二十五話
第3の遺跡
夕方、時間的にこの三つ目の遺跡がこの日回れる最後の遺跡となるだろう、明日奈は早速壁に触れ遺跡の中に入る。
「・・・魔物は?」
「確認出来ません」
明日奈は通路に入った所で立ち止まり、この先にあるスペースに魔物が居ないか確認する、するとホワイトローズがサーチしてくれて、この先に魔物が居ないのが確認出来た。
「そう、なら安心ね」
魔物が居ない事を確認した明日奈は安心して先のスペースに向かう。
「キャアア!」
そしてスペースに来るなり悲鳴を上げる、何やら白い影が居たのだ、幽霊などが苦手な明日奈はそれを見て尻尾の毛を逆立て、耳をペタンとさせる。
「初めまして、久城明日奈、時の神よ」
そして白い影ははっきりとした人型の影となると明日奈に向けて話しかけてきた。
「・・・お化けじゃ無いのね、あなたは誰?」
明日奈は人型の影に対し何者か聞く。
「私は創造神、この多重世界を作り上げた者、名はイブと言います」
創造神イブはそう言うと明日奈に近付き明日奈の頬に触れようとするが、触れる事が出来ず悲しそうな表情を見せる。
「へー」
明日奈はいきなり物凄い存在が現れ理解が追い付かずへーとだけ言う。
「そして無の本当の名はアダム、私と一緒にこの世界を作り上げた者」
世界に突然現れた黄金の園と言う場所にある世界樹から産まれた、イブとアダムは世界を作り上げた後に生物を作りその進化を見守っていたのだ。
「アダムは最初は知恵を持つ存在である、あなた方人間の誕生を喜び、人間たちの元に向かい知恵を授けたりもしていました、そして我々の元に一人の子が産まれた、それがあなたの祖母、サクラです」
「お婆ちゃんがあなたの・・・」
明日奈はイブが桜の母だと聞きその顔をしっかりと見る、すると確かに桜にそっくりであり、自分にも良く似ていた。
「はい、そして私達は成長したサクラを下界に送り出し、サクラが人々と触れ合いそして彼等のリーダーとなり、導いて行く姿を見守っていました、しかしある時サクラに悲劇が起こったのです」
「悲劇?」
明日奈は思う大好きな祖母である桜にどんな悲劇が起こったのかと。
「サクラは産まれながらの神でした、そして人々はサクラに初めから何か違和感を感じたのでしょう、人間達は自分達を導いてくれていた存在である、サクラを拘束し、拷問したのです」
「!」
明日奈は過去の桜が人に拷問を受けたと聞き、驚く。
「しかしサクラは人々に拷問されても優しく笑い、許し続けました、人々はそんなサクラに恐れをなし、彼女を貼り付けにし、その命を絶とうとした」
明日奈は分かった、なぜアダムが無になったのかを、そしてイブの口からその理由が語られる。
「アダムはそれに対し怒り、怒りはアダムを悪に染めた、彼は無となり世界を消し去ろうとした、私は正直、サクラを拷問した人間への愛情など失せていましたが、愛すべきこの世界を守る為アダムと戦い、辛くも封印したのです、しかし私も体を失い魂だけの存在となってしまいました」
「・・・」
明日奈は思う、無の存在こそ人間の大いなる罪だと、そして自分もその罪を背負っているのだと。
「しかし無となったアダムの力は私を超えていた、数年後彼は復活してしまったのです、体を持たない私はアダムと戦う事も封印する事も出来ない、だから私は心の傷を治し、天上神として神々を導いていたサクラに歌の力を与えた、それが無の巫女の使命の始まりです」
魂だけの存在となったイブから歌の力を授かった若き日の桜は無事、父を封印の歌で封印した、そして桜は数千年の間、無の巫女としての役目を果たしていた。
