月以上、明日奈は二週間お世話になった町を眺める
「明日奈、私ね?この町好きなんだ、だからまた来ようね?」
「ええ、また来ましょう」
そして明日奈とメリアは朝焼けが眩しい平原へと向かい歩いて行く
明日奈とメリアの長い旅はこうして幕を上げた
メリシア平原
メリシア平原があるメリシア地方は西に進めばフローロの森、ララネの町から北に進めば首都、南に進めばこの国で一番大きな港であるシラーラの港町、東に進めばアバカ鉱山地帯と繋がっているこの国の中心的な地方である
明日奈達はまずはフローロの森を越え西地方に向かう
「相変わらずのんびりとのどかな、平原よねぇ」
明日奈は広過ぎる平原を眺めながら遠くの方に見える商人に手を振る、すると商人は手を振りかえしてくれた
「そうだね、でももう少し時間が経つとすごーく暑くなるんだよね」
シーキア国は現在夏季である、何も遮る物が無いこの平原は昼になると物凄く暑い、その為この時期の商人は夜町を出て朝には次の町に着くようにし宿で休み、また夜に町から出て商品を運ぶのだ
「そう、だから暑くなる前に涼しい森に入っちゃいましょう」
「はーい」
明日奈とメリアはのんびりと森に向けて歩いて行く
フローロの森
このフローロの森を越えれば西地方、そして越えた先の幾つかの町や砦を越えた先にサボールという名前の都市がある
サボールは様々な物や人や冒険者が集まる都市でこの国では二番目に大きな活気ある都市である、そしてサボールにはこの国の冒険者ギルド本部がある
「取り敢えずは私達の最初の目的地はサボールって事で良さそうね」
メリアから貸してもらった地図を見た明日奈は目的地を決めるとメリアに地図を返す、二人は広大なサボールで前日ララネの町を襲った敵の情報とその都市に着く頃には世界脱出クエストを受けれるようになっている筈なので情報を集め終わった後は初めての世界脱出クエストを受ける予定である
「サボールに向かう為にはまずはこの森を越えなきゃね、でもこの森結構広いんだよねー、早くても越えるのに二日は掛かるって話だよ?」
一日歩き続ければ一日で越えることも出来るが
「そう、なら途中何処かで野宿をして休みましょう」
体力の事を考えると途中で野宿をしてまた次の日から歩き初めて森を越えるというやり方の方が良いだろう
「賛成、クタクタになるまで歩くのは嫌だもん」
メリアは内心今までは基本馬車での移動だった為野宿をするのは初めてで有りワクワクしている
「ふふふ、夜は私が美味しーいご飯を作ってあげるわね?」
お料理上手な明日奈は腕によりを掛けて夕食を作るつもりである、メニューは気分によって決める
「明日奈の料理か、楽しみ!」
そして二人は少し早足で森の中を歩いて行く
そして数時間が経ち、軽く昼食を食べた二人は森の中の一本道をテクテクと歩いている
「ねぇ明日奈、あれ食べれるかな?」
メリアは視界に入った蜜柑のような果物を指差し食べれるかどうか明日奈に聞く
「ホワイトローズどう?あれ食べれる?」
『少々お待ちをスキャンします』
便利なホワイトローズは果物をスキャンし果物の毒素や体に害が有る物が含まれて居ないか調べる事も出来る、そのスキャンはほぼ完璧なので信頼出来る、その為ホワイトローズが行けると言えばあの果物は食べれるし駄目だと言えば食べれない
『スキャン結果、あの果物はマスターの故郷日本で良く売られている蜜柑と成分的にはあまり変わらない模様、よって食べれます』
「メリア?食べれるってさ」
「本当?じゃあ採って来る」
メリアは明日奈の言葉を聞くとテテテと果物がなっている木に近付くと軽く蹴る、すると三個落ちて来たので拾い腕に抱えて持って来た
「はい、明日奈も食べるでしょ?」
「うん、頂くわ」
明日奈は蜜柑のような果物を受け取ると早速向いてみる、そして一応匂いを嗅いでみたがやはり蜜柑だ、明日奈はその匂いを信用し一房食べた
