五十五話
妖狐の里
白里の部屋から出た明日奈は里で暮らす妖狐達の様子を自分で見てみたいと思い、屋敷から一人で出た
明日奈は里の中心に向かって歩いて行く、中心に来ると住民達が笑顔で手を振ってくれた、明日奈も笑顔で手を振り返す、一人の老婆が近付いて来ると話しかけて来た
「姫様、どうかこの私の手を握って下さいませんか?」
「ええ」
明日奈は何故老婆が手を握って欲しいのか分からなかったが老婆の手を握る
「ありがとうございます姫様」
「良いのよ」
「姫様、この老い先の短い私には叶わぬ事かもしれませんが、必ずこの里の者達をこの世界の外に連れ出して下さいませ」
老妖狐は明日奈の手を強く握ると明日奈の瞳をしっかりと見てその思いを伝えて来た
「ええ、必ずこの世界をこの次元の狭間から連れ出して見せるわ、約束する、だからお婆様も老い先が短いなんて言わずに長生きしてね?外の世界でお婆様に元気に暮らして欲しいもの」
「ふふふ、そうですね姫様、長生きしてみせましょう」
老婆は明日奈の言葉にイタズラっぽく笑うと頭を下げて去って行った、明日奈は老婆の背中を見送った後、また里を歩いて行く
里を歩く明日奈は里の子供達が集いその実力を高め合う為の鍛錬場にやって来た、木剣や木槍をぶつけ合う音が鍛錬場に響いている
「皆強そうね、白花もここで練習していたのかしら?」
明日奈は鍛錬場に入る、一番最初に気付いた子供が明日奈がやって来た事を他の子供達に伝えた、すると子供達は一斉に明日奈の元に集まって来る
「姫様だ!」
「綺麗!」
「何しに来たの?」
などと一斉に話しかけて来る
「そうねぇ、あなた達と遊びに来たのよ」
本当はただ気になってやって来ただけなのだが、明日奈は遊びに来たと伝えた
「本当!?」
「何して遊ぶ?」
「ふふふ、何でも良いわよ」
明日奈の言葉を聞いた子供達はガヤガヤと何をするか話し始めた、数分後意見がまとまったようで子供達の中でも一番年長者らしい子が近付いて来る
「それじゃあ私達と試合してくれませんか?姫様はお強い筈ですし、私達の鍛錬の参考になると思うのです」
鍛錬とは子供達は意外と真面目なようだ
「良いわよ、やりましょう」
明日奈は子供達の頼みを快く引き受けた、この後鍛錬場に剣や槍をぶつけ合う音が一つ加わったようだ
白里の屋敷
翌日、明日奈達は里を出る為山を降りる方に続いている門の前に立っている
「それじゃ白里さん、私達もう行くわね」
「はい、それで一つ頼みがあるのです」
どうやら白里は明日奈に何か頼み事が有るらしい
「何?」
「白花も姫様方の旅に同行させて頂きたいのです」
「白花を?」
「はい」
白里の頼み事とは白花を明日奈達の旅に同行させて欲しいとの物のようだ、明日奈としては白花ともっと仲良くなりたいと思っていたので良いのだが
「何故白花を私達の旅に連れて行って欲しいの?」
そう、理由も知らず白花を同行させる訳にはいかないのだ、だから明日奈はその理由を聞く
「はい、一つは姫様のお側に誰かを付けておきたい、二つ目は私の娘にもっと外の世界を知って欲しい、これが理由です」
「そう、白花も私達と行きたいの?」
明日奈は白里の白花を連れて行って欲しい理由に納得し最後に白花の意見を聞く
「はい、私も行きたいです、ずっと里の外に出て外の世界を見てみたいと思っていましたから」
「そっか、なら一緒に行きましょう、よろしくね白花!」
白花の言葉を聞いた明日奈は笑顔で白花に手を伸ばす
「はい姫様!」
白花も笑顔で明日奈の手を取った、こうして明日奈達の仲間に白花が加わった
「それじゃもう行くわ、白里さん」
「はい、またのお越しを楽しみにしております姫様、メリアさん、シュルクさん」
明日奈とメリアとシュルクに別れの言葉を告げた白里は白花に近付き白花を抱き締める
「白花、怪我をしないようにして下さいね?風邪も引いてはいけません、姫様をちゃんとお守りするのですよ?」
「分かっていますお母様、ふふふ、それ昨日も聞きましたよ?」
前日白里が白花を部屋に呼んだ時白里は同じ事を言っていた、なので白花はクスクスと笑ってしまう
「ふふふ、そうでしたね、それでは行ってらっしゃい白花、私の可愛い娘」
「行って来ますお母様、私の大切なお母様!」
抱きしめ合っていた二人は離れると別れの言葉を伝え合う、そして白花は母に背中を向け二人の様子を少し離れた所で見守っている明日奈達の元に歩いて来た
「それでは皆様、行きましょう!」
新しい仲間に白花を加えた明日奈達は山を降りる為山道を降りていく




