王女7
思えば、最初から疑うべきだったのだ。
私がアントワーヌの体に入っているならば、アントワーヌ自身はどこにいったのか。
まず第一に考えるのは簡単なことだ。
シルヴィに、だ。
シルヴィの中にアントワーヌが入っているとすると、今のシルヴィはアントワーヌ自身が操っている。
なんてことだ。なんの冗談だ。
あの時見た目、アントワーヌの憎しみ、嘲笑がこもった目が私の第六感に告げる。
あいつは、危険だ、と。
ならせめて、ここは最善の選択を。
プロローグ通りになどさせない。私は、私の意思を持たなければ。
王女として、『私』として。
「あら。罪人の貴方が、このような晴れ晴れしい場所に来ること自体が罪なことだとは思わなかったのでしょうか。でも、それほどの行動をおこしたのですから、何か他に目的があったんじゃありませんこと?」
「いえ、只々、この国の至宝と謳われる殿下のお姿を見たいがためで、ございます。」
「っ、でも、……そう。」
…一体何を言いたいのかしら?
まるで何か、アントワーヌが他に目的があるように言わせたいみたいな……。
その時。
「シルヴィ様!」
「っ‼︎ソ、ソレイユ様…!」
聞き慣れた声が、慌ただしい足音と共にこの場におりる。
って、なんで、今、この場に、ソレイユがくるのよ、あの役立たず‼︎
「一体なんですかこの騒ぎは…シルヴィ様の護衛騎士が慌てて知らせに来たので、一体何事かと…っと、アントワーヌ嬢?」
礼をしたままの私を見て、驚いた役立たずの声が聞こえる。
あーそういえば、ゲームでもソレイユはあらわれていた。
本当にここは乙女ゲームの世界なのだと、変に実感していると、ここからでも、アントワーヌの変化が感じられた。
「あ、あああのっ、ソレイユ様!私はなんともありませんのでっ、は、早く会場へまいりましょうっ‼︎ねっ!」
明らかに焦ったような口ぶりだ。
もういいかと思い、顔をあげると、ソレイユの手をひくシルヴィの姿をしたアントワーヌがいる。
……なんて、みっともない。
ソレイユ・バンガロールはバンガロール公爵の嫡男、そしてアントワーヌの従兄弟にあたる。
ゲーム上の設定では、アントワーヌに唯一優しくしてくれたという理由で、アントワーヌが慕っている人物であり、今回の元凶でもある。
ソレイユは、私、シルヴィ王女の話し相手として、城にあがり、それ以来幼馴染のような付き合いのまま、今回、私の護衛騎士に就任したのだ。
それをソレイユが好きなアントワーヌが聞き、今回の行動をおこしたらしい。
私のソレイユ様を返してよ‼︎
……と。
まぁ、たった1人の監禁生活の中、ソレイユに依存してしまう気持ちもわからなくもないが、あの利己主義な男が無理駅でそんなことをするとは思えないので、
残念ながら、ソレイユに騙されたアントワーヌに同情の余地はない。
王女に叫びまくり、不敬罪ではいさよなら、だ。
まぁ、ゲームではアントワーヌの執念は凄まじく、いくらシルヴィから離されても何度も何度もあの手この手でソレイユを取り戻そうとするのだが……。
もはやヤンデレねぇ…。
そんなオオカミに狙われた羊ちゃんなソレイユは困惑した表情のまま、アントワーヌに手をひかれている。
それはそうだろう。普段の私だったら絶対にしない。
こんな大勢の前で王女の仮面を取り、あまつさえ護衛騎士の手をひくなど。
アントワーヌである私の眉が次第に歪んでいくのが感じられる。
二人の姿を私が目でおうと、
式が始まる会場へと続く扉に入る手前で一瞬、ソレイユの蜂蜜色の瞳と一瞬だけ、視線がまじわった。
……気がした。
…だって前髪長すぎて、前が碌にみえないんですもの。