「うーん、蜜柑ね、美味しいわ」
食べると蜜柑特有の味がした、メリアは美味しそうに食べる明日奈の様子を見て自分も食べそして満足気な表情を浮かべる、どうやら美味しかったようだ
「美味しい、もうちょっと採って来ようかな?」
「良いわね、私もこれならもう少し食べたいし採っておきましょうか」
そして明日奈とメリアは二人合わせて二十個程果物を採りバックパックの中に入れた、この後腹を壊すことも無かったのでこの蜜柑のような果物は安全だったようである
魔物が出る事も無く二人は順調に森の中を進んで来た、だが時刻はホワイトローズによると夕方の六時そろそろ野宿出来る場所を探した方が良さそうだ
「そろそろ野宿出来そうな場所を探しましょうか」
「はーい」
暫く歩いた所で二人は川を見付けた、川の脇は石もなく平らな砂で寝袋で寝ても背中が痛くならずに済みそうである
「ここ良いわねここにしましょうか」
「うん」
二人は川原に近付くとバックパックを置き、まずは木の枝を集め始める、そして十分な量を集めると火を付ける、これで夜も寒い思いをせずに済むだろう
「水も有るし体も洗えそうね、さてそれではご飯を作ります、手伝って貰えるかしら?メリアさん」
「はい、手伝わせて頂きます、明日奈さん」
二人はこのやり取りが可笑しかったらしく互いにクスクスと笑い合った後、明日奈は自分のバックパックの中を見て中からパンとハムと野菜と調味料を持って来る
「それじゃメリアはニンジンの皮を剥いて貰える?私はハムを焼いて、メリアが野菜のニンジンの皮を剥いてる間にスープのベースを作っておくから」
「はーい」
メリアは明日奈から皮剥き器を受け取るとニンジンの皮を剥き始める、明日奈はその間に焚き火の上に足付きの少し大きな網を敷きその上にフライパンを載せ油を引く、そしてフライパンが温まり切るまでの間に鍋に川から水を掬い網の上に載せるそしてこちらも沸騰するまで待つ
そして鍋が沸騰するとコンソメを入れ、タマネギをみじん切りで切り始める、メリアが出来たよーと渡して来た皮を剥いたニンジンもみじん切りに切り鍋の中に入れる、明日奈が作っているのは簡単なコンソメスープである
そしてフライパンも十分温まったのでハムを焼き始める、これで後は待つだけだ
「楽しみ」
メリアは美味しそうな匂いのするコンソメスープとハムを見つめてワクワクが止まらないと言う様子である
「ふふふそうね、楽しみね、それじゃ私の鞄からお皿持って来てくれる?」
「うん」
この後ハムとスープは完成し二人は美味しくパンと共に食べた
現在二人は寝る前に川で水浴び中である、焚き火の上ではポットが沸いているその近くにはカップがあり水浴びで冷えた体を温める為のコーヒーもすぐ飲めるようになっているようだ
「ねぇ明日奈?」
「何?きゃっ!」
メリアは手に水を溜めてから明日奈を呼び体を手で擦り一日の汚れを取っていた明日奈がこちらを向くのと同時に水を顔に掛けた
「あーら、やる気?良いわよ」
水を掛けられた明日奈はメリアに水を掛け返した、メリアは反撃し明日奈もやり返す、二人は辺りに他人が居ないのを良いことに裸で水を掛け合う
「あーもう、その胸ムカつく!喰らえ!」
メリアは水を掛ける為に腕に振るう度にプルンと揺れる明日奈の胸を見てなんだか腹が立ち、揺れる胸目掛けて水を掛ける
「冷た!やったわね、あなたも喰らいなさい!」
明日奈もメリアの同じ部分を狙い水を掛けた、この後二人の水遊びは暫く続き、二人が辞めたのは同時に大きなクシャミをした時であった、夜で裸なのに水を掛け合いかなり体が冷えてしまったのである
「あ、明日奈、す、凄く寒い・・・」
「わ、私も凄く寒いわ・・・体、川から出て拭きましょう」
体が冷え切った二人は体を拭いた後、体が温まり切るまで互いに互いの身を寄せ合いブルブルと震えながらお互いの体を温めあった




