三十話
アンダーワールド、ダーマフィール山脈
無はアンダーワールドにやって来ていた、この世界に自身の部下の一人が眠っているのだ。
「目覚めよ、我が龍よ」
無が石となっている龍に声をかけると石が割れて行き、赤い鱗が見えてくる、やがて全ての石が剥がれると、龍は立ち上がる。
「ガァァァァァァ!!」
立ち上がった龍は目覚めの咆哮を上げる。
「ククク、良くぞ目覚めたなグングニルよ、また我の為に働いて貰うぞ?」
「グルル・・・」
無は目覚めた龍に向けて手を伸ばす、すると龍は親愛を込めた動きで無の手に自分の顔を当てた。
アンダーワールド、タチの町、冒険者ギルド
明日奈はアンダーワールドの冒険者ギルド本部のギルドマスターに呼び出され、メールが来た時にたまたま紫龍機関に居た為明亞と共に、アンダーワールドのタチの町にやって来ていた、ギルドの入り口前で同じく呼び出されていた、族長になる為の修行中の白花と落ち合う。
「こんにちは、白花、何かあったの?」
「それはギルドマスターがお答えします、此方へ」
「分かった」
明日奈と明亞はギルドマスターの部屋に自分を案内して行く白花に続いて、階段を登って行く。
ギルドマスターの部屋
「お久し振りですね、明日奈さん、お座り下さい」
ギルドマスターは部屋に入って来た明日奈を見ると椅子に座るように促す、明日奈はギルドマスターに一度頭を下げてから椅子に座る。
「此方こそお久し振りです、それで何かあったの?」
椅子に座った明日奈は早速本題を聞く。
「はい・・・先日、ダーマフィール山脈の石龍の遺跡から、龍の咆哮が聞こえたのです、そして赤いドラゴンが飛び去って行くのを、近隣の住民、特に白花さんの里の方々がその姿を目撃しました、ですよね?白花さん」
「はい、私は確かにドラゴンを見ました、姫様」
白花は外で薪割りの作業をしていた、すると咆哮が聞こえて来て、ドラゴンが飛び立つのを目撃した、その姿を見た白花の体には震えが走り、悪寒も感じた。
「そう・・・」
明日奈は思う、今そんな者を目覚めさせるのは無しか居ないだろうと。
「私達はドラゴンが飛び立った石龍の遺跡を調査したいと思っています、しかし何があるか分からない遺跡に半端な実力の者を向かわせる事は出来ない」
「そこで私の出番って訳ね?分かったわ、行ってくる」
ギルドマスターの考えを読んだ明日奈は立ち上がると石龍の遺跡に向かうと言った。
「私もお伴します、姫様」
「分かった、早速行きましょう」
「はい!」
明日奈と明亞と白花は石龍の遺跡に向けて転移して行った。
石龍の遺跡
石龍の遺跡にやって来た白花はその変わり様に驚いた表情を見せる、里の者が偶にやって来ては掃除をし、綺麗さを保っていた遺跡が、大きく崩れているのを目撃したからだ。
「姫様・・・」
「ええ、白花、ここから出て行った奴は相当デカイようね」
遺跡の中に入った明日奈達は天井を見上げると、何かがぶつかり破壊しながら飛び立って行った様子が想像出来る崩れ方を天井がしていた、この事からドラゴンは相当デカイのだと予想出来る。
「かなり嫌な魔力を感じます、混沌に沈んで行くような、悪い魔力を・・・」
この遺跡の中に流れる魔力を感じた明亞は気分が悪そうな表情を見せる、明日奈も白花もこの遺跡の中では不快感しか感じない。
「そうね、かなり嫌な魔力だわ、それに無の呪力を感じる、そのドラゴンを復活させたのは、無で間違い無さそうね」
明日奈はこの遺跡の中に流れる嫌なドラゴンの魔力の他に、無の呪力も感じた。
「つまり、彼は強大な力を更に手に入れた、と言う訳ですね?」
「恐らくはそうなるでしょうね」
(・・・この子達、喋り方も声も似てるから、顔を見てないとどっちが喋ってるのか分からないわね・・・更に鈴が加わったらどうなるのかしら?)
明日奈はそんな事を思いながら、遺跡を歩いて回る、するとドラゴンの形となっている、石が所々に落ちているのを発見した。
「これが、ここで眠っていたドラゴンを覆って居たのね、この遺跡に流れている魔力を、この石の殻から強く感じるわ」
「この遺跡の悪い魔力、浄化しておかないと、近隣に悪影響を与えてしまうかもしれません」
「そうね、光よ、浄化の力となり、この遺跡を癒しなさい、浄化の歌』
ホワイトローズからこの遺跡の魔力が近隣に悪影響を与えてしまうかもしれないと聞いた明日奈は、立ち上がり胸に手を当てると、浄化の歌を歌う。
「姫様、綺麗です」
「そうですね」
歌を歌う明日奈は美しい、明亞と白花はその姿と歌声に見惚れた。
「ふう、こんなものかしら?」
「Yes、全ての悪い魔力の浄化を確認出来ました」
明日奈が歌を歌い終わるとこの遺跡の嫌な魔力は全て消えていた、これで近隣に悪影響が出る事は無くなった筈である。
「ありがとうございます、姫様、ここの整備は里の者達にお任せください」
「うん、お願いします、さて、調査はこれで終わり、町に帰りましょう」
「はい!」
そして明日奈達はタチの町に向けて転移する、ちなみに最後の返事は明亞である。
ギルドマスターの部屋
「どうでしたか?」
ギルドマスターは帰って来た明日奈達に早速遺跡の様子について聞いて来た。
「遺跡は大きく崩れてた、ドラゴンが復活したのは間違いないわ、そしてそのドラゴンを復活させたのは、無で間違いないと思う」
明日奈は遺跡の様子とドラゴンの復活と復活させた者の予想をギルドマスターに話した。
「無・・・この世界をおよそ十ヶ月後に無に返そうとしている者ですか・・・」
「そうよ」
明日奈はギルドマスターの言葉に頷く。
「ドラゴンの行き先は分かりそうですか?」
「分からないわね、無は毎回、転移した際の行き先の痕跡を消している、だからいくらこちらが行き先を探ろうとしても分からないの」
「そうですか・・・」
明日奈は無の呪力を感じるたびに無の行き先を探っているが、分からない、その為無の居場所を知る事が出来ていない。
「とにかく、私はワールドセイバーにこの事を報告する、あなたはこの世界のみんなに警告を出しておいてくれる?」
「分かりました」
明日奈はギルドマスターの返事を聞くと部屋から出る、そして明亞に近付くと耳打ちをする。
「明亞は紫龍機関に報告を」
「分かりました」
明日奈の頼みを聞いた明亞は早速紫龍機関に向けて転移して行く。
「それじゃ、またね?白花」
「はい」
明日奈も白花に手を振ると、ワールドセイバーに向けて転移して行った。