「桜は無の巫女としての役目を果たし続けていました、しかしやがて無の巫女としての力が弱まり、消え失せようとしていたのです、もうアダムを封印出来ないと感じた桜は、力の相続が出来るように無の巫女としての最後の力を多重世界に放った、これが無の巫女の力の相続の始まりです」
桜が無の巫女としての力を放った数十年後、無の巫女の力を引き継いだ子が産まれた、その子はやがて無の巫女としての力に目覚める、桜はその子の元に訪れ力の使い方を教えた、そしてその子は無事に無の封印を成した。
「そして何の因果か、無の巫女の力は私の子孫でありサクラの子孫であるあなたに引き継がれた、そして恐らくはあなたが最後の無の巫女となるでしょう」
明日奈はイブの言葉の意味を理解している、これまで無は無の巫女達が封印し続けてきた、しかし明日奈の代でその封印が途切れた、つまりは明日奈が無を倒し、必ず最後の無の巫女とならなければならないのだ。
「私はやはりもう人を愛する事は出来ません、しかしあなたは愛する事が出来ます、だからお願い、アダムを終わらせてあげて、頼みます、我が子孫よ」
イブは明日奈に愛おしそうな表情を向け、もう一度その頬に触れようとするが触れられず悲しそうな表情を見せ、涙を流す。
「分かりました、私が必ずその役目を果たしてみせます、最後の無の巫女として!」
明日奈は強い瞳と強い声で必ず最後の無の巫女としての役目を果たすと、イブに伝える。
「はい、頼みましたよ、明日奈ちゃん、さて次にそのパーツの説明をしましょう」
イブはそう言うと台座に置かれている、三つ目のパーツの元に向かう。
「これは、私が先の時代の為に作り上げた、神器、これを完成させればアダムに傷を付ける事が出来るようになる筈です」
「・・・」
明日奈はイブの話を聞きやはりと思う、そして希望を感じる、これを完成させれば無に勝てるかもしれないと。
「そしてこれはホワイトローズ?あなたの本当の鞘です」
「私の?」
「はい」
いきなりイブに話を振られそしてこのパーツが自分の本当の鞘だと言われたホワイトローズは戸惑う。
「ホワイトローズ、あなたは私がこの神器を完成させた後、神器の制御パーツとして体を失っていた為、仕方なく人間に作らせた剣、人間達はどうやらあなたを完成させるのに長い時をかけ、そして最初は何故か魔剣として完成させたようですが、明日奈ちゃんのおかげで無事聖剣となったようで安心しました」
「ホワイトローズ、あなたの使命は、アダムの殲滅、明日奈ちゃんと共にその使命必ず成し遂げなさい」
「それが私の使命・・・分かりました、イブ様、私、ホワイトローズは必ずマスターと共にその役目を成し遂げてみせます」
イブから使命を告げられたホワイトローズは、必ずその使命を果たすと誓う。
「頼みましたよ、それでは私は一度眠りに就きます、次は神器を完成させた時に会いましょう、明日奈ちゃん、ホワイトローズ」
「うん!」
「はい!」
そしてイブは天に昇り消えて行った、それを見送った明日奈とホワイトローズは頷き合い、拳を合わせ合うと、三つ目のパーツを回収し、遺跡を後にする。
天上界、桜の館
桜は見ていた母と明日奈のやり取りを、そして明日奈がここにやって来た事も見ていた為、涙を拭き、明日奈を迎える。
「・・・」
「明日奈ちゃん?」
部屋に入って来た明日奈は何も言わずただ立っている、桜はそんな明日奈に声をかける、すると明日奈は何も言わず桜を抱き締めた。
「明日奈ちゃん?」
桜は明日奈の柔らかい胸の感触を感じながら孫の顔を見上げもう一度、声をかける。
「お婆ちゃん、いつもありがとう、大好きだよ」
すると明日奈は優しく微笑み、更に桜を強く抱き締める。
「ふふふ、ありがとう、明日奈ちゃん」
明日奈の優しさを感じた桜は明日奈の胸を借り涙を流す。
今の明日奈の姿を見た者はこう思うだろう、金色の女神、と




