七十八話
???
明日奈は町か村を探しながら街道を歩いていた、まずはこの国がどの国なのか分からないと今後の方針を何も立てる事が出来ないので、まずは自分が今いる国が何処なのかを知る事が先決なのである。
「お尻痛い・・・」
寒さにはそれなりに強い妖狐である明日奈は今の気候は余裕であるが、後ろを見てみると二、三回転けた跡がある、寒さに強い妖狐でも歩き慣れていない雪の上では滑って転けてしまうようだ。
「・・・」
お尻を痛そうに摩る明日奈の狐の耳がピクリと反応する、どうやら近くで何かが動く音をその優秀な狐の耳が捉えたようだ。
立ち止まった明日奈は祖母に貰った神月を抜くと警戒し辺りを見渡す、狐の耳を澄まし、左右の林に何か動きがないか目で確認する。
「来た」
左から何かが来ると感じ取った明日奈は後ろに飛び退いた、すると左側から白色の毛並みの何かが目の前を通り過ぎ着地した、攻撃を外した白色の獣はこちらを向きグルルと唸っている。
「アイスウルフね」
明日奈は何回か見た事があるアイスウルフの特性上、何匹か近くに潜んでいるのだろうと予測すると胸に手を当て歌う準備を始める。
『私に敵の居場所を見せなさい!探知の歌!』
力を持った声で歌を歌えば明日奈が望んだ効果が発生する、その能力は明日奈が強く思えば思う程強くなる、そして今回の探知の歌では敵の居場所を確実に明日奈に見せてくれるのだ、今、明日奈の目には隠れているアイスウルフの居場所が白い炎のような姿で全て見えているのだ。
『炎よ!槍となって敵を刺し貫きなさい!炎の歌!』
そして歌を攻撃に使う際は歌の最初と最後に使いたい属性を含ませるとその属性となる、今回の歌は炎の歌、つまり炎属性の攻撃が発動する。
明日奈の歌により発現した炎の槍は明日奈が腕を振るうと隠れているアイスウルフ達に向けて飛んで行く、キュウンと声がしたと思うと明日奈の瞳に映っていた白い炎が一斉に消えた、どうやらアイスウルフ達は目の前の一匹を残して全滅したようだ。
「後はあなた」
『雷よ!私の刀に雷撃の力を!雷の歌!』
雷の歌により明日奈の刀に雷撃の力が発現した、歌が無事に使えると判断した明日奈は、残った一匹のアイスウルフに向けて駆け出し一気に距離を詰めると一撃で斬り伏せた。
「ふぅ」
明日奈は自分の歌の力に自分でも驚きながら刀を鞘に戻すとまた歩き始めた。
???ミミッチ村
アイスウルフとの戦いを終えた明日奈はあれから5回ほどお尻に痛い思いをしつつようやく村を見つける事が出来た、村の入り口にある看板に近付くと看板を読んでみる。
「ミミッチ村、何か宝箱の魔物みたいな名前ね」
明日奈は九本出している尻尾をユラユラと揺らしながら村の中に入って行く、そして宿を見つけると中に入る。
「こんにちは、部屋を取りたいの、空いてる?」
「空いてるよ、500ゴールドだ」
明日奈は安いわねと思いながら宿代を払った、そしてこの村に来た目的をこの宿の店主で果たす事にする。
「ねぇ、観光でここまで来たのだけれどこの国の名前忘れちゃったの、この国って何て言う国なんだっけ?」
明日奈は敢えて自分が旅をしている国の名を忘れてしまった観光客のように振舞ってこの国の名を聞いた。
「サムロット王国だ、観光客さん」
「そうそうサムロットね、思い出したわ、ありがと、それで私の部屋は何号室?」
「1だ」
「はーい」
この国の名前と部屋の番号を確認した明日奈は二階に登って行く、そして部屋の中に入ると早速地図を開きサムロット王国の場所を確認する。
「ここがサムロット、この前まで旅してたシラーラがここか・・・」
サムロットの場所を確認した明日奈はこの国がシラーラの北であることを確認する、そして次にこのミミッチ村の場所を確認するとこのミミッチ村がこのサムロットの最北端近くに位置する事も確認出来た。
「取り敢えず南に進むとしましょう、この国の最南端にリチャナって港があるみたい」
今後向かうべき場所を地図で確認し終えた明日奈は刀だけは腰に差して部屋を出た、そして宿の店主に外に出ると言ってからミミッチ村を歩く。
(魔導通信機が有ると良いのだけれど・・・)
次に明日奈はこの世界に戻って来たことをシラーラのギルドマスターに知らせる為魔導通信機が無いか村人に聞く事にした、そして道を歩く一人の村人を見付けたので近付き話し掛ける。
「あの」
「ん?何だい?」
「この村に魔導通信機はあるのかしら?」
「魔導通信機?隣町にならあるけどねぇ、この村にはないよ」
「そう、ありがと」
村人との会話を終えた明日奈はこの村に魔導通信機が無いと知り落ち込んだが、すぐに気を取り戻しこの村の服屋に向かう、寒冷地用の服は上着を含め一着ずつしか持っていないので買い足すのだ。
(後は食料ね)
服屋で買ったニット帽を被った明日奈は食料品店に向かい食料を買い込むと、宿に戻った
宿
夜、お風呂に入り眠くなるまでの時間お暇な明日奈はベットの上でゴロゴロしていた。
「はぁホワイトローズって良い話し相手だったのね・・・」
こうやって一人でいる時は明日奈はホワイトローズとの会話を良く楽しんでいた、しかし今はホワイトローズはメリアの元にある、その為話し相手が完全に誰もいない
「しかもこういう日に限って眠くならないし・・・」
暇な明日奈は暗くしたら眠くなるだろうとランプに灯った火を消す、そして目を閉じて眠ろうとしたが、窓の外に広がる世界がチラリと目に入り、窓の方に歩いて行く。
「わぁ、キレイ・・・」
窓の向こうの世界は雲の合間から覗く月に照らされたキラキラと光る雪がとても美しい光景だった。
明日奈はそんな美しい光景に暫く見惚れていると眠くなって来たので、布団に入って眠る。